暗躍と調和

奥田民生さんのコンピレーション(カップリングベスト)『BETTER SONGS OF THE YEARS』(2008)に収録されているカバーを聴いて楽曲を知りました。奥田さん的には『イージュー☆ライダー』(1996)のB面に収録されたのが初で、オリジナルは1971年頃、 “ルパン三世”テレビ第1シリーズのエンディングテーマでチャーリー・コーセイさんが歌いました。

少し動いてはぼーんと伸びるボーカルメロディが、動いては忍ぶ怪盗のブルースという感じがします。あるいは荒野に風すさぶマカロニウエスタンみたいなフィーリング。伸びている声があるからそこに存在しているのに、伸びたまんまで動いていないときは背景に溶けてしまう。まさに怪盗みたいなメロディです。

Bセクションの響きの移ろいもまた見事。Bmキーを地盤にしたAセクションか一転、Am系に沈みこみ、かとおもえばB♭→B♭m→Fといった具合にFメージャー系の秩序に片足をつっこみ、すぐさま半音ずりあげてF♯を元のBmのドミナントにしてシレーっと元のBmキーに戻ってしまいます。そろそろっとちょこちょこっと動きをすませては背景に溶け込み、転々とする大仕事を闇に沈み込んで済ませ、またしれっともとの都市の日常に波紋をおとさず風に溶けて消え去ってしまう。盗まれるものは、大事な貴重なもののようでありながら、市井の人の日常の循環に支障をきたすようなものではなく……ただただ大金持ちの権力や富を象徴するエゴなのかもしれません。

『ルパン三世主題歌Ⅱ』コード・メロディのスケッチ例。都市のビルの天井に弧を描くような悠然としたメロディと、局部によりカメレオンのように色彩を変える和音の響きが掛け合わさる神秘的な哀愁が魅力的な楽曲です。

Bセクションで愛銃の名前(固有名詞):ワルサーP38をそのままもちいたボーカルの響きが鮮やかなひっかかり、聴き味にフックをもたらします。懐に忍ばせやすそうなスマートな印象の拳銃です。「抱かれたものはすべて消えゆく」……財宝・貴重品の類が盗まれて持ち主のもとからなくなるという意味にもとれますし、オレと恋愛なんかすると命に関わるぜという警告にもとれます。短調で殺伐とした漢気がなめらかに表現されたメロディや和声面の展開、ボーカルの起伏やアーチが魅力的な楽曲で奥田さんのカバー対象に選ばれるのもなんかわかりみ。

ルパン三世主題歌Ⅱ 曲の名義、発表の概要

作詞:東京ムービー企画部、作曲:山下毅雄。チャーリー・コーセイが歌った1971年〜1972年テレビアニメ第1シリーズの『ルパン三世』エンディングテーマ。

ルパン三世主題歌Ⅱ(配信『ルパン三世 THE 1st SERIES ANTHOLOGY -MUSIC by TAKEO YAMASHITA テーマ・コレクション』収録)を聴く

ビブラフォンの音色が転々と足跡をおとし、余韻を風になびかせていきます。怪盗モノはこの音色がなくちゃはじまらない。そんな気がします。

口笛がメロメロな音色で孤独なブルースフィーリングを加えます。この口笛が達者なことうらやましい。寂しくも芯の強い音色です。

チャーリーさんの歌声はまっすぐな印象で、まったくのノンビブラートというほどでもない最小限の揺らぎの加味がある気がしますがぎとぎとに揺らすほどではなく、使命の成就のために必要十分なうごきを実現す適確さや無情、諦念が漂いハードボイルドな印象です。

ずうんとベースの音色が深く、とつとつとキックドラムが細かい足取りを刻みいれます。

左にアコースティックギター、右にトライアングルが振り分けられ、リズムの解像度を担います。右寄りに定位したエレキも刻みを豊かにします。夜がうち崩れ、とろけるようにストリングスが仕事のちの夜明けを演出するようです。

Bmのコードにはじまり、Bmのコードで終わるコーラスをかさねていくさま、淡々と仕事をこなして、名声を得るでもないダークヒーローのブルースといった感情の抑制の効いた印象が構成からもうかがえます。渋い。

奥田民生のカバー(B面ベスト『BETTER SONGS OF THE YEARS』収録)を聴く

シックスティーンのフィーリング、サウンドの哀愁や落ち着き具合をよくうつしとっています。オリジナルのビブラフォンのらしさはエレクトリックピアノで表現。ストリングスの音色のモチーフがよくスケッチされています。ボーカルメロディの背後につく口笛もまたよし。左にエレキ、右にエレピがひらいてコード・リズムを解釈します。ベースのニュアンスもよくスケッチされ、キックの16分割のニュアンスの描き込みもあります。スネアはクローズドリムとオープンショットでセクションにより起伏が演出されます。

後半のほうのAセクションでリードボーカルの質感をぐっと奥にひっこめては回帰させるなど、カバーで下手をうつとのぺっとした印象になりかねない楽曲の骨子であるも、サウンド面での工夫などもふまえて語っていきます。エンディングにちかづくにつれて演奏の熱量・開放感が徐々に高まり、ラストのボーカルフェイクの1オクターブ跳躍で孤高の哀愁に浄化の至りを与えます。奥田さんに似合う曲で、ものにされてるなとしみじみ思う実演です。

一仕事おえて、また次の仕事へと消えて行くみたいなエンディングの1オクターブ跳躍が豪快でしなやか。

青沼詩郎

参考Wikipedia>チャーリー・コーセイ、ルパン三世 (TV第1シリーズ)

奥田民生 OFFICIAL WEBSITEへのリンク

山下 毅雄 takeo yamashita – Romantic Techno Music ご次男の透さんとその父・毅雄さんなどの情報が載ったサイト

ルパン三世NETWORKへのリンク

『ルパン三世 THE 1st SERIES ANTHOLOGY – MUSIC by TAKEO YAMASHITA』(2003)。テレビサイズのオリジナルを収録している模様。

『ルパン三世´71ME TRACKS』(1999)。どのバージョンを収録しているのか未確認。

『BETTER SONGS OF THE YEARS』(2008)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ルパン三世主題歌Ⅱ(チャーリーコーセーが歌唱したテレビシリーズエンディング曲)暗躍と調和【ギター弾き語り・寸評つき】』)