作詞:星野哲郎、作曲:米山正夫、編曲:佐倉正巳。西郷輝彦のシングル(1966)。

ふわっと高いところにのぼる軽やかさが見事な歌唱です。さすがなんて私がいうのはおこがましいですが、別格の歌手と讃えたい。『モダーン・ラヴァーズ~西郷輝彦のポップス・クロニクル』(2022年)などをチラ聴きするに、彼のミュージシャンとしての幅の広さ、ボーカリストという人種としての器量の大きさをなおさら思い知ります。いわゆる芸能人という印象を持つ人も多いかもしれません。本物の一流タレントさんであるのを今更ながら思います。

『初恋によろしく』。先述したように、ふわっと可憐なボーカルが軽妙です。男声でこういう可憐な軽妙さが出せるのは、簡単にやってのけてみえますがすごいことだと思います。

サウンド、編成がまた肩の力が抜けていて好感。左側にドゥ・ワップといいますがBGVといいますか、コーラス隊。もっと左はしにストラミングのアコギ。右にはバンジョーがカントリーのような長閑なサウンド。プレーンなナイロンギターのオブリ。ハーモニカがふわっと漂うように入ってくるのもたまりません、このあたりの音域にいるハーモニカとか、この音源には入っていませんがトライアングルとかタンバリンはどんなに音量を下げても埋もれない楽器だと思っています。『初恋によろしく』はウワモノ含め音量バランスがいいですね。

まんなかのベース、アコベもまた力の抜けた気持ちのよいのどかな演奏です。ドミナントのときに第2転回形をとるなど、ふわっと感を増長します。ドラムスもいませんし、ほとんどベーシック、リズムやグルーヴとハーモニーの基盤をベースが担っている感じで、すべてのパートがこのパートに敬意と信頼を寄せたようなアンサンブルになっているのを私は匂いとります。

真ん中では口笛。ものさびしげに、単旋律で口笛が用いられることが圧倒的に多い気がします。『初恋によろしく』は和声音程、ハーモニー、口笛の重音が聴ける貴重なポップソングといってよいでしょう。左側のコーラス隊とあいまって、ハーモニーと軽妙なノリを演出します。とにかくアンサンブルが良い。

音の分離もはっきりしています。右と左に楽器(パート)をがっつり振る。まんなかにいるのはベースとメインボーカルだけです。ボーカルが空いたときに口笛が入るくらいでしょう。間奏でナイロンギターが目立つところでも真ん中に定位を変えたりせず、右にいるままです。自然で、こういう音場づくりが私は好きです。

バラと、それにトゲがあることを、なにかの物事、とくに心や感情の綾の比喩に用いることは、いったい何百年、人類がやってきたことなのでしょう。

甘美なたたずまい、美しさと……花弁のごく親しいところについてまわる、棘の要素。かわいいものだけでは「かわいい」の価値が崩落しますし、美しさも甘美さも、そうでない危険を担保に、はじめてその価値を私はみてとることができます。わびがあればさびがある。きれいなばらにはとげがある、それでこそ美しいのだと……茎がつるっつるのばらは、確かに想像しただけでなんだかまぬけです。西郷輝彦さんの美しい傑出した楽曲『初恋によろしく』を前に、私はなにを想像しているのか……。まあ、私のまぬけも、何かの聡明さや理知の担保だとご理解・ご厚顔ください。

青沼詩郎

参考Wikipedia>西郷輝彦

参考歌詞サイト 歌ネット>初恋によろしく

音楽ナタリー>「御三家」西郷輝彦が死去、前立腺がんで闘病 2022年2月にご逝去された旨、彼のキャリアを振り返りつつ簡潔に伝えるWeb記事。

西郷輝彦『初恋によろしく』を収録した『アクター ~西郷輝彦55周年記念ベスト・アルバム~』(2019)(参考HMVサイトへのリンク

『モダーン・ラヴァーズ~西郷輝彦のポップス・クロニクル』(2022)

Actor Teruhiko Saigo

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『初恋によろしく(西郷輝彦の曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)