壮麗なMV

ツイッターを見てたら飛び込んできた。小山田壮平『OH MY GOD』。この曲のMVリンクを貼った、ご本人のツイート。

https://twitter.com/oyamadasohei/status/1260948041923571712?s=21

緑の地に彼が立ってギターを持って歌っている。それを、ぐるりとカメラがゆっくりと回り込みながら映している。あたりは何もない……いや、空が、海が、緑がある。そこで、ひとり歌っている映像だ。インパクトがある画がすごい。これを無視できるほうがすごいくらいだ。壮麗で、開放的。ツイートについていた30秒程度の短い映像をみた。それだけで、カタルシスもどきを感じた。

新世界と原風景

“砂埃の街に 新世界が響く”(『OH MY GOD』より、作詞:小山田壮平)

これが、サビの歌い出しである。“新世界”ってなんだろう。想像する。ドヴォルザークの交響曲『新世界より』を思い出す。あと、大阪にそんな名前の商店街があったっけ。

さきほどのMVのロケ地だけれど、小山田壮平の原風景かなと直感的に思う。九州出身の彼だ。島なんかもあって、あんな感じの、きれいな緑の崖(丘?)があるんじゃないかなと思う。

私も、そのあたりを旅したことがある。なんだか、見覚えあるなと思った。同じ場所じゃないかもだけど、似た場所を知っている気がする。“砂埃の街に”というサビの歌い出し。これも、やっぱり彼の原風景の一部なんじゃないかなと思う。

九州といえば、炭坑の街というイメージがある。現代からいくぶんさかのぼった時代のイメージだろうか。リリー・フランキーの『東京タワー』を読んだ経験が私にはあって、そのときに抱いたイメージをこじつけているだけかもしれない。でも、私の思う九州にはなんだか砂埃が似合うのだ。風と砂埃の街。そんなこと言ったら誰か怒るか知れない。大きな偏見で、派手な誤解かもしれない。

映画『#ハンド全力』と、現実のバックグラウンド

歌に、歌い手の実体験を込めるべし、なんてルールはない。だから、この曲で小山田壮平が歌っていることを、小山田壮平本人のバックグラウンドと結びつけて語るのは暴挙の一種かもしれない。

でも、小山田壮平のやってきた音楽は、真実を描いていると私は思っている。嘘がなく、隙もない。曇りもないし、濁りもない。勝手にそんなイメージを抱いている。だから、この『OH MY GOD』だって、本当にやってくれたと思っているのだ。

この曲は、映画『#ハンド全力』に書き下ろしたものだ。だからなおさら、小山田壮平本人の原風景はともかく、映画の内容において重要なメタファーなのかもしれない。それは、映画をまだ見ていないからわからない。新型コロナウィルスの影響で、今月を予定していた公開は延期になっているようだ(この記事の執筆時、2020年)、映画の公式サイトを見るに。(http://handzenryoku.com/

映画『#ハンド全力』監督の松居大悟も、福岡県出身者とプロフィールにある。年齢も小山田壮平と近い。2人は、人生のバックグラウンドの空気感を共有できる仲なのかもなと想像する。『OH MY GOD』MVのほうを監督したのも、松居大悟だという。世代の空気感の共鳴が作品に良い影響をもたらしそうだ。創作と現実は別だといえばそれもあるが、表裏一体で不可分のものと理解することでひとつの物差しが得られる。よい音楽や映像の前では、そんなのどうだっていいとも思う。

夕焼けチャイムと郷愁

私が「新世界」で思い出すのはドヴォルザークの『新世界より』だと前半に書いた。それも、第2楽章のことだ。日本で『家路』と呼ばれる。あの曲が、夕方の街に轟く地方がある(あった)んじゃないかと想像する。遊んでいた子どもたちに、家に帰ることを促す、いわゆる「夕焼けチャイム」

小山田壮平の故郷に、小山田壮平が育った時代に、あのメロディがはたして夕方に轟いていたのかどうか知らない。別の音楽の別のメロディだったかもしれない。でも、私は勝手に、「新世界」という単語から、「家路」の夕焼けチャイムを連想して、郷愁をひも付けている。これは派手な誤解で、ただの勝手な思い込みかもしれない。でも、おあつらえ向きじゃないか。郷愁のペンタトニック。小山田壮平の歌声が、想像上の故郷の風を連れてくる。なつかしさを胸にもたらす。

回顧に感じ入ったようなことばかり書いたかもしれないけれど、“新世界が響く”このラインの向こうに広がりがある。あのMVの映像みたいな時空の開放感が。このフレーズが生まれて、『OH MY GOD』の全容を左右した……このフレーズにたどり着いて、曲の人格を確信したのではないか……などと制作過程の邪推に励む私。いずれにせよ、好きなフレーズだ。

イントロのギターのリフレインが重要で、これもこの曲の肝要だと思う。小山田壮平のツイートを見ると、そこが『OH MY GOD』の始まりなのかもしれない、とさえ。ほかにも音楽的な見どころに目移りする。映画『#ハンド全力』の公開が楽しみ。

青沼詩郎

『OH MY GOD』配信先

https://jvcmusic.lnk.to/ohmygod

Sparkling Records
http://sparkling-records.com/

『OH MY GOD』を収録した小山田壮平のアルバム『THE TRAVELING LIFE』(2020年8月26日)