一瞬は永続する雨

大江千里さん7番目のアルバムに収録された曲。

みっちりつまった情報量、テクスチャーに想いの重みを感じます。字脚が3コーラスみっちりつまっています。「どしゃぶりでもかまわないと」……など要所のフレーズは固定しつつも、最後のサビで1サビと2サビの再利用がある以外は基本的に1方向に変化していく歌詞。

最後のサビにむかうむすびのラインに “肩が乾いたシャツ改札を出る頃 きみの町じゃもう雨は小降りになる 今日だけが明日に続いてる こんなふうに きみとは終われない”(『Rain』より、作詞:大江千里) という部分がありますが、「こんなふうにきみとは終われない」こそが本曲の主題であり本意ではないでしょうか。この想いを出発に、この想いに到着し、この想いの未来を仰ぐのが本曲だと思えるのです。『Rain』の主題。みずからの想いが雨になって帰ってきているような趣です。ちょっとは救われる、洗われるのか……。

途中の転調が楽曲のアイデンティティになっています。Aメージャー調の本曲における、平行調の同主調にあたるF#メージャー調に行っているんです。Aメージャーにとっての平行調であるF#マイナー調はそもそもシャープ#3つでそもそも世界観あるいは言語みたいなもの(音階で使用する音)を共有しているのですが、その平行調(ここではF#m)をさらにネガポジ反転させたような味わいがあります。

この転調のシーンで、景色がひらけたような印象を聴き手に与えるのですけれど、心の景色は好転したりしていたとしても、主人公の理想との距離や抱えた現実の状況そのものは何も変わっていないと私には思えるのです。F#メージャー調への転調でひらけた響きもたった4小節で元の調にもどってしまい、元調のAメージャーにとってのⅣの和音(Dのコード)ではじまるサビに接続します。音楽的にいろいろ起きているのに、主人公の想いの永続する一瞬をRainの主題一語に象徴させとらえた一枚絵のような珠玉の手触りを感じます。

Rain 大江千里 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:大江千里。大江千里のアルバム『1234』(1988)に収録。

大江千里 Rain(アルバム『1234』収録)を聴く

“行かないで 行かないで”というフレーズが印象的ですが、その未練を非情な雨のごとく突き放すみたいに颯爽と流れていく。曲のリズム、テンポといった諸要素の進行にスキがないんです。

明瞭なサウンドに、緻密なハーモニーをまとった大江さんのあたたかな声色がフィットします。

ドカーンと轟くフロアタムの類なのか、タイコの轟音。左右に音像をひろげます。雷が落ちたみたいでもあるし、都会の心臓、交通機関、ビルのうごめき・とどろき。巨大な列車の連結器がはなれたかあるいはくっついたかしたときの音のような、ちいさな私の影を葬りさってしまうような圧倒する迫力があります。

チリンチリンとリュックサックにぶら下げるキーホルダーみたいなサイズ感のハンドベルみたいな可愛いい音色が轟く音にコントラストと飛距離をあたえます。この可愛いベルがストリングスとオブリガードをユニゾンしていたりもします。

カチャカチャとキレのよいエレキギターのピタっとしたリズムが洗練されています。こんこんと軒をたたく雨音みたいに、マリンバだかシロフォンだか木琴の類を思わせるシンセの音。明瞭でカチっとした定規の目盛にしたがった緻密で質量の詰まった音作りが、この時代相応の特徴的なサウンドにもおもえます。そこに大江さんの歌声が心臓として嵌っている感じです。長い長いエンディングのフェイドアウトが、想いの尾を引く長さを直接的に象徴します。

雨のさしがね 行かないでほしいのは誰

“Lady きみは雨にけむる すいた駅を少し走った”

“Lady きみは雨にぬれて ぼくの眼を少し見ていた”

“Lady きみは今もこうして 小さめの傘もささずに”

(『Rain』より、作詞:大江千里)

例の転調の部分の歌詞は具体的にはこのように変化していきます。この転調部分の歌詞はやはり私に直接的な答えをくれるわけではありません。ならびに、本曲の歌詞は、後ろ髪引かれているのは「ぼく」なのか「きみ」なのか、きっぱり線を引いて、前を行き背中を見せるもの、その背中に手を伸ばし決別の先延ばしを請う者、みたいな前後関係がはっきり描かれません。地面をはねかえらんばかりのはげしい雨に輪郭がぼかされて思える。きみとぼくは、主人公の2面性のことでもあるように思えるし、やはり微妙に志や理想の異なるふたりのすれ違いを映しているようにも思えます。行かないで行かないで、そう言うよ……と言っているのは一体どっち?誰? なんなら雨がそう言っているのかもしれません。行かないで、っていうみたいに、ここぞとばかりに雨をふらせて運命を主張してみる。

きみもぼくも、その運命どおりになってたまるかといわんばかりに能動的に走り、流れていく一環(一貫)の頑固さ、流れの抗えなさを描く強く儚い曲想です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>1234 (大江千里のアルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>Rain

Senri Oe 公式サイトへのリンク

『Rain』を収録した大江千里のアルバム『1234』(1988)