旅は経年の感慨
シングル曲、アルバム『堕落編』収録曲。
14の頃から夢みていたこと。レールに耳を当ててきいていたのはアメリカンドリームじゃないし都会、上京しての夢でしょうか。
ふるさとを出て6年めの心持ち。やがて女房子供もちになる。
そしてふとしたときにふりかえる。14の頃に、レールに耳を当てて聴いた、未来に馳せるビジョンはどうだ。
歌詞がみっちりとしています。この歌詞の分量が、そのままこの曲の主題:思えば遠くへ来たもんだ……そう、その遠さを、この歌詞のボリュームが表現しています。
「思えば遠くへ来たもんだ」というメッセージはわかりみだなと思います。ふと、私自身もそんな気持ちになりました。40歳に達している、私自身のこととしてしみじみ「思えば遠くへきたもんだな」と思ったとき、確かそんなキャッチコピーだか何かの作品のタイトルがあったなと思って検索すると海援隊の曲名だったわけです。
楽曲にはケーナだかアイリッシュ系のものだか、笛の音色が用いられています。遠くの国の、その土地につたわる笛の音色を思わせると同時に、日本にだって和笛があるわけです。どんなに遠くへ旅しても、結局旅人は自分のふるさとの景色や記憶をてらしあわせてものを見ているのではないでしょうか。比べる基準は自分の知識・経験がすべてになるので当然といえばそうでしょう。
国鉄のキャンペーンソングを競って制作しようとの動機が本曲の作曲背景にあるそうです。その結果、キャンペーンソングの冠は山口百恵さんが歌った谷村新司さんの作、『いい日旅立ち』だったそう。
その背景を思うと、どうしてこのような主題のもと、このような楽曲を制作をしたのかが納得いきますが、同時にそれは私の思う普遍を満たす意匠を獲得することとなったわけです。良い主題だと重ねて思います。
ちなみに作曲者の山木さんはふきのとうのメンバー。作曲依頼の際、ふきのとうの楽曲『風来坊』のような曲を、とのオーダーのもと作曲されたのだといいます。笛の音色、スリーフィンガーのアコギや4分音符よっつが着実な歩調のように感じられるテンポなど、ふきのとう『風来坊』を参照してみても本曲の意匠について腑に落ちるものがあります。
思えば遠くへ来たもんだ 海援隊 曲の名義、発表の概要
作詞:武田鉄矢、作曲:山木康世。海援隊のシングル、アルバム『堕落編』(1978)に収録。
海援隊 思えば遠くへ来たもんだ(アルバム『堕落編』収録)を聴く
武田鉄矢さんの歌のあたたかい響き、たまに「n」(エヌ)の発音でちょっと詰まったようなタッチ、もろもろモノマネしたくなるキャラクター豊かな歌唱だと思います。ハーモニーづけはなく、ダブリングの音像でコーラス(サビ)をお化粧します。
スリフィンガー調のアコギと、エレクトリックピアノの動きの協調が尊い。
ドッドド、ドッドド……とサンバのような推進力が出る、ドラムが4分音符四つを直前の裏拍からプッシュするパターンです。ベースはこれに協調して4分音符4つに輪郭と質量を与えますが、ボーカルの歌詞の切り目にペキペキとスラップというほどかわかりませんがプルの効いたヤンチャで効果的な音をだします。そしてコーラス(サビ)は16分割の解像度が細かいプレイ。
みんなで16のフィールを出すコーラス(サビ)の緻密さがすごい。ハイハットもチチチチと16ですし、スリーフィンガーのアコギにしてもそうですし、ベースも前述の通り16フィール。なんならシキシキ……とシェーカー系のふりものパーカッションも16のフィールですし、そもそもボーカルのメロディが16の解像度をしています。これはちょっとでも各パートがずれるのを許されない、なかなかに針穴(針の穴に糸を通すような緻密さを求められる)作業です。息のあったピタっとした実演が込められています。編曲と演奏面で大変な変態ぶり(ほめてます)がうかがえます。編曲:若草恵さん。美空ひばりさんの『愛燦燦』を編曲したのも若草さんの仕事です。
ストリングスののびやかなボウイングが緻密な16フィールにやわらかさをもたらす希望。右側にタム類の定位が振ってあって、ズドン、ドンドンと和太鼓かサンバ系の大太鼓みたいな勇ましい歩調を演出します。笛の音色の正体はなんなのでしょう。ケーナなのか、アイリッシュ系なのか、はたまたオカリナみたいなふうにも聞こえてきます。いずれにせよエアリード。チャラーンとエレピの響きとも相性が良いですね。
青沼詩郎
参考Wikipedia>思えば遠くへ来たもんだ (曲)、海援隊 (フォークグループ)
武田鉄矢 公式サイト | 武田鉄矢のオフィシャルウェブサイトへのリンク
『思えば遠くへ来たもんだ』を収録した海援隊のアルバム『堕落編』(1978)