『やさしさに包まれたなら』曲について

作詞・作曲:荒井由実。編曲は松任谷正隆。アルバム『MISSLIM』(1974)に収録されました。シングル版は音源が異なり、テンポもアレンジも違います。そちらはベストアルバム『YUMING BRAND』(1976)に収録。

シンプルな編成は楽器、歌声といったフィジカルの音を近く感じさせて非常に魅力的。ふたりのギタリスト、ベーシストとのハーモニーワークには確かな技量があります。タンバリンのリズムのユーミン弾き(叩き?)語り、客席の中央に確かな4人柱。歓迎ムードの好演です。

『やさしさに包まれたなら』(アルバム版) リスニング・メモ

アニメ映画『魔女の宅急便』に使われたこともあり、私の頭に思い浮かぶのはアルバム版のほう。こちらを聴いていきます。

右にハイ・ポジションのアコースティック・ギター。チャキチャキとリズムを先導する柱です。カポタストを用いている風の、擬似的な開放弦を交えたサウンドでしょうか。

左にもアコースティック・ギターがあり、左右で音像に幅を出しています。役割はリズムを出すストロークで似ていますが、左のほうがセカンド・パートという感じです。右にリズムの先陣を切らせて、左を追加で録音し音像を広げている感じです。ストロークリズムや弦の引き分け方に差異を出しています。打点の密度は左のほうが薄めに感じます。2本のギターで爽快に走り抜けていますね。

エレクトリック・ピアノがやや右寄り奥に聴こえます。ポ〜ンとアタックの丸い金属質の揺れた奥行きある余韻のサウンドです。前に出る音ではありませんが和声を支える重要な役割です。リズム隊の先陣から一歩引いたところで気持ちよく動いてくれます。最後にサビを繰り返しますが、サビとサビのつなぎ目の移勢を連ねるフレーズが華です。

エレクトリック・ギター。ボトルネック奏法のポルタメント(無段階のカーブでなめらかに音程を変化させること)が奥ゆかしく聴こえます。言葉少なめにときおり合いの手するのです。ワンコーラス目が終わったところの間奏でスポットライトが当たります。両サイドにダブっているでしょうか? 右と左でやや時間差のある響きが出ています。かもめが鳴くような声にも聴こえる演奏ですね。2コーラス目になるといくぶん饒舌になって語彙が増えてきます。2回目のサビにもなるとだいぶ存在感が増しますね。

ベース。平歌で1拍ごとにコードの根音、第5音を交互にストロークするパターン。強拍の前に引っ掛けるように装飾的なストロークを入れています。音を短く切ってもいて、ニュアンスに富んだ小気味よいグルーヴを出しています。

ドラムス。かなりタイトにミュートを効かせているでしょうか? トスッという短い衝突音にパスッというスナッピーの音がキレ良くついてくるスネアドラムの音が主です。キックはベースと合わさってリスニング環境によっては聴き取りづらい? 「コッ」と軽めのアタック主体の音です。キックは平歌は1拍目と3拍目のストローク、サビでは強拍に打ったあとに移勢させた打点をつくってノリを出しています。スネアのストロークはオルタネイトでダイナミクスに差異をつけた16分音符を刻んでいます。両サイドのアコースティックとともに緻密かつ精確なリズムの基盤になっています。

メインボーカルには豊かな残響がついていますが澄み渡った気持ちのよい音色です。ホール系のリバーブでしょうか。平歌では1トラックで単一の輪郭線。語りかけるように歌詞が入ってきます。サビではダブって非日常的なフックのある音に仕立てて印象づけていますね。

ソングライティングについてのメモ

“小さい頃は神様がいて不思議に夢を叶えてくれた”(『やさしさに包まれたなら』より、作詞・作曲:荒井由実)

原曲はG♭メージャー調。

ヨナ抜きのペンタトニック風のメロディです。跳躍が多いですね。

冒頭の“小さい頃は”に注目。♪ソ♭ーソ♭ファーレ♭ーシ♭ミ♭ーラ♭ー。主和音のソ♭シ♭レ♭を感じさせるメロディなのですが、ファが含まれているのにご注意ください!

これは主和音にとってメージャーセブンの音なのです。これがサレオツメロディの鍵を握る音なのです! ヨナ抜き音階の「ナ」にあたる、ⅶの音です。そう、「ヨナ」を完全に抜いてるわけじゃないのです!

ヨ(ⅳ)も抜かずに使っているところがあります。この出しどころと出し方が素晴らしい!

目にうつる全てのことはメッセージ(『やさしさに包まれたなら』より、作詞・作曲:荒井由実)

の、“全てのことは”のところにご注意ください。ここ、音名でいうと♪ド♭ド♭シ♭シ♭ラ♭ソ♭ラ♭ーとなっています。このド♭~シ♭の跳躍は長7度跳躍。メージャーセブンスの響きを思わせる跳躍です。

ここのコードはⅡm。シ♭はナインスの音にあたります。コード的にはメージャーセブンスではありませんが、付加的な音を選んでメロディに軽妙な緊張感を与えているのです。シティポップだとかニューミュージックだとかいうラベリングを言い出す人を産むほどのことがあります。さすがです。こうした響きをメロディに持たせたことは、革新的だったに違いありません。新しくて、洗練されて、都会的でかっこいいものだと人々に認められ、浸透したのでしょう。

それでいて、メロディの基盤にはヨナ抜き的な雰囲気が漂っています。伝統的な香りや懐かしさを貴重に、音楽の新しい響きに向かってステップしているのです(跳躍の多いメロディなので、音程の取り方まで“ステップ”しています!)。このブログの他の記事でも言い及ぶことがありますが、ヨナ抜きを基調にしつつオイシイところのみで「ヨナ抜き」を破るのはヒット曲に頻出する特徴です。これを私は勝手に「ペンタトニック外し」と呼んだこともあります。「ヨナ抜き破り」でもいいか。

感想

メロディに与えられた、革新への翼と、ペンタトニック(ヨナ抜き音階)のなつかしさの郷土。地面と空を思わせますね。

歌詞も、子ども時代と大人になったあとの両方を思わせる情景の飛翔、時間の振れ幅があります。

ユーミン(敬愛を込めて)の曲は、理屈抜きでいい!好きになってしまうし、語る言葉に尽きる良さがあります。

でも、こうやって理屈でとらえてみるとわかることもあって、やっぱり好きになった理由を言葉にすることもできるんだなと思い直します。

青沼詩郎

松任谷由実 公式サイトへのリンク

『やさしさに包まれたなら』を収録した荒井由実のアルバム『MISSLIM』(1974)。頭の中に真っ先に再生されるのはこちらのテンポが軽快なバージョン。

『やさしさに包まれたなら』のシングル版を収録したベスト『YUMING BRAND』(1976)。しっとりしたテンポ。速いテンポのアルバム版とは違った独特の説得力があります。

ご笑覧ください 拙演