昨日に引き続き、The Flaming Lipsが私のなかを巡る。いや、逆か。The Flaming Lipsが発したもののまわりをうろうろする私。
昨日、彼らの曲『Race For The Prize』を中心にここで取り上げようかとよっぽど思った(「よっぽど」ってなんだ?)が、その気持ちを抑えて新しい曲の『Flowers of Neptune 6』に注目した(記事はこちら)。より後から存在や魅力に気付いたものを優先したためだった。
で、結局1日遅れて『Race For The Prize』に注目する。以前から好きだった曲。いま、改めて聴いてみる。
The Flaming Lips『Race for The Prize』はアルバム『The Soft Bulletin』(1999年)の1曲目。(2019年発表のオーケストラとのコラボ盤もある。)
浮遊する転回形ベース
私が好きなポイントは、ヴァースの低音の転回形。
コード進行的には、たぶん
|C|F|G|C|F|F|C|C—G|
とみていいと思う。シンプルだ。
と、あえて転回形を外して基本形で書いた。分析に長けた人は違和感があったかもしれない。
今度は、演奏から聴き取った低音のポジションを反映させてコードを書いてみる。
|ConG|FonA|G|ConE|FonC|FonC|C|C—G|
ざっくり、多分こんな感じか。シンプルなコード進行に浮遊感を与えつつ、ボーカルの旋律と調和している。
私がよく好んで聴くような、シンプルでアナログな編成・サウンドのロックバンドの演奏で、この低音の転回形・ポジショニングに出会うことはなかなか稀。彼らThe Flaming Lipsの音楽のやわらかさを思う。包まれて心地よい。
歌詞のない?多幸コーラス
この曲でいう、コーラス(サビ)はどこなんだろう。オープニングの、シンセストリング? みたいなトーンが音楽をリードする部分。あれがコーラスみたいなものか。バックグラウンドボーカル、人間の声を加工したみたいな音をともなっても聴こえる。曲中、何度もリフレインする。厚みと膨らみをもって、聴き手に降り注ぐ。
歌詞のないコーラス(サビ)、とでも言おうか。この部分のシンセストリングス?のメロディがいい。シンプルだけど、曲の印象の中核を握る。
ずっと、低音に対して7度の音程で進行する。
コード的にはこうか。
|FM7|—|Em7|—|Dm7|—|CM7|—|
この進行のうえで、くだんのシンセストリングのメロディは
|ミー|ーソーラソ|レー|ーソーラソ|ドー|ーソーラソ|シー|ードーレ|
みたいな感じ。
多少動きを出してるけど、基本、低音に対して長7度・短7度の音程を保つ。セブンスの響きが、音の綾を複雑にする。
下に広い低音
ここの部分で、低音が順次進行で下がっていくのに博愛を感じる。寛大な曲想を表現するのに、ベースの順次下行は鉄板だ。
この低音の下行進行をThe Flaming Lipsのように低いポジションで鳴らすには、一般的なエレクトリックベースのレギュラーチューニングでは音域を逸脱してしまう。
エレキベースのレギュラーチューニングで出せるは、下のE(ミ)まで。ところが、この曲ではその2全音下のC(ド)まで低音が聴こえる。C(ド)はこの曲の主音。最も重要な音だ。
ライブ映像を見ても、一般的なベースよりも低い音が出せる太い弦が加えられた「5弦ベース」を使っている様子はなさそう。通常の4弦ベースで、チューニングを下げているのかもしれない。
ブリッジに入ったところでは、大胆にベースが脱落する(ライブでは弾いていたりもする)。上のほうの音域では、ハープらしき音がポロンとメージャーセブンの響きを与える。コーラス前に盛り上がりをグっと抑えたうえで、コーラスに入る。多幸感が爆発する。カタルシス。
それぞれの「Prize」
歌詞に描かれる情景のひとつが、「サイエンティスト同士の競争」だろうか。人類のために、犠牲になるのは誰か? その一人ひとりに、家族やパートナーがいるだろう。
タイトルにもある、「Race」という単語。競争という意味もある。種族、人種といった意味もある。両者はつづりも発音もまったく一緒。お察しの通り、ダブルミーニングだろう。
「Prize」は賞の意味。目指すべき価値のあるものといった意味の広がりも想像する。
サイエンティストにとっての「Prize」とは何か。人類全般にとってはどうか。あなたや私にとって・あなたや私の大切な人たちにとっての「Prize」ってなんだろう。
儚げで陰と光のコントラストに富んだウェイン・コインのボーカルが、長短7度の複雑な響き、やわらかで膨らみ・厚みのあるバンドの宇宙船に乗っている。
バカスカ鳴るドラムスは何かを警鐘しているのか。ツインドラムでパフォーマンスしている映像も見たことがある。MVに登場したランナーの両の足が地を蹴るリズムと重なる。彼は、わたしは、あなたは、どこへ向かうのか。プライズ(賞)に向かって? ヒト(Race)として、生きる限りつづくレース(Race)をしている。
むすびに
The Flaming Lipsの編成は大きい。ギターやシンセ類のウワモノ、ベーシックも厚い。先にも述べたけど、近年のライブ映像にはドラマーも2人いるのがうかがえる。ワーナーの日本サイトのThe Flaming Lipsトップページのアー写だとメンバーが7人写っている。これが最新の編成か。
変容をおそれず、新しい可能性に挑戦してみえる彼ら。たまたま今(最近)の姿がそれだというだけだ。またしばらくして見たら、痛快な変貌を遂げているかもしれない。Raceの沿道の景色を、私も見たい。
青沼詩郎
いろいろ見つけた動画。貼っておきます。
関連インタビュー
POKKA GALLERY ウェイン・コイン(The Flaming Lips ボーカリスト)へのインタビュー
http://www.largeprimenumbers.com/pukka-gallery/interviews/int-wayne.html
貴重なソース。インタビューの書き手の「古國 宴代」さんにも関心が湧きましたが、書き手さんについてはあまり多くわかりませんでした。素晴らしい内容でした。