作詞・作曲:長渕剛、編曲:瀬尾一三、長渕剛。長渕剛のシングル、アルバム『LICENSE』(1987)に収録。

“ぴいぴいぴい”。なんの音なのでしょう。風が吹き抜ける音? エンディングにあらわれるハーモニカの音のシンボルでしょうか。いずれにしても、孤独感と哀愁が漂います。グループサウンズのバンドなど聴いていると時折出会うオルガンのクセの強めなトーンもぴいぴい……という擬音を想像しますが『ろくなもんじゃねえ』にはオルガンは入っていません。

シンプルな編成が鮮烈で印象的です。ギターボーカル&ハーモニカふくめて、メンバーがハモリを兼任すれば4人で再現できそう。暗がりで少数精鋭がスポットライトを浴びる、ソリッドでタイトでストイックで熱い真剣勝負なライブステージをイメージさせる音場です。

左にギターのストラミング、じゃがじゃがブライトな音色で、耳にぴんぴんくるキャラクターの出たサウンドです。このギターの音も「ぴいぴいぴい」に私の中で重なります。

右にピアノ。編曲者に名を連ねている瀬尾一三さんの演奏でしょうか?コードとリズムを出しつつ、ボーカルの隙間に適確で実りある真っ直ぐなオブリガードを突っ込みます。アコースティックライブだったらギター弾き語りとこのピアノだけ、という2人編成でも映えるでしょうね。

ドラムスの実直なダカダカとつっこんでくる演奏がまた楽曲の骨張って不器用な人格を増長します。ベースは確実にビートの中心をおさえ、つっこんできそうなドラムスをだきとめます。ドラムスのタムが定位感を醸していますね。フィルインで左右に自然に広げている印象です。

長渕剛さんのボーカルが字ハモです。メインより上の音域で、主にAメロ以外の部分を字ハモしている感じです。音域がメインより上という点が実は、シンプルな編成の楽曲のアレンジを確実にエモーション豊かなものにするのに一役、二役を買っていそうな感じです。これが下ハモだったらだいぶ印象がちがったでしょう。華美になることなく、鋭い精度で感情を煽ってくる。これが、たとえばストリングスのパートを加えて豪勢に色あざやかに……なんて編曲をやりがちなポップソングの定石は、『ろくなもんじゃねえ』にはお呼びでない。もちろんそういうライブアレンジがあってもかまわないと思いますが、私はたった4人程度で再現できそうなこのコンパクトなアレンジを支持します。

エンディングにだけハーモニカが出てくるのもポイントです。間奏、前奏でも登場させるアレンジも数多可能だとおもいますが、そこは「ぴいぴいぴい」の居場所です。コンパクトだが確実なサイズもあって、かつ飽きさせず、芯の通った孤独なプライド……それも風がふいたらよろめきそうな繊細なプライドを感じさせます。

ハーモニカの息づかいがリズムをなしてゆらめきを与えているあたり、長渕剛さんが息を演奏のためにコントロールする達人であり、ハーモニカのすぐれた演奏者であるのを思わせます。ライブではホルダーを用いて弾き語りで演奏できそうですが、この録音では手持ちでゆらめくニュアンスと響きが表現されています。

長渕剛さんの楽曲といえば、酒場のカラオケとかで一般のリスナー(歌い手)にあんまりにも好まれるので嫌気がさしたその店の店主が長渕さんのレパートリーを客がやることにある制約をかける……といった主旨のツイートが伸びているのを目にしたことがあるくらいに、猛烈に熱烈に好まれ、支持される数多のレパートリーの持ち主ですが、今回純粋にその楽曲をリスニングしてみると、まさに「この歌手自身のための唄」であるのを感じるもので、個人的には尾崎豊さん、長澤知之さんといった激情、それも本人だけの唯一無二の孤高な激情をフィルターレスにほとばしらせる……そういったカリスマ性を知覚させるアーティストであるのが、私の胸のなかで位置付けられた感覚がします。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ろくなもんじゃねえ

参考Wikipedia>LICENSE (長渕剛のアルバム)

長渕剛 公式サイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>ろくなもんじゃねえ

『ろくなもんじゃねえ』を収録した長渕剛のアルバム『LICENSE』(1987)

Tsuyoshi Nagabuchi

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ろくなもんじゃねえ(長渕剛の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)