前説
私も映画を劇場で見た一人です(映画公開が2008年ですので……私は大学卒業後の20代前半の青年でした)。
周辺情報をみるに、楽曲の発表が映画に先駆けていたのが意外(そんな感じだったのですね)。先駆けて発表したこの主題歌が、その時点では未完成だったという映画のハッピーエンドに影響を与えているといいますからこの楽曲の作品への貢献度ははかりしれないものに思えます。貢献度といいますか、この楽曲も映画も全部含めて『崖の上のポニョ』という作品なのですね。楽曲のタイトルも映画名と完全一致です。
リスニング・メモ
楽曲のサウンドは作曲・編曲者の久石譲さんのプログラミングが主体になっている感じでしょうか。印象的なダブルリード系っぽいサウンドは“トトロ”のあの歌……『さんぽ』などを私に思い出させます。
ハープのサウンドが絢爛なオープニング。サスペンデット・シンバルと合わさってオープニングからハッピーです。ストリングスがうるうると水の多い作品の舞台の瑞々しさ、爽やかな風を想起させます。
メインボーカルのおふたりがまた絶妙。おんなじくらいの音量感で同時に鳴らしても、帯域や倍音が違うせいなのか、まったく食い合わず(けんかすることなく)、それぞれのまったく違うキャラクターがお互いを引き立てあいます。素朴な味わいです。個性の知れ渡った「歌手ありき」「知名度ありき」ではない抜擢の的確さを思います。「ジブリ」関連作品にしばしばみられるキャスティングの傾向ではないでしょうか。知名度はあるけど意外な人、なんてパターンもあります。やってみて、イメージに合えばそれで素直に行く! 商業的なしがらみがあると、案外こうした素直な決断は周りに止められてしまうことも多く実現しにくいのかもしれません。それを実現させる。カントクさんとか、スタジオジブリのブランドとかの築いた信頼や実績の大きさによるところでしょう。そうそうできることではない。不世出の制作体系:ジブリです。
ラテンパーカスがパカパカと可愛い。楽曲がかわいいからなのか、どちらが先かわかりません。トライアングルの合いの手と、小物やパーカションづかいに目が行く私です。ハイハットが2種類のトーンで用いられているのが珍しい工夫です。間奏のところですかね。キレのよい王道なトーンのハイハットに、クセ強めでカラっとしたキャラのあるハイハットがかけあいます。左右に振った感じのドラムのタムタム類が臨場感。
サビのピアノとベースの下行していく感じ。ウラを打って躍動感。シンプルにも解釈できますが、ベースの動きが闊達で、忠実に拾うとなかなか複雑な和声をしています。複雑……でもないかもですが、経過的なベースが、滑らかなのに目まぐるしい。まるで水槽の小さな魚がみせる瞬発力のようなのです。
「さかなの子」が人間のような四肢を得て……人間のような生活の営みをしてみる純朴なよろこびが大橋のぞみさんの歌唱で表現されます。藤岡藤巻さんの歌唱部分は、作中の男の子の人格を思わせます。
“パークパクチュッギュッ!” “ワークワクチュッギュッ!”がオノマトペ的。パクパクは食事。チュっはキス、くちづけ、「恋」。ギュッはハグ、抱擁、親愛、恋愛の象徴。2コーラス目ではパクパクをワクワクに。期待や希望、高揚する感情を思わせます。単体では意味をなさないような文字の羅列も、人の気持ちやくらしの営みのディティールや質感、意思や感情をはじけるように表現する必殺ワードになることを教えてくれます。かわいい of かわいい。そもそも主題で主人公の「ポニョ」がオノマトペ的です。
青沼詩郎
映画『崖の上のポニョ』(2008)
フルサイズ版の『崖の上のポニョ』を収録した『崖の上のポニョ イメージアルバム』(2008)
ワンコーラスサイズの『崖の上のポニョ(映画バージョン)』を収録した『崖の上のポニョ サウンドトラック』(2008)
藤岡藤巻と大橋のぞみのシングル『崖の上のポニョ』(2007)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『崖の上のポニョ(藤岡藤巻と大橋のぞみの曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)