飲みに来ないか スキマスイッチ 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:スキマスイッチ。スキマスイッチのアルバム『空創クリップ』(2005)に収録。
スキマスイッチ 飲みに来ないかを聴く
同棲とかはしていないけれど、しばしば会ってはどちらかの家に泊まったりしている……そんな恋仲を描いているようです。ほかの誰かの介入の不安を主人公に想起させる程度に、2人の仲にはいくらかの距離感がある様子。
10日間会っていないというのが恋人の2人にとってどういう尺度なのかは人によるでしょう。週末には必ず会うようにしている、という仲であれば、一度そのチャンスを逃してしまって会わないまま2週目に突入してしまった感じですね。
“言葉で汚しあい 譲り合えなかったなぁ それはタブーだって承知の上 後片付けもせずさよなら 2人会わない日々がもう10日続いている このままじゃダメって解る 頭では解ってんだ”(『飲みに来ないか』より、作詞:スキマスイッチ)
痴話喧嘩(?)がきっかけで始まった「会わない日々」。主人公は和解したいようです。和解が済まないと、何をしていても気になってやきもきしてしまうでしょう。お互い、どちらが和解のためのモーションを起こすか様子を伺う期間を過ぎて、そろそろ「このままじゃダメだ」という気持ちが強くなる。それが10日、という期間なのかもしれません。2人の仲や、近況を描写するソングライティングが巧いです。
“ごめんねとすぐに切り出して 飲みに来ないかって誘いたいけど 先に引きさがんのもシャクだな それじゃまさに君の思い通りだ”
“我慢比べならもういいだろ?朝まで飲み明かして忘れないか まさかすでにどっかの輩と…そんなバカな 僕の思い過ごしさ…”
(『飲みに来ないか』より、作詞:スキマスイッチ)
サビを複数回重ねるごとに、主人公の心境が移ろっていくのです。意地を張っている初期。焦りに変わる中期。そして……
“ごめんねとすぐに謝るのだ!君の文句だってとことん飲むぞ!! ここで引きさがんのが本当の男らしさ 僕の思う勝利だ で、また僕は君の思い通りだ”
(『飲みに来ないか』より、作詞:スキマスイッチ)
主人公、「君」に譲る思いを確かにします。そう、「飲む」は、お酒を飲むコミュニケーションとリラックスの時間であると同時に……相手の思いや意思・意向を受け入れる表現としての「飲む」なのだと、楽曲の本旨と主題が最後のサビで明かされるのです。本当に気が利いていて、出来のよいソングライティングだと思います。
“かわいくてスタイルも良くて実はすごい彼女だ 野放しにしている場合じゃないや 手遅れになる前に”
(『飲みに来ないか』より、作詞:スキマスイッチ)
異性に対する主人公の評価の基準が露出する2番のBメロ部分。あえて厳しい目でいいましょう、ちょっと「ゲンキン」といいますか、見た目に惹かれている様子があからさまです。「かわいくて」は「人柄をかわいいと評価している」可能性ももちろんあるでしょうが……ひょっとしたらこういう下世話な傾向が、「君」と主人公が冒頭のような痴話喧嘩(?)をしてしまう根深さにつながっているのかもしれません。主人公よ、そういうとこだぞ、と。
恋の局面、10日間ほどの時間の幅を描く作詞作曲が絶妙で、そこに注意を奪われてしまいますが、サウンドプロデュースもすこぶる良い。メンバーの2人と、数人のサポートのバンドメンバーできっちり再現できそうな構成・サウンドをまとめるスキルの高さを思います。実直に楽器を演奏することで再現できそうなまとまりなのです。
『全力少年』を収録したアルバム『空創クリップ』の収録曲。いわゆる「アルバム曲」です。シングルのB面曲にするにはちょっと勿体ないくらいソングライティング・サウンドのデキの良さで、しかしシングルA面にするほどの「しゃしゃり出るタチ」を持った曲でもない。
恋愛は、お互いにそれぞれ生活があり、仕事をしたり、それぞれが人生で重んじていることに取り組んだりしたうえで、そのスキマに情熱を注ぐ活動だとも思います。『飲みに来ないか』は、そういう恋愛の本質を非常に適切な「質感」で表現した優れた楽曲だと思います。アルバム『空創クリップ』にあって良かった、いえ、必須だとも思います。その存在感もなんだか「恋愛」に重なります。あって良かった。いや、なくちゃダメだ!っていうね。
ライブバージョンの飲みに来ないか(『スキマスイッチ TOUR 2016 “POPMAN’S CARNIVAL”』収録)を聴く
スキマスイッチ TOUR 2010 “LAGRANGIAN POINT”
複数ライブバージョンのリリースをしています。かなり、本人たちもファンにも気に入られている曲なのかもしれません。「2016」のものより、原曲のアレンジに基づいている印象です。ファットで華やかなパフォーマンスです。一聴した印象では「2010」の方が好みかも。
スキマスイッチがソングライティングの達人であるのと同時に、優れたライブチームであり生きたミュージシャンであるのがうかがえます。
『飲みに来ないか』の主人公と君には、末長い良いパートナーになって欲しいですね。
青沼詩郎
『飲みに来ないか』を収録したスキマスイッチのアルバム『空創クリップ』(2005)
『スキマスイッチTOUR2016“POPMAN’S CARNIVAL”』(2016)
『スキマスイッチ TOUR 2010“LAGRANGIAN POINT”』(2010)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『飲みに来ないか(スキマスイッチの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)