林檎殺人事件を聴く

作詞:阿久悠、作曲・編曲:穂口雄右。郷ひろみのシングル、アルバム『Narci-rhythm』(1978)に収録。

これは迷宮入りでしょう。謎が謎を呼んでいます。演奏、楽曲の情報量やコンテクスト(文脈)が多すぎる。アタマが混乱します。

たぶん、根底にあるのは、ハチャメチャやって、楽しいものは取り入れて思いついたものは実現して……というエンターテイメント根性と無責任でもいいから遊び散らかす的な方針なのか……

「フニ」は「不二」の意味だといいます。ふたつとないこと、あるいは実際はひとつであることを意味する言葉。

男と女、アダムとイヴをモチーフにしています。探偵が登場する。林檎は殺人に使われたモノとしてのモチーフでしょうか。毒林檎ってこと……?でもないようです、りんごについた歯形に虫歯の跡があるからキャンディ好きだと睨んだということは林檎を齧った人が死んだのでなくて逃げた犯人のほうが林檎をかじったってこと? じゃあ誰が何で死んだ殺人事件なのか?

(リンゴは齧るより切って食べるほうが好きです)

そもそも殺人事件じゃなく、林檎を齧って知恵を得てしまってから、恋だの愛だのをもつれさせてしまう男と女が後を絶たないということなのでしょうか。

音楽は素晴らしい。……のか正直なんとも、とにかく面白いし込み入っている。演奏がすごく良いのです。シックスティーンのグルーヴを出すドラムスとベースがめちゃくちゃ良いです。よく聴くとハイハットでシックスティーンをさりげなく出しているのはサビくらいで、あとは1小節に4回打っているかどうかという感じ。オープン・クローズを織り混ぜて緩急を出すプレイが細かく巧い。

じゃあいちばん細かいシックスティーンを恒常的に出し続けているトラックはなんなのかなと思うと、ラテンパーカスでしょうか。ひかえめな音量感ですがイントロからシックスティーンを恒常的に出している感じがします。あと右のほうにいるエレキギターでしょうか。

あまり16分音符で埋めすぎていないのに、土台のキックやベースのパターンが16分割のキビキビしたリズムになっているので、16分割をうるさく鳴らし続けなくても16の感じが出ているのが絶妙な編曲と演奏です。重複して述べるけど、ほんとにハイハットがチキチキ感出すのはサビくらい。

ボーカルモチーフも面白く、“殺人現場に”……と、勢いよく16分割のリズムで飛び出したかと思えばロングトーン。郷さんの照り・艶ある独特の声。リズミカルで揺れや伸びが堪能でき、歌手の魅力が出ています。樹木希林さんのオクターブ上のまっすぐな発声がユニゾンします。色みが出ますね。特別な企画をやっている趣です。

トランペットが異様に高らかにわめきちらしたり、フルートがオブリガードしたりとさまざまな音が散り、漂い、轟きます。これらのオブリのモチーフでも16の感じがよく出ています。左のほうではエレピの音というのか、ちょっと尾鰭のついた軽やかなトーンの鍵盤の演奏がベーシックリズムとして和声感とリズム感を支えます。フレーズひとつひとつにキャラクターがあって、ウワモノとして華があるようでもあるし種々のモチーフや散らかんばかりの華やかな編曲にかえって溶け込んでしまう役割な気もします。旅行に行くぜ!感が謎にあります。なんなんでしょう、私ももはや混乱しています。なんなんだこの曲は。

暴食のエンターテイメント

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あまりによくわからなかったので検索するとさらによくわからない。というか、とにかく横断的になんでもやっちゃう暴食のエンターテイメントであることを感じました。

この楽曲が挿入されるドラマはさまざまな番組と横断的につながり、関わりをもつ。検索すると出会える映像のように、海外ロケをする。ドラマなのに生放送をする。挿入歌で歌い出す、踊り出す。キャストも、通りがかりの芸能人を出しちゃう。

複数のメディアやコンテンツを巻き込み、接触しまくっている。これは、今においても、多様なSNSやユーチューブやライブ・コンサートやジャンルを超えたアーティスト同志のコラボやといった形でさまざまおこなわれているとも思います。雑多に、とにかく娯楽コンテンツを盛り上げるためにあれもこれも貪欲にやっている。ある種の無責任さがあるくらいのレベルでないと、ここまでできないのでは?とも思わせます。一応ムー一族はドラマだといいますが、複数のメディア・プラットフォームに渡る出し物、コンテンツなのだと思わせます。まあ、メディアとしては一応「テレビ」なのでしょうけれど。

男と女の深淵なつながりと由来を思わせる阿久悠さんの作詞。「におわせ」感がさすがです。

なんで探偵は失神してしまうのか。探偵と大男が恋愛関係に発展する兆しでしょうか。

“やってきました殺人現場”って……はるばる来たぜ 函館へ歌ネットサイトへのリンク)、じゃないんだから……「遊びに来ました」みたいなノリで殺人現場という強いワードが出てくるのです。鑑識課員とか捜査一課とかいった単語も、歌の鑑賞をしていて初めて巡り合いました。こんな単語をつかった歌詞はそうそうないです。異質でヘンテコ。迷宮入りです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>林檎殺人事件

参考歌詞サイト 歌ネット>林檎殺人事件

郷ひろみ 公式サイトへのリンク

『林檎殺人事件』を収録した郷ひろみのアルバム『Narci-rhythm』(オリジナル発売年:1978)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『林檎殺人事件(郷ひろみ・樹木希林の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)