リスニング・メモ
右にオブリガードのアコースティック・ギター。左にストロークのリズム・アコースティック・ギター。
ベース。平歌では1コードに対してストロークも1回を基調に。サビではストロークを増やし音程の動きも多くなります。コシがあってハイエンドな音色です。
ドラムス。ダイナミクスに幅のある表情豊かな演奏が妙です。平歌や間奏ではかなり抑えていて、スネアのスナッピー(響き線。裏側のヘッドに接するように張ってある金属の縮れた線)が短くパツッと鳴り、衝突と胴鳴りを抑えた音色です。サビではダスンッと胴に響く音を聴かせています。またサビではスネアのストロークにタンバリンも重ねていますね。
オルガン。ヒュー…と、高い周波数にピークがある感じの音色です。主にコードチェンジの度に1ストローク。ベースの動き方にも似た2分音符中心の動きです。イントロで目立っていますね。
ピアノ。ベーシックリズムとハーモニーを支える演奏です。強拍に和音を置きつつ、8分音符単位の単音や分散で裏拍にかかるフレーズをみせます。オカズ(フィルイン)、オブリガードでは16分音符での動きも。
ハーモニカ。サビや大サビ、サビ後で歌にかぶってきます。バンドに埋もれることのない、細く鋭い対旋律を描き入れて哀愁を演出しています。鋭く澄み渡る音なのですが、プレイヤーの口の中に響いたマイルドな音色もうかがえます。
サクソフォン。大サビ前の間奏はカドの丸いトーンで哀愁を演出しています。構造も音色もまるで違う楽器なのに、ハーモニカが醸す哀愁とも親近感があります。時折人の声かと聴き紛うほどの温かみがあり、優しく繊細なプレイです。息遣いでゆらめくビブラートが心地よく、こちらがほろ酔いになってしまいそうです。
メインボーカル。河島英五の声質。鼻への抜けを抑え、喉に引っかけて猛々しく胸に深かせる歌唱は圧倒です。サビの「♪飲んで(泣いて)」の張り上げたひと声、「で・て(de/te)」の擦れた悲痛なサスティンで私の感情の防波堤を全壊させ、心を泪の海に浸します。ダブリングせずワントラックで声のキャラクターを余すことなく伝えていますね。
曲について
作詞・作曲:河島英五。1975年のシングル『てんびんばかり/酒と泪と男と女』、アルバム『人類』に収録されました。当時の名義は河島英五とホモ・サピエンス。
編曲は宮本光雄。河島英五の魅力を素直に伝え背中を押すシンプルな編曲が好感です。
感想
男性性や女性性の捉え方に前時代を感じるのは特定の曲に限った話ではなく、たとえば1970年代くらいまでに作られた曲の歌詞の多くに共通することかもしれません。それが悪いというのではもちろんありません。
この時代を生きた河島英五。彼はミュージシャンであり歌い手ですが、演じる人というよりは、素の男・河島英五として歌った人なのではないかと私は思っています。その愚直ともいえる裏表のなさからくる作曲、作詞、歌唱。曲の発売から40余年を経た私の心を震わせ、不意に涙が出るほどです。
私は自分を不器用だと思っている反面、器用だとも思ってもいるのですが、私の中にある側面を河島英五は全身で発しているのです。もちろん、勝手に河島英五の波長に、偶然私がコミットした、共振したというだけの話なのですけれど。この曲に続けて私は『何かいいことないかな』を聴きましたが、すでにファンになっています。
余談ですけれど、河島英五は生きていれば私の父と同い年です。河島英五は48歳(2001年)没とのことで、若い逝去だったと思います。
現在68歳の私の父は絵画が好きな人です。私に比べれば音楽には疎いですが、そんな彼の所持品(実家蔵)の中にあった数少ない音楽ソフトが河島英五でした。
河島英五が提示した「素の男」の歌に心震わされたのは、少なくとも父、私……それからあなたはどう思いましたか?
青沼詩郎
ピアノの弾き語りとハーモニカ。存在感の大きさにピアノが小さく見えるような錯覚が…。
『酒と泪と男と女』を収録した『ゴールデン☆ベスト 河島英五 ヒット全曲集』
『酒と泪と男と女』を収録したアルバム『人類』(オリジナル発売:1975年)。
配信中のベスト集。
ご笑覧ください 拙演