映像 オズの魔法使

ふたつに結った髪の少女が空をみあげて歌います。牧場のような場所。奥ににわとりが数羽みえます。農具のようなものに前足をかけ、そこにのぼる愛犬? 少女もそこに腰掛けます。犬を愛でるように彼もしくは彼女に手をやる。犬もそれにこたえて前足を差し出します。エンディングで犬のあたまを両手で包み、ぐっと自分のおでこを寄せる少女。急に感情的になったように見えなくもありませんね。ミュージカル映画『オズの魔法使(The Wizard of Oz)』のワンシーンなのでしょう。

曲について

ミュージカル映画『オズの魔法使(The Wizard of Oz)』(1939)でジュディ・ガーランド(Judy Garland)が歌った劇中歌。 作詞:エドガー・イップ・ハーバーグ(Yip Harburg)、作曲:ハロルド・アーレン(Harold Arlen)。

ジュディ・ガーランド『Over the Rainbow』を聴く

フルート類のダウンビート、壮麗なストリングス。和音の展開がおしゃれです。ジュディ・ガーランドのボーカルが非常に近い音像です。やや奥まったところにピアノのようなハープのような絢爛なトーンがいます。……ピアノかな? 間奏でソロになる管楽器の独特なまあるいトーンはなんでしょう。リードを持たない笛系の音色に聴こえますが音域がなかなか低いです。アルトフルートとかなのでしょうか……? 音源はモノラルなのか定位が平らです。

優雅なメロディ

Over the Rainbow モチーフ 譜例

1オクターブの跳躍。大胆です。品があります。歌手のせいでしょうか。

はじめの4小節は上のほうのポジションをふわり漂います。鳥のようなモチーフです。

続く4小節で地面をⅵ(A♭メージャー調のファ)にちょっと下げます。

そのままやさしく中空をさまよいます。人間の手の届く高さでたわむれる鳥のようです。最後の主音のラ♭はまるでヒトの腕。友愛を感じるメロディです。

続いてまるで性格の違ったモチーフです。短3度(ド・ミ♭・ド・ミ♭……)でちょんちょんと突っつき、長2度(レ♭・ミ♭・レ♭・ミ♭……)でちょんちょんと突っつき……。ハチドリが空中にサスペンドしながら何かをついばむみたいです。

フレーズの切れ目で一度ひるがえり、体勢を直し、またついばむような音形の反復。

今度は短3度(ド・ミ♭・ド・ミ♭……)に続くのも短3度(レ・ファ・レ・ファ……)。A♭メージャー調における4番目の音(ⅳ)をシャープさせ(半音上げ)ています。

そのまま「ソー、ソー、シー……」と大空を遠ざかっていくような雄大な音形。最後にちょこっと「ファ」におりてくるところは、さっきまでその手の近くにいた鳥とのふれあい、その感触の残り香を確かめている主人公を思わせます。

隠された無力・無情の嘆き

歌詞。どんなことを歌っているのでしょうか。

参考:世界の童謡・民謡>虹の彼方に Over the Rainbow ミュージカル映画「オズの魔法使い」主題歌・テーマ曲

ここではないどこか遠くを見ている儚さ。

悩みのない場所。夢のかなうところ……誰もが行きたいと思うのでは。

子守唄が夢を見せます。子守唄で聞いた話だったか? そのまま眠り落ちたあとに見た夢で出会った世界だったか? 夢と現実の境目も、レモンキャンディみたいに溶けてしまいそうです。

空想の楽園。青い鳥。煙突。レモン・ドロップス。身近なものから遠いものまで。

虹のアーチの端っこまで歩いて行ったら、近くほどに、いつの間にか見えなくなってしまうのではないでしょうか。

虹に向かって歩いた経験すら持たない私ですが、それはなんとなくわかります。いえ、そんなことないのか?

試しに虹に向かって歩いたことのある人だけが知る、悩みが溶け、信条が実現する世界があるのでしょうか。

そんな場所があるのなら、私も行ってみたい。

虹を見つけた時、それに近づこうともしない者には願うことすら許されない気もします。夢を叶えようとしない私は、一生夢を見るだけの者なのかもしれません。

ここではないどこか。今とは違う状況・環境。誰もが思いあぐね、欲するものが、虹の向こうにあるようなのです。

美しく雄大な曲想。今は「虹の向こう」のように、まだ遠く、及ばず。

隠された無力・無情の嘆き。その響きに、私は心を震わせているのかもしれません。

青沼詩郎

『虹の彼方に(Over the Rainbow)』を収録した『ベスト・オブ・ジュディ・ガーランド』

ご笑覧ください 拙演