時を越えた歌本の記名スペース。6年間どころじゃなく重宝している。

財津和夫の『切手のないおくりもの』は、気付いたらなんとなく知っている曲だった。

どこで初めて触れて知ったのかもはや覚えていないのだけれど、『新版 歌はともだち《カラー版》』(教育芸術社、1983年)にも掲載されている。この本は私の小学校の音楽の授業で使われていた。どういうわけか、現在手元にあるのは5歳上の兄が同じ小学校で使っていたものだ。彼のフルネームがひらがなで、裏表紙の内側の記名スペースに書き込んである。

きれいな順次進行を大部分にした滑らかで歌いやすいメロディで、うるっとする歌詞。

http://www.utamap.com/viewkasi.php?surl=F01127

歌詞の“○○○…あなたへ”の○○○…の部分が番ごとに変わる。世界中にいるであろうあらゆる人が、あらゆる“あなた”に向けて歌うことができる。広く一般に歌われることを想定して作曲したのかもしれない。Wikipediaを見たら『You Are My Sunshine』のような曲を、というオーダーのもとにつくられたのだとか。なるほど、すごくわかる。

シンプルなようでいて、滑らかで綺麗な順次進行のうしろでは、なかなかコード進行が工夫されている。ディミニッシュやⅤマイナーなどを織り交ぜて響きを変化させる。ベースラインも転回形(分数コードとも)を含めて半音進行や順次進行させるなど、音楽的な趣向が凝らされている。が頭の中に再生しているのは、1996年の再リメイク版か。女声のコーラス入りのもの。
この曲が私は大好きで、ローカルなおまつりや小さな無料のイベントで何度も演奏した。聴き手を選ばないから、重宝した。最近は新型ウィルスの影響でそうした機会もすべて失ったけど。

財津和夫『切手のないおくりもの』の最初の発表は、テレビ番組の『歌はともだち』(NHK、1977年)。1978年には『みんなのうた』で放送された。反響を繰り返したロングヒットだ。そうやって、いくつもの機会に渡って浸透した曲だからか、私の中でも「気付いたら知っていた名曲」だった。

そうしたこともあってか、私は財津和夫率いるバンド・チューリップをろくに聴いたこともないうちから『切手のないおくりもの』を認知していた。未だにちゃんとチューリップを通っていないなと思って、今朝再生したアルバム『魔法の黄色い靴』(1972年、東芝音楽工業)。これが私に刺さった。これがそう、なんたる「ビートリー」さか。表題曲から想起するのはThe Beatles『Hello, Goodbye』で間違いない。チューリップをちゃんと通っていなかった私は、財津和夫に「和製ポール・マッカートニー」なんて通り名(キャッチコピー?)があることも知らなかった。確かに、ポール・マッカートニーを思わせるメロディ・ハーモニーの甘美さ、アレンジメントや歌詞の強烈なフック。もう、敬愛が全面に出ている。これほどまでとは知らなかった。感服のリスペクトとオリジナリティ。

財津和夫は福岡出身で、LIVE & 喫茶 照和に出演した人でもある。井上陽水、武田鉄矢、甲斐バンド、長渕剛……。近年(?)だと長澤知之もここに立った経歴を持つ人のようだ。

松田聖子への楽曲提供とか、財津和夫(チューリップ)まわりでおもしろいことが一朝一夕ではとても掘り尽くせない。

『切手のないおくりもの』はセルフカバーアルバム『サボテンの花 ~grown-up~』(2004年、Victor)に収録されている。

12弦のアコースティックギターなのか、線に広がりのあるサウンド。スリーフィンガー奏法か。カポを使って開放弦のポジションを高くしたようなかろやかな響き。
メロトロンのフルートの音色が使われているようで、せつなく懐かしい気分にさせる。シンプルで、パーソナルな弾き語りを目の前で聴かせてもらっているような音源。

青沼詩郎

『切手のないおくりもの』を収録した財津和夫の『サボテンの花 〜grown up〜』

TULIP『魔法の黄色い靴』(1972)

ご笑覧ください 切手のないおくりもの カバー

財津和夫オフィシャルサイト
http://www.zaitsukazuo.com/

切手のないおくりもの Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%87%E6%89%8B%E3%81%AE%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%8A%E3%81%8F%E3%82%8A%E3%82%82%E3%81%AE