倍賞千恵子『世界の約束』を聴く

ポロンポロンと弦楽器のアルペジオが伴奏の中心。クラシックギターかハープの音に聴こえます。どちらでしょうね。両方入っている? 左側に定位した、もういくぶん小型でキランとした竪琴のような楽器の音色がきこえます。作曲者の木村弓が弾き語りに用いるライアの音にも似ています。これにピアノもぽろんぽろんと添います。いくつもの弦の振動が複雑に、かつ調和して心にゆらめきかけます。

前奏、間奏、後奏……トップノートと和音を同時に聴かせる局面ではピアノがリードします。独奏のようになる瞬間も多いです。

歌唱のあるところではナイロン系の弦っぽいアルペジオが主力です。2コーラス目の歌い出し付近ではチラチラと高めのポジションのピアノがきれいです。

低音はコントラバスでしょうね。ズゥーンと伸びやかです。フィンガーピッキング……ピツィカートでしょうか。こんなによく伸びるアコースティックベースの気持ち良いサウンドは貴重です。

ストリングスはコードのトップノートを厚くします。層を成して減衰系の音色(ピアノ、たてごと・もしくはギターやベースの類)を支えます。合いの手やオブリガード、フィルインの役割は控えめに、おおらかなリズムでサスティンし歌の抒情を引き出します。

倍賞千恵子の歌唱。艶やかで伸び、ゆらめきます。身を任せさせてくれる理性と包容を持っています。2コーラス目なかばの歌詞“夜にひそむ”のところの高音域のカーブも優しく繊細で美しい。子音と母音のセパレーションもよく、かつ滑らかです。

ボーカルはじめ複数のトラックはパート別に録音しているかもしれません。ノイズなく、非常に静謐。澄んでいますが柔らかい。デジタル録音でしょうか。ボーカルのむこうに抜けていく残響がホールの空間を思わせます。伴奏はほどよい近さの音像。

打楽器の類がないのでアルペジオパターンや歌詞がリズムの中核です。

木村弓『流星』(2003)収録 『世界の約束』を聴く

木村弓が歌う『世界の約束』を収録したアルバム『流星』(2003)

出だし、ピアノ1台の伴奏による歌かと思いました。途中から弦楽器がささやかに支え、添うように入ってきます。右にヴィオラ、左にヴァイオリン。ヴァイオリンが2人くらいいるかな? と思いましたがクレジットを見るとそうでもなさそう。複数の弦を同時に鳴らす奏法を用いているのでしょうか。倍音豊かな音色です。共鳴を誘う弓づかいを感じます。開放弦でしょうか。おもに低音はピアノに委ね、限られた人数のボウイングがふわっとかろみある調和をなしています。

息づかいが明瞭に、臨場感をもって聴こえるヴォーカルです。ヒス・ノイズがサァーっときこえています(私のリスニング環境のせい?)。

ピアノの伴奏、弦楽器とも息ピッタリです。4人で同時に録音したのではないでしょうか。空間の響きと楽器ごとのオン・マイクの良いところが引き立てあっているように思います。実際はどのように収録したのでしょうか。

曲の名義など

作詞:谷川俊太郎、作曲:木村弓。木村弓のアルバム『流星』(2003)に収録、編曲:中川俊郎。倍賞千恵子のシングル(2004)はアニメ映画『ハウルの動く城』主題歌。倍賞千恵子版は編曲:久石譲。

歌詞

“涙の奥にゆらぐほほえみは 時の始めからの世界の約束”(『世界の約束』より、作詞:谷川俊太郎)

涙の理由はなんでしょう。悲しいことがあったのでしょうか。ほほえみの記憶の持ち主。ほほえんだ、誰かがいたのでしょうか。約束の内容は未知。運命にも似ます。意思を超越したもの。それを世界の約束と呼ぶのか。

“いまは一人でも二人の昨日から 今日は生まれきらめく 初めて会った日のように”(『世界の約束』より、作詞:谷川俊太郎)

誰かと一緒にいた過去があるようです。今は過去のうえに成り立ちます。いえ、上も下もないのかも。原因から結果に向かって時間は流れているだなんて、誰が証明できるでしょうか。今日が昨日から生まれるのなら、昨日が今日から生まれたってよさそうなものです。

出会いの日は美しかった。今日もまた美しい。だから、今日と出会った日は、美しさでむすばれている。別べつのものだけれど、似ている。共通点のあるもの同士、ふたつの関係。違いは、あなたが、いるかいないか。

“思い出のうちにあなたはいない そよかぜとなって頬に触れてくる”(『世界の約束』より、作詞:谷川俊太郎)

ほほえみをくれたあなたがいたはず。“思い出のうちにあなたはいない”とは、のどに引っ掛かります。なぜ? 思い出未満ということでしょうか。この胸に生きているから? 次のラインをみるに、答えがあります。風には姿がない。だけど、確かにそこにいます。どこかからどこかへ向かうエネルギー。熱量を持っている。まるで生きているみたいに。風には、命があるようです。感じることができる。与えることもできるでしょう。それを思い出というには、過ぎます。ここにいるのだから。

