ジェイアール京都伊勢丹の創業20周年の際に書き下ろされた(提供された)楽曲。くるりの公式サイトのディスコグラフィページに、楽曲がうまれた経緯、背景とジェイアール京都伊勢丹さんと作曲者の岸田繁さんの思いがつづられています。依頼者であるジェイアール京都伊勢丹さんの思いに傾聴し制作された旨が記されています。思いを汲み、それを題材・モチーフに作詞作曲する丁寧な誠意のやりとり、その成果である楽曲を聴きながらくるり公式サイトの作品紹介文を読むといっそうグっと来るものがあります。リンクしますのでぜひお読みいただき、楽曲に耳を傾けてください。
リスニングメモ
職人として、依頼する人の「思い」におのれのリソース……反射神経・体力・知性・感性で「応える」、この時のくるりのまっさらでありのままがつるっと形よく意匠された快さを深く覚えます。すごく良い、すごく好きです。
岸田さんの声の魅力がいっぱいに出る音域で、優しく、愛情に満ちた表現で歌唱。有酸素運動するように恒常的な……伊勢丹とくるりと京都を行き交うお客さんや地元の人がまなざしを交わしながらゆっくりとジョギングしていくみたいな感動を覚えます。
ベースが順次や半音の下行をしていきながら和声を移ろわせていき、サブドミマイナーやドミナントの増5の響きを要所で交えて感情や思い、毎日のありふれた風景に見出す豊かさや「特別感」を表現しています。巧い。気持ち良い。
左右に定位をひろげるアコースティックのギター。ナイロン弦でしょうか。ぽろり、ころりと優しく躍動するストラミングです。リズムトラックはプログラミングでしょうか、タイトで「デシ」っとしたキャラクター・質量感がありますが、まるでアコースティックバンド編成にいる「カホン」みたいな色味を感じもします。
BGVがすっと爽やかな息吹を注ぎます。京都を往来する、「そこに暮らす人」と、働いたり、特別にやってくるストレンジャーの起こす些細な風景の蓄積。ビルや通りの間。人と人の間。そこを通る風を思わせるBGVです。
サビでタンバリンが「ここぞ!」を強調します。華やかな彩り。コンパクトで誰でも扱いやすいうえに私の最も好きなパーカッションのひとつです。ベーシックのリズムトラックが恒常的なので、タンバリンの演奏は息遣いや色味・肉体感を演出する重要な役割です。
歌詞 節目のこころ
“時には翻る 心さえ あなたの笑顔が私を照らす”
(くるり『特別な日』より、作詞:岸田繁)
今日の私にすっと入って残ったワンフレーズ。20周年の節目を「翻る」が連想させます。日常の蓄積。おのれの人生のベクトルをねじ曲げるのはそうたやