YouTubeでみつけた映像
レコード店に配布したPV、と概要欄。殺風景な倉庫のような感じのセットが雰囲気出ている。セットの外側をまわりこむカメラワークがかっこいい。メンバーの動きがやんちゃで心躍る。ビデオテープ?風の音質が余計にパンク感出ていて、なんだかセックス・ピストルズのサウンドを思い出す映像。
私がThe ピーズに至った話
星野源はどんな音楽聴いてきたのだろうと思ってウィキペディアを見る。彼が聴いたり話題にしたことがあると思われるタイトルのなかにUNICORN『服部』を見つける。それを音楽配信アプリで検索、再生した。
その関連で表示されたプレイリストが『バンドブーム ベスト』だった。気になって開いてみる。先のUNICORNもこのプレイリストに加えられている。
プレイリスト中に目を引くタイトル。『バカになったのに』。ジャケットサムネイルの手描きのタッチも気になった。バンド名を見る。The ピーズじゃないか。
Theピーズの名前はたびたび目にして知っていた。私が大好きなバンド、the pillowsのドラマー・佐藤シンイチロウがThe ピーズのドラマーとして関わっていることをなんとなく知っていた。
『バカになったのに』を聴く
聴いてみる。
歪んだギター、ベース、ドラムスが私の好みど真ん中のサウンドだった。
イントロから関心を高めていると、聴こえてきたタン・ロール。「Rrrrrrrrr」。いわゆる巻き舌の発音。
歌が入る。まっすぐかつ荒っぽい表現。歌詞が入ってくる。、
“自堕落ばかりがもてすぎる”(『バカになったのに』The ピーズ、作詞:はる)
ドアタマの単語が「自堕落(じだらく)」。強い! 濁音「じ・だ」、冒頭の巻き舌のRが余韻するみたいに「ら」「く」。また濁音「ば」、直前に出てきたカ行「か」、「り」(RiかLiか)、また濁音「が」…続く、「モテすぎる」。自堕落ばかりが、なんなの?…え?「モテすぎる」だと?! なんか知らんが激しくわかる気がする。この時点でこの曲を最後まで私が夢中になって聴くのが決まったようなものだった。
たばこ吸っちゃってさ。酒飲んじゃってさ。泥臭く努力している姿とかあんまり思わせないのにライブではカッコ良くてギターもうまくて声も良くてさ、異性にモテちゃってさ…みたいなバンドマン像を想像する。そーゆー奴に対しての俺。対極としての、俺。
酒もそんな飲まないしたばこも吸わないし、人知れず努力している「俺」を誰よりも「俺」が知っている割にはそのことが評価されたり報われたりして満たされているともいえない、俺。“自堕落ばかりがモテすぎる”というたった一行から、私はそんな「俺」を紡ぎ出し、重ねる。己の対極像から影響を受けて自己を修正。せっかく『バカになったのに』。なったのに、だよ…? 至るのは、ばかー!!って言いたくなる現実ばかり。それを叫んでいる「俺」。なんか知らんが激しくわかる気がする。
1サビ明け、“進学校の悲しみ アホ不足”と続く。頭のいい人たちの多い高校に運良く(悪く?)進学してしまって、ずっと底辺を更新し続けた自分を私は重ねてしまう。そこで「俺」は軽音楽部室に誘(いざな)われる。勉強に費やすこともできたはずの時間のぜんぶを「俺」はそこに注ぎ込んで過ごす。からだが軽音部室を離れても、心は部室に置きっぱなし。
クラスメイトとして出会って、軽音楽部も一緒だった友人のKくんを思い出す。彼のことを私は気に入りすぎて、つい絡んでしまう。そのときの態度や挙動があまりにも乱れていたのか、Kくんに私は「酔っぱらい」という形容をもらった。ほめるとも否むとでもなく、心底素朴に放ったであろうKくんのその形容を私は歓んだ。しらふの酔っぱらい。
私は馬鹿であったか。アホは足りていたか。
私は自分に影響を与えたものを目指した。目指す自分。現実の自分。過去、現在。どれも確かに存在し、混在していた。境目のないカクテル。
むすびに
ちょうど最近、『磔磔というライブハウスの話』という特番を見たところだった。それにThe ピーズも登場していた。私の敬愛するバンド・くるりも出演し、ライブ配信『LIVEWIRE くるり in 京都磔磔』の舞台にもなった、その名の通り京都にある老舗のライブハウス「磔磔」を中心にしたドキュメンタリー。こちらはテレビで8月7日深夜に放送されて、8月いっぱい見逃し配信されていたけれどFOD/TVerで9月30日まで視聴期間が延長になった。主に私が喜んで見た。https://www.fujitv.co.jp/b_hp/takutaku/index.html
The ピーズは私が敬愛するくるりと同じライブハウス「磔磔」に絡めて縁やつながりがあったり、私がすでに好きだったバンド・the pillowsとドラマー・佐藤シンイチロウがかぶっていたりと関連があったのにも関わらず、その音楽をきちんと受け止めることができたのは恥ずかしながら今回がはじめてだった。でもここで知れて良かった。じゃなけりゃ、バカ未満。愚だ。バカって褒め言葉なんだよな。
青沼詩郎
The ピーズのシングル、アルバム『グレイテスト・ヒッツ VOL.1』(1989)に収録。 作詞・作曲 はる。『バカになったのに』は彼らのメジャーデビュー(ビクター)曲。
ご笑覧ください 拙演