“木漏れ日の午後の別れのあとも 決して終わらない世界の約束”(『世界の約束』より、作詞:谷川俊太郎)

別れは始まり。ものごとを区切る点とみなせます。別れには、うつくしい昼間がよく似合う。ふしぎです。光に満ちた庭で、静かな色の服を着た人たちが、慎み深い表情をして墓標のかたわらに佇む。そんな映画のワンシーンを思い浮かべます……その経験があってもなくても、自分のことのように。意思すらも超越したものが世界の約束なのだとしたら、太陽の光が枝葉をすり抜けて私の顔に降り注いでも、愛する誰かの顔をこの目で見るのが最後になっても、その糸は張ったままそこにあるはず。はさみでちょん切っても、切れない糸です。だって、糸じゃないもん。

“いまは一人でも明日は限りない あなたが教えてくれた 夜にひそむやさしさ”(『世界の約束』より、作詞:谷川俊太郎)

気持ちを沈めるために、だいたい等しい間隔で夜はいつもやって来てくれるのかもしれません。包容。いのちを育む時間。号令するみたいにやって来なければ、あなたはすぐ無理をするでしょう? 夜のやさしさを他の言葉で語るなら? やさしく待っている、というほうが近いでしょうか。私は、必ずたどり着いてしまうのです、自分の足で。自分の足なのに、ベルトコンベアに乗って流れ着いたみたいに、必ずいつも至ってしまう、夜の帯へ。そこへ至ったある日、となりにいたのは、“あなた”だったかもしれません。“いま”とは、あの日のことかもしれない。もう来た日かもしれないし、まだ先かもしれません。

“思い出のうちにあなたはいない せせらぎの歌にこの空の色に 花の香りにいつまでも生きて”(『世界の約束』より、作詞:谷川俊太郎)

風にあなたを見れば、水のながれる色に、空の遠い音に、花のくすぐるこそばゆさにだって宿ります。あざやかに、目の前にあるのだから、思い出とは別もの。押し込めて、しまっておくものの外側に、いつまでもあなたがいるのです。

後記

別れの歌なのかなと思いました。この世のすべては、あなたと関係のあるものなのです。何を見ても、あなたと結びつけ、想像する私。思い出を見ているのではない。あなたを見ているのです。風に、せせらぎに、空に、花のにおいに。目をとじてたくさん聴きました。

3拍子は輪廻をおもわせます。『ハウルの動く城』エンディング版で、この歌につづく『人生のメリーゴーランド』と親和します。『世界の約束』のほうが先に発想されたようで、最初からアニメ映画主題歌として作曲されたのではないようです。

妄想ですが、原因と結果って、そんなに絶対的なものなのかと揺さぶりたくなります。最後のBメロの歌詞。“いまは一人でも明日は限りない”。今の行動を選ぶと、未来は絞られていきます。だれかと二人、それ以上になる自由は今にあるのでしょうか。

いつだったか、谷川俊太郎の発言もしくは著作で触れた言葉。詩って、意味のむこうがわにあるものだ。私の記憶があいまいで、不正確ですがそう覚えています。谷川さんがそう記したのではなく、私の解釈を表現しただけなのででたらめです(出典を忘れてごめんなさい)。でも、「詩」を言い得ているなと思ったのです。

青沼詩郎

関連リンク

Wikipedia>谷川俊太郎 そういえば、私の母校の校歌も谷川さん作詞でした。

谷川俊太郎 Twitter 

ほぼ日刊イトイ新聞>詩人の気持ち。のなかで、谷川さんは“言葉から意味を剥奪したいという気があった”と語っています。私がどこかで読んでうろ覚えしている「詩は、意味の向こうがわ」みたいなのと通ずるところがありそうです。

木村弓 公式サイトへのリンク

Wikipedia>世界の約束

倍賞千恵子『世界の約束』を収録したスタジオジブリ設立30周年記念オムニバス『スタジオジブリの歌 -増補盤-』(2015)。増補版は2008年発売のオムニバス『スタジオジブリの歌』に『借りぐらしのアリエッティ』『コクリコ坂から』『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』『思い出のマーニー』関連作を収録、10曲増し。

スタジオジブリ非公式ファンサイト>スタジオジブリ設立30周年記念! 「スタジオジブリの歌 -増補盤-」が発売!

Wikipedia>スタジオジブリの歌

倍賞千恵子が歌う『世界の約束~人生のメリーゴーランド-エンディング- 』を収録した『ハウルの動く城 サウンドトラック』(2004)。『世界の約束』の歌唱部分のあと、後半にインストゥルメンタルのテーマ音楽がつきます。聞き覚えのある人も多いのではないでしょうか。

ご笑覧ください 拙演