アコースティック・ギターのカッティングがシャクシャクとグルーヴィー。ドラムスがテシテシとタイトに気持ちよく鳴ります。サビでウワッとバックグラウンド・ボーカルのぶ厚い壁が現れます。高いポジションから零れ落ちてくるみたいなベースの休符の効いたフレーズがセンスの塊。
歌詞ハモが胸熱、「さすが」なのか分かりませんが兄弟ユニットらしい息の合い具合です。バック・グラウンド・ボーカルもウーワ!とかアーとかダイナミクスを利かせた多彩なトーンかつ主題の“Pink Shadow”をとなえるなど意匠が巧みです。
柔和でニュアンスに富んだちょっと影のあるメインボーカル声のキャラに、私の記憶の引き出し的にはbonobosのボーカルの声色を思い出します。また曲想の豊かさやグルーヴのよさ、ボーカルのキャラクターの際立ちなどからFishmansを思い出すのは私の盛大な偏見でしょうか。
ワウペダルを利かせたふうのエレクトリック・ギター、シャキシャキと刻むアコギ、ワウペダルに呼応するかのようなウーワーコーラス(バック・グラウンド・ボーカル)。ポツポツと衝突するドラムスのトーンにペカパコとラテン・パーカスが絡み、ハマります。
メロ(ヴァース)のボーカルは柔和ですがコーラス(サビ)はソウルフルで力強く高らかです。
コードはほぼⅡm7→ⅠM7を繰り返すのみ。コーラスでちょっとドミナントを経由するくらいです。(ほぼ)サブドミ&トニックだけでこんなにも豊かでカッコよく雄弁なサウンドで、陰影を映す情景を語る作詞もうならせます。
さらっと歌ってみせるので心地よく聴き入ってしまいますが16分割のボーカルメロは機敏で細やかなフックが効いています。サビに入るときに2/4のハンパな小節をはさむのと同時に16刻みのアップビートに噛ませた(ウラのウラというやつでしょうか)“愛してるよ”が素晴らしい。この曲の要でありソウルです。
影は本体のウラにできるもの。16分割の裏はまさに「影のポジション」なのでしょう。その陰は異彩のピンクと来ました。秀逸です。
ボーカル表現、各パートの演奏の熱量あるいは脱力感(肩の力の抜けたさらっと感!)、華やかなのに個々が埋没もせず力強くもあるアレンジメントの塩梅、あか抜けた言葉のセンス、コンパクトでシンプルな楽曲構成や和声進行、そうしたミニマルさを感じさせない間奏の「フーワー・フーワー……」の短音程で揺さぶるフックをはじめとした種々の仕掛け。傑作だと興奮しておおげさに騒ぎ立てる私をさらっといなして輪に入れてくれそうな器の広さを感じます。『ピンク・シャドウ』みたいな大人になりたいです。
青沼詩郎
『ピンク・シャドウ』を収録したブレッド&バターのアルバム『Barbecue』(1974)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ピンク・シャドウ(ブレッド&バターの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)
Bread & Butter
ブレッド・アンド・バター