アジアの純真
作詞:井上陽水、作曲・編曲:奥田民生。PUFFYのデビューシングル、1枚目のアルバム『amiyumi』(1996)収録。
歌詞
井上陽水の歌詞にクラクラする。なんだこりゃぁ?! 思いつきの万国博覧会か。畳み掛ける押韻が気持ちいい。ごっちゃごっちゃの交雑した映像が頭の中に浮かぶ。
井上陽水といえば『少年時代』を思い出す。あの曲の歌詞のもつ意味のわからなさも非常に音楽的。意味を笑っている(嘲笑している)とも思わない。とにかく、響きであり音の快楽。ことばは意味を伝える側面があるけれど、発音の組み合わせであり羅列であり肉体と空気の振動であり体感であり記憶であり経験。そういうものを私は「詩」と呼ぶことにしている。だから、私に言わせれば『少年時代』や『アジアの純真』は極めて詩的。
個人的に1番好きなのは「ガムラン」が出てくるところ。
“美人 アリラン ガムラン ラザニア マウスだってキーになって 気分 イレブン アクセス試そうか”(『アジアの純真』より、作詞:井上陽水、作曲:奥田民生)
単語「ガムラン」が出てきて、狂ったような調和したような深淵な音律と民族と風習の輪廻が私の頭の宇宙に立ち上がる。匂いと音と光と熱を仮想体験する…一瞬だけど。
このブロックで知らなかった単語が「アリラン」。朝鮮の民謡で、その名は伝説上の峠のものらしい。それにあやかって朝鮮各地の峠が同じ名前で呼ばれているともいう。
1996年、私は10歳だった。そういえばちょうどインターネットが劇的に社会を変え始め、平均的な家庭にまで影響が及んだのもこの頃だったと思う。美麗なテレビゲームのグラフィックを紹介するサイトを夢中で見た記憶がある。歌詞「マウスだってキーになって」「アクセス試そうか」でそんなことを思い出す。
バラライカ
字面にならぶカタカナには地名が多いけどもうひとつ、私が単語から映像を出力できないものが「バラライカ」。
ロシアの撥弦楽器。弾いたりかき鳴らしたりして演奏するよう。
これを「聴かせて」とつづった歌詞か。アンデス音楽(フォルクローレ?)を思い出す。マンドリンの音色にもそっくり。世界中の「民俗」の音の象徴かもしれない。
『アジアの純真』の歌詞は、莫大な情報量を包含し象徴する「国」や「地名」がスピード感を持ってつづられるので、厳密なことをいえば想像が追いつかない。「ん?その国といえば…何があったっけ。どんな土地でどんな風習? 街の景観や日常の光景は?」なんて思いを巡らす暇もなくパパパとフラッシュし幻惑するみたいな言葉の魔法。井上マジック。
音楽
シンプルで同じコードを長く敷いたところと、動きをつけるところ・変化を出すところの緩急がさすが。
メロの歌い出しとサビの歌い出しに、歌メロ中の最高音程をいきなりカマして(登場させて)いる。徐々に盛り上げて、サビで歌のいちばん高い音程を聴かせるというJポップ的な定石を素通り(スルー)している。このデビュー曲でPUFFYの登場が大きなインパクトを与えた一因になっているかもしれない。
Vocoder 変声の演出
奥田民生の幅広い音楽の演出も愉快。しゃべった声に基づいてシンセの音を出す? ボコーダーの担う役割が大きい。『アジアの純真』でも歌詞を反唱してメインボーカルに独特の間を演出している。
クラフトワーク。これもボコーダーか。
アンドリューW.K.。メロコアやグラインドロックの態度でPartyを表現したウザカッコウルサイ感じ(ほめてる)。0:18頃の変声もボコーダーか。イントロに引っかかりをつくっている。
電子音楽につかわれがち?なボコーダーだけど、広くロックやポップに登場するようになった。もともとは音声通信技術で、情報の圧縮(減容?)のために生まれたものらしい。『アジアの純真』に使われたのはRoland VP-330だとか。
アジアの純真 スペシャルMVやライブ
動画タイトルから察するに1996年のライブ。なんのイベントでどこの会場? 屋外で大規模。 奥田民生の姿がキーボード&ボコーダーに見える。
学校の教室、黒板の前で先生(出演者)がパフォーマンスする趣向のblackboard。2021年のPUFFYは25周年。歌声のパワーにほれぼれする。原曲のアレンジを踏襲してアプデした感じでかっこいい。ドラマーに川西幸一(UNICORN)。
2011年にPUFFYは15周年だった。そのときのプロモーションのひとつとして制作されたものか。寸劇からはじまるMV。PUFFYは3人組でAmi、Yumi、Emiだったという設定。これまでのPUFFYのさまざまな出演や制作物にもホラEmiちゃんがいる…という趣向。3人目のPUFFYはリスナー、オーディエンス、サポーター?であり、今そこにいるあなただ…ということを感じさせる、合成とパロディの記念MV。Emiを演じた役者がどなたなのか検索ではわからなかった。
青沼詩郎
『アジアの純真』を収録したPUFFYの『amiyumi』(1996)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『アジアの純真(PUFFYの曲)ギター弾き語り』)
“突飛なようでかろうじて統率を保っているようで絶妙な歌詞にめまいがする思い。
今年25周年のPUFFYのデビュー曲。作詞:井上陽水、作曲:奥田民生。
パワーコードで図太いロックなんだけど遊びがいっぱい入ったサウンド。
思いつき感満天の歌詞の響きは音楽そのもの。
すでに知っていた曲なのに改めて聴くと新鮮な驚きに満ちている。”