通りをひたすら行くMV

YouTubeで出てきたこの曲をクリックしてみる。既に知っている曲だし、見たことのあるMVだ。でも、まじまじとみてみる。また、みてみる。なんとなく、ひきこまれてみることにした。気付いたらそうなっていた。そうさせられたのかもしれないし、自分でそうしたのかもしれない。

横道から通りに出てきた青年。ごみごみした雑踏。

「←PEDESTRIANS」“歩行者はこっち(を通行せよ)”

歩道の一部を工事している。手押し車を携えた高齢そうな婦人。道が狭いのは彼女には難儀かもしれない。

直立して、どこか向こうをまっすぐ見つめる青年。意味ありげな立ち姿。心を整えている? 何かを思っている? 考えている? ただひたすらに、流れを見ている?

カメラはゆっくり遠ざかる。心を決めたのかのように青年もスコスコと歩き始める。通りを、こちらに向かって。その背中をかすめるように黒いオープン・カーがスピードを保ったまま右折していく。ヒヤっとしてしまう。

通りを人がいく。青年に向かってくるローラー・スケーターは左折していく。スピードを持った主体が混在する通り。

帽子をかぶった婦人が青年と斜交う。青年は彼女と肘をかすめあう。それでも歩く。

…また女性と斜交う…ぶつかりそうだ…衣擦れしてぎりぎりでかわす。

話しながら画面へ向かって歩いてくる2人組の女性。青年の視点。青年は2人の間を割って進む。女性たちと青年はぶつかっている。はきはきとした運動能力を持っていそうな若い2人だからか大事にはいたらないが不快そうに青年のほうを振り返る2人。駅の改札で無賃通行を阻む二枚の板の間を割り出るみたいにして、青年ははっきりと歩きつづける。

リサイクル店から出てきて通りを横切る男性。金庫か冷蔵庫のようなものをキャリアに乗せている。青年と衝突しそうでしない。

鞄の中に視線を集中させている女性。青年と接触し、からだの向きが反転するくらい派手に転倒。青年はびくともしない。とっさに接触の衝撃を避けて女性が転んだ可能性もある。周囲の人が彼女に手を貸す。青年の方を向いて不快そうな顔を向ける人。転倒した彼女を助けた男性は青年の方に向かって何か言いたげ。両手を広げ、指を差し…しかしすでに距離がある。青年は歩き続ける。

なおも青年は歩く。人々とすれちがう。男や女とぶつかりそうになる。肩どうしをかすめてなおも歩き続ける。ときに、通行人の視線を受ける。接触してもなお。ぶつかった青年の方へ向き直り、追おうとする者もいる。ベビーカーとすれ違う。女性が機敏にタイヤを引く。お互いの運動能力を発揮して事なきを得る。

青年の進行方向に、鼻を突き出すように歩道をふさぐ乗用車。青年は軽快な動きでボンネットを踏み、越えていく。フットワークを乱すことなく歩き続ける。すかさず乗用車のドアがあく。導火線を伝う火のようにドライバーの女が青年を追ってくる。指の間に挟んだタバコを投げ捨てるも彼女の怒りの緩衝にはさして貢献しない。青年の正面にまわって怒りを露わにする。両手を前に突き出したり人差し指を青年に突きつけたり、猛烈に抗議をつづける。女性の顔が視界を占める青年の視点。それでも青年の歩行の慣性を妨げられない。やがて青年の正面から外れ、その後ろ姿に向かって天に向けたふたつの手のひらを突き出し捨てきれない捨て台詞を放つ。彼女の言葉は私に届かない。青年の歌が流れている。

蛍光色のベストを身につけて道路を掃く者。青年を追い越すランナー。透けるほど目の粗い紺色の羽織に黒いスカートの女の無意味な視線が意味ありげ。

唯一青年の慣性を遮ったのはぬらりと光る黒い車。青年の前を横切る。中が見えない暗色のウィンドウが青年の顔を反射する。青年はあえて腰を曲げて自分の姿に身を寄せる。車は行ってしまう。青年も歩き出す。

肌の色が対照的なふたりの男が青年の前にはっきりと立ちふさがる。因縁をつけるひとことを吐いたのか。青年は2人のあいだを突破する。青年の後ろ姿に向かって笑ってみせる男と、食いしばったように白い歯を見せる男。追ってくることはない。深く気にとめることもない。

通りに立てたタープの下から出てきた視線のおぼつかない男とぶつかりそうになる。まっすぐに歩く青年をどっちに向かってかわそうか。一瞬の迷いの後に男はタープの下にからだを戻す。穴があくほどに青年の背中に視線を注ぐ男。端を歩けとでもいうように、青年に向けて突き出した人差し指をスウィングさせ、その手を厳しく批判するように上下させる通行人。

青年はまっすぐに前を見て、視線をほうぼうへやりながら、まぶたをゆっくりとおろしてはまた開き、歌の宿った口を動かし続ける。

シャッターが目立つ。真っ白な頭髪とひげ、禿げて頭頂部が露出した男が路上で寝ている。

4人の男が車道側から現れて、青年のうしろをついてくる。5人の男が並んで、通りのはずれを歩いて行く。

曲について The VerveBitter Sweet Symphony

The Verveの『Bitter Sweet Symphony』はアルバム『Urban Hymns』(1997)に収録されていて、シングルにもなっている。

ストリングスを用いたE-Bm-D(Asus4?)-Aの進行。調性を感じさせない。3拍目ウラと4拍目の連打に特徴があるドラムスパターン。ボーカルはおおむね、ずっとB(シ)の周辺を連打したり上がったり下がったりしている。ブルーノートを交えたようなスケール。深みのある残響、マイルドに歪んだエレキ・ギターのアルペジオなどが絡む。ストリングスの存在でエレクトリック・ベースがいるんだかいないんだかわからない。

ストリングスやドラムスのベーシックの繰り返しの中で言葉や声、楽器の音色がアナログに変化していく。通りをひたすら歩き、似たようでふたりと同じ人のいない人とすれちがい、ぶつかり、かすめあってむこうへ進んで行く映像(MV)のように。

単純な機構を持っているようで、金太郎飴のようにどこを切っても同じというわけじゃない。延々と続くことを思わせる壮麗さがある。人の行き交う雑踏。川の流れ。かまどで揺らめく炎。星空。そういうものみたいに、ずっと眺めていたい不思議な魅力を秘めたロックな詩片。

この曲に用いられているストリングスは、ザ・ローリングストーンズの楽曲『The Last Time』をザ・アンドリュー・オールダム・オーケストラがカバーしたものからのサンプリングで、著作権の問題が生じた曲でもあるらしい。その著作権も、最終的にはThe Verveのリチャード・アシュクロフトに2019年に戻ったとか。周囲を巻き込み、影響を与えた息の長い名曲の背景を追うのも面白い。NME JAPANの二つの記事をリンクしておく。

ザ・ヴァーヴの“Bitter Sweet Symphony”、あなたが知らないかもしれないトリビア10

ローリング・ストーンズ、“Bitter Sweet Symphony”の権利をリチャード・アシュクロフトに返す

青沼詩郎

『Bitter Sweet Symphony』を収録したThe Verveのアルバム『Urban Hymns』(1997)
こちらが『Bitter Sweet Symphony』ストリングスのサンプリング元か