私の中の折坂さん像のめばえ

恵比寿リキッドルームで

はじめて私が折坂悠太を知ったのは、元andymoriのメンバー3人と長澤知之が組んだバンド「AL」のライブ会場でだった。

彼らと関わりの深いレーベル「Sparkling Records」の立ち上げライブだというんで駆けつけたように記憶しているんだけれど、どうだったか。

会場は恵比寿リキッドルームだった。そのときの共演だったシンガーソングライターの谷口貴洋が素晴らしくて感激したのを覚えている。

その日に、ゲストという形でステージに上がって数曲を弾き語りしたりALのボーカルの小山田壮平やバンドとコラボしたりしていたのが折坂悠太だった。それが、私にとっての、初めての折坂悠太に関する記憶だった。

そのときに確か、『ダイバー』と『きゅびずむ』という曲を彼が披露したんだったと思う。私の記憶違いじゃないか不安だが、覚えてる限りそうだったと思う。

Apple Musicで

それからだいぶ経って、私が加入している定額制音楽配信サービスのApple Musicの画面に、折坂悠太の新譜らしきものが自動的にリコメンドされる感じで出てきた。『平成』というアルバムだった。

うわぁ、あのときのリキッドルームの折坂悠太だ! と私は思った。大きい存在になられたのだと心が震えた。いや、もちろん、「あのとき」の時点ですでに、この国の音楽界にとって重要な存在だったのかもしれない。

そこで私は折坂悠太のアルバム『平成』を聴いてみたし、ほかの作品もいくつか巡り回った。

その中に、『きゅびずむ』があった。「あ、この曲、覚えている」と思った。

それ以前に私が持っている折坂悠太に関する記憶は、あのときの恵比寿リキッドルームでのことしかない。

だからなおさら、「あのときのリキッドルーム」で『きゅびずむ』を演っていたというのは、私の記憶違いじゃないはずだ。

とにかく、記憶に残る曲。引っかかる。フックの強い、個性的で印象的な曲。それが『きゅびずむ』だ。

『きゅびずむ』

この曲は、5曲入った『あけぼの』に収録されている。その、5曲目が『きゅびずむ』。

軽快なギターが印象的。左右からそれが聴こえる。左がアコギで、右がエレキ。左のアコギが、ベースとリズムの役割を果たしていると思う。

右のエレキは特に明瞭で美しい。スライドやハンマリングを織り交ぜた流麗なプレイが巧い。

ブラシでプレイしたようなドラムスが、軽めのサウンドでリズムの中心にいる。

和楽器か民族楽器か、チンチンカランカランと鳴る打楽器小物が彩る。チンドン屋さんや和太鼓奏者たちのパフォーマンスに使われることもありそうな音の、あれ。あの楽器、なんていうんだろう。はっぴいえんどの『風街ろまん』に収録されている『はいからはくち』の冒頭でも聴ける、あの楽器の音ともそっくり。

話を戻す。

シンセサイザーもぽつねんとしたアクセントになっている。途中、2:30頃にミックス上の技術であろう大胆なサウンドの演出もある。

編成をざっくりまとめると、アコギ、エレキ、ドラムス、ボーカル、打楽器小物、シンセが主な役者か。ボーカルは随所でダブリング。

歌詞の“きゅびずんで”

何よりも私がこの曲のキャラクターだと思うのが、歌詞の“きゅびずんで”という表現だ。

キュビズム」という語がある。

これを思い出す。

私は、それについて、まったく明るくない。

「キュビズム」が美術の歴史における重要な存在だというのはなんとなく知っている。

かつて、チェコのグラスだとか立体物を蒐集する作家が、親切に「キュビズム」について私に話して教えてくれたこともあった。けれど、その話の内容をほとんど覚えていない。覚えていたとしても、それで「キュビズム」について理解を築いたとはいいがたい。

「キューブ」と聞けば、立方体であるとわかる。

それに、ismがつく。

なんとなくだが、「キュビズム」という語に対するイメージが、私にも持てないことはない。

ものを、目に入るものや認知するものを、「立体たらしめようぜ」…みたいな?

「キュビズム」が真にどんなものかはここでは置いておこう。

とにかく、それを(かどうかは知らないが)「きゅびずむ」という日本語(ひらがな語?)で表現してしまったところが、折坂悠太の発明だしアイディアだと思う。

「きゅびずむ」という音韻。「きゅびず」に、「む」をつけて形容動詞? みたいなものとしての活用を見出した、新しい日本語。

(これに類似した活用は、「黒ずむ」とか言うときがそうだ。)

この使い方で、もともとある語「キュビズム」とかけて、「きゅびず」+「む」。

これは私の解釈であって、折坂悠太がそう言ったのでも決してない。本人にそのつもりがあるのかわからない。どっちでもいいと思っている。私はいま、いちリスナーだ。好き勝手、自分の思うところを言っている。

とにかく、この言葉の発明に私は感激しているのみだ。

むすびに

この発明・アイディアを忍ばせた…いや、大胆に掲げた。軽妙で、それでいてどこかおどろおどろしく、かつ哲学や郷愁のにおいをさせつつ、“君”やそれをとりまく情景を描いた、個性的な一曲。

折坂悠太のボーカルの発音は、どこか洋楽っぽさもある。それでいて、純日本的でもある。不思議な魅力がある歌声。

洋楽っぽいのに純然たる日本語ということで思い起こすのは、ほかでもない、先ほどちらっと固有名詞を出したバンド、はっぴいえんどだ。こんなところもつながる…いな、私は勝手に関連を見出す。

実際、折坂悠太のフェイバリッドの中にはっぴいえんどがあるのかどうか知らない。でも、きっとあるだろう。あるに違いない。と、勝手に踏む私。違ったら申し訳ない…。

複数の視点を組み合わせることで、立体を認知できる。

青沼詩郎

折坂悠太『きゅびずむ』リンク(Apple Music)