舗装された道路はなかなかホれない

The Beatlesの新しいドキュメント映画が9月くらいに北米で公開するとの話を聞きつけて、私は彼らのアルバム『Let It Be』をホっている。先日は1曲目のTwo Of Us』を取り上げた記事を書いた。

1曲目を取り上げたので、今日は愚直に2曲目の『Dig a Pony』を文字通り、ささやかにホりたい。

アルバム『Let it Be』の2曲目に収録されているのが『Dig a Pony』。

6/8拍子といっていいか? ユッタリしたブルースロックと形容してみる。

拍のカウント、異質のコードⅦ♭

曲の調はAメージャー。

シンプルなコードの中に、調の外の和音『G7(もしくはG)』を使っているのが肝(キモ)。ヴァースにもコーラスにも出てくる。

コーラスは、ドアタマがGだ。Ⅶ♭のコードである。(Aメージャースケールはラ・シ・ド♯・レ・ミ・ファ♯・ソ♯。7番目のソ♯をフラットさせてナチュラルGにして、その上に積んだコードだから「Ⅶ♭」)

ヴァースではG7の異質な響きを、イレギュラーな拍子を含めた6小節フレーズの中に織り込んでいる。

ヴァース

ヴァースの拍のカウントを、私はこうみる。

(1拍の単位は、8分音符とする。)

|6|6|6|9|6|6|}×2

コードにするとこうだ。

|A|-|F♯m |Bm G7|Bm G7|E|}×2

4小節目の9拍になっているところで、G7が出てくる。拍数に変化のあるところで、コード的にも異質な「G7」をかましている。(それと、次の6拍の小節にもG7が出てくる)

※4小節目~6小節目は、ドラムスのキックとスネアのパターンが一定せず、正直なところ、カウントのしかた・小節線の引き方で悩む。3拍で切る小節をつくって、7小節フレーズとするのもありかもしれない。ドラムスパターンが一定しないのであれば、コードや歌に合わせて区切るほうが自然だろう。

コーラス

コーラスは6拍×5小節とみておく。

コードにするとこうか。

G D|A|G D|A|-(“because”)|

最後の小節は、拍が停止するというか、わずかに伸びる感じがある。一瞬のフェルマータというか。ビートから開放される刹那。すかさず、絶妙なタイミングでリンゴ・スターのドラムスフィルインが入る。この小節は、不完全な拍数、もしくは付加のある拍数とみなくていいと私は思う。従って、5小節のコーラスということになる。この設計が、一種の意外性のスパイスとして作用している。

並走するハーモニー

「意外性の5小節」(勝手に命名)のうしろのほうに、私が特に気に入っている要素がある。コーラスのうしろのほうの歌詞“because”の手前、“to”という発音を伸ばしているところの音程だ。

ここの歌い終わり、すなわち発音を切る手前で、音程をフラットさせている。そう、絶妙なブルーノートだ。さらに感銘を受けるのは、ハーモニー・ボーカルも一緒に音程をフラットさせていて、ふたつのボーカルパートのフラットのさせ具合が、見事にピッタリなのである。調和しているけれど、決してつかず離れず距離を保った、強い個性の並走ともいえる。

この曲のことを、つくったジョン・レノン本人は結構ヒドくいっているように伝えるものも見つかる。けれど、仮にさほど入れ込まずに曲をつくり、さらりと録音に残したのだとしたらそれこそすごいと思う。作った本人が低く評価していようと、こうして時代を飛び越えて私を楽しませる芸当は並じゃない。

歌詞

ヴァースは、定まった構造のなかで単語を入れ替え、押韻している。そこをひょっとしたらジョンは、「押韻に頼っただけの遊び」というニュアンスで低くみたのかもしれないが、私が思うに、そのことば遊びこそが表現者としての職能だ。

また、“hog” “dog” “stoney” と、歌詞に出てくる単語たちが比喩するものを聴き手に想像させる。当時の社会情勢、音楽業界、ビートルズやジョン個人の身上のことに詳しければ、それら実際の事情をあてはめて具体的に読み解いて楽しむのもよし。そうした素養がなくとも、ジョンの置いた単語をみちしるべに、あなたが想像の世界で目をとめるものに従って、固有のストーリーが生まれるに違いない。

厳しさが生む貫通力

録音は1969年1月30日、場所はロンドンのアップルビルの屋上。かの有名な、ルーフトップ・コンサートの演奏だ。相当に寒かったらしい。その環境下で、このハーモニーをバチっと決めたのか。ギターやベースのコンビネーションもかっこいい。寒さにかじかんだ手や体から発せられた歌・演奏だとは驚く。

知識を得て後づけの印象を語るが、ビルの屋上であることや寒さ、ライブ形式での収録といった、あえての厳しくもチャレンジングな制作環境や制約が、録音物の出来、風合いにおける貫通力、刹那性みたいなものを高めていると思う。

当時のビートルズの、バンド内外での関係について私は明るくないけれど、その実態こそがこのアルバムを生んだ背景とあらば、その実態がどうであれ、私はその事実に全力で感謝したい。

レギュラー・2番?

アルバム『Let It Be』のリミックス『Let It Be…Naked』(2003年)では、曲順や収録曲を再考して変更しているにも関わらず、どちらにおいても『Dig a Pony』が2曲目に配置されているのが興味深い。『Let It Be…Naked』バージョンでは、ビリー・プレストンのプレイするエレクトリック・ピアノの演奏がよりはっきり聴こえて、また違った味わいを楽しめる。

むすびに

The Beatlesメンバーたちがどんな音楽を愛したのか、そのすべてまでは知らない。彼らは、ある種の音楽の形式を踏んだり、壊したりしつながら、光ることばを散りばめる。それを今日、受けとる私。このボーカルの音程は? ハモりはどうなっているか? 細かくみていけば、きちんと自分の答えにたどりつける。それが、The Beatlesのシンプルさ。だもんだから、真似したくなる。カバー、コピー、フォローしたくなる。さらに消化して独自の表現にまでもっていけば、オリジナルだ。世界中にバンドを生んだバンド、The Beatles。「Digんなさい、お好きなように。」そういって、音楽界の現場を今日も見守っている気がする。

青沼詩郎

【参考書】
『ビートルズを聴こう 公式録音全213曲完全ガイド』里中哲彦・遠山修司著、中公文庫、2015年