エアプランツのような神秘と恒常性

ビーチボーイズにこんな曲なかったっけかな……と思うようなふわふわしたフィーリング(コード進行がRoger Nichols『Someday Man』に似ているそうです)。雲をつかむような愛の実態への接近を試みます。

調を転々とうつろいながらも、たぶんそこには「ふたり」と都市の背景があります。引越し好きで服のシュミも幅広なオシャレなふたりを想像します。

ふわふわ感の原因はヴァースのリディア旋法のような、DキーとAキーのダブルキーのようなコードとスケールにあります。そのあと、AメージャーやB♭メージャーをふわふわと浮浮つきながらも、みたことのあるセクションの再現があることで同じ主人公らが異なるライフステージを経過しつつ最終的にも一緒にいる……そんな愛や縁、運命の実態を思わせる神秘をまといます。儚く美しいのに、ふわふわした音楽性がかえって、どこか頼もしくもある安定感をネガポジ反転で映し出すのです。

連載小説 ピチカート・ファイヴ 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:小西康陽。ピチカート・ファイヴ(PIZZICATO FIVE)のアルバム『カップルズ(couples)』(1987)に収録。

ピチカート・ファイヴ 連載小説(アルバム『カップルズ(couples)』収録)を聴く

終始オクターブで平行線の男女混声ユニゾンボーカル。ずっと行動を共にしているのに永遠にわかりあう・まじりあうことのない儚さ。考え方や行動・思考パターンのかたち自体、表出のしかた自体はなんだか似ているのに、どこかずれている。タイミングだったり位置の問題だったりするのかもしれません。そういった親近感と抱き合わせの致命的な差異や距離を感じもします。

まんなかにふたりの声をとらえ、左にはハープ。夢見心地でつねにふわふわと残響をしたがえて風に舞い上がる羽毛みたいに上下をくりかえします。おなじく左定位には金管楽器(低い音域はトロンボーンみたいにきこえますがトランペットみたいな音域にもあらわれるところもあって両方入っているのかあるいはどちらなのか)。きわめて柔和、ソフトな音色でオブリガードや直線的な描線で和声を表現します。

リズムが右定位に寄っている。ドラムはペシ!テシ!とロッドで叩いたような軽いショットの質量感。ベースがよく歌います。Cメロというのか、「いつか年をとって……」とマイナーになるところはベースの動きがきびきびしてきます。加齢の厳しい現実をつきつけいましめるみたいなプレイです。

中間部の間奏の情景の転換と推移が見事で、イントロの再現のようなDキーのフィールからDmのフィールへ、全音上がってEキーのフィールへ、そしてAメージャーのⅢm・Ⅵm・Ⅱm・Ⅴの循環を経てAメージャーキーでイントロ相似形の2小節に接続したのち「映画の途中で……」とAメロセクションに回帰、キーもDキーに回帰しています。

連載小説を連載期間中に追いかけて読んだことが私はありません。

いつまで連載がつづくかわからないがとりあえず走り続ける(執筆が長く続くように恒常化を図る)場合、まずキャラクターがあって、そのキャラクターたちを特定の状況・シュチュエーションといったアイディアに邂逅させるかたちで毎回あるいは数回のまとまりをこなしていくと良いのではないでしょうか。このキャラAがこういう状況に放り込まれた場合こんなふうに行動するだろう。そうしたら別のキャラクターBはきっと同調を示す反応をするし、それを許せないキャラCは猛然と抗議に詰めかけるに違いない……が、キャラAの協力者であるキャラDは抗議行動をなだめてキャラCをてなづけてしまうだろう……などといった具合に、登場人物たちと流転する多様な状況が織りなすマーブル模様を書き手も読み手も楽しめばいいのではないでしょうか(連載小説を熱心に追いかけて読んだことがないので、全部想像です)。

窓ガラスごしに……のセクションA。「かなしくなるほど好きなの……」のセクションB。「いつか年をとって……」のセクションC。それぞれに性質のちがうセクションが飛び飛びになりながら再現をくりかえします。ひとつひとつのセクションに和声のアイデンティティがあり、その下地のうえをふわふわとメロディがたたずみます。音楽的な豊かさが、愛の実態のない深みを思わせます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ピチカート・ファイヴcouples

参考歌詞サイト 歌ネット>連載小説

ピチカート・ファイヴ ソニーミュージックサイトへのリンク

ピチカート・ファイヴ(PIZZICATO FIVE)のアルバム『カップルズ(couples)』(1987)