作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのシングル、アルバム『Please Please Me』(1963)に収録。

ステレオ版を聴く

あらためて聴くステレオ版。うわ、すごいなと思います。左に思いっきり楽器隊。右に思いっきりボーカル群。きっぱり分かれているかといえば、演奏しながら歌も同時に録っているのでそこまで不自然な分かれ方でもない。歌詞と歌詞の切れ目で、彼らが歌いながら鳴らすギターの音が右トラックのボーカルの引っ込んだ瞬間に立ち上がってくるのがわかります。ハーモニカも右の軍隊に属されていますね。出てくるとグワっと音の隙間から這い出て様相が変わる。エンディング付近でハーモニカも絡んできて、なんだか定位がガーっと混沌とするような印象を受けます。とにかくスピーディに、その時間の尊さを培った筋力・反射力でパックした潔さが漂います。いえ、漂うといいますか、これがその本体。演奏とはこういうものだと。私の思うミュージシャンであり表現者の鑑です。

1分26秒頃を聴くとハーモニーパートの歌詞「you」とジョンの歌詞「I」の相違がでます。その直後の歌詞「Come on」をジョンが笑んでいる。コブシを効かせてうなりあげたようなコミカルな歌唱になっています。照れ隠しの笑いだといわれているみたいです。1コーラス目の歌詞がyouですし、この頃の時代的なことを思っても、特にこの頃に限ったビートルズのレパートリーについて思っても、前のコーラスやヴァースの歌詞は再現のときにヘンにひねらずきれいに繰り返すことが多いと思うので、これはジョンの歌唱ミスで生まれたレコードだと思うのが自然です。好きだ。

モノラル版を聴く

リズムの空間、帯域のなす空間の絶妙で完璧な意匠、演奏の熱量を味わうなら断然こっちですね。ボっと真ん中から度太い(あえての「どぶとい」)音が私の顔面を業務用の中華鍋の底で真っ直ぐにぶん殴るみたいです。ベースのブイブイいうパワー感。棲み分け、それぞれにどっかに飛んで行きそうな複数のボーカルパートの殴り合い。そう、調和する瞬間もあるのですが、ハーモニーというよりビートルズの場合は殴り合い。愛し合って喧嘩しあって、張り合いまくって共存しているのです。涙が出そうなバンドマンシップ。どうぞ喜ばせておくんなまし。私も何か返したい。プリーズ・プリーズ・ユー。

図:The Beatles『Please Please Me』イントロハーモニカのモチーフ採譜例。ごく端的に直後のヴァースのボーカルメロディの音形を予告し、スピーディで勢いに満ちた印象です。ハーモニカのイントロでいうと『Love Me Do』を連ねて思い出しますが、そちらはのどかな印象で好対照。

青沼詩郎

参考Wikipedia>プリーズ・プリーズ・ミー (曲)

参考Wikipedia>プリーズ・プリーズ・ミー (アルバム)

歌詞の参考 世界の民謡・童謡>プリーズ・プリーズ・ミー Please Please Me 歌詞の意味・和訳 ハーモニカのイントロが特徴的なジョン・レノン作曲によるシングル ふたつ並ぶPleaseの意味の違い。主人公が君のためにすること、それに対しての君の主人公へのふるまい……お互いが与えるものに感じる主観的な充足の格差(ギャップ)が描かれた歌詞であるように思えます。字面でみるとあらためて歌詞の構造の巧さが伝わってきます。

UNIVERSAL MUSIC JAPAN>The Beatles

『Please Please Me』を収録した楽曲名と同名のアルバム(オリジナル発売年:1963)。

モノラル版(テイクの編集がステレオ版と違う)の『Please Please Me』を収録した『The Beatles 1962 – 1966』(オリジナル発売年:1973)

『ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫)』(2015年、里中哲彦&遠山修司 )。『プリーズ・プリーズ・ミー』のモノ版とステレオ版の歌詞の違いはジョンの間違いで(youかIか)あり、直後の「カモン」の笑い(ステレオ版)は照れ隠しであると指摘しています。ジョージ・マーティンとの関係のなかで、楽曲が現在広く知れ渡るようなテンポの速い勢いのある曲調となったことも述べられています。著者のふたりの会話に自分も参加するような気持ちでビートルズを何度でも楽しみ直せるガイド本。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Please Please Me(The Beatlesの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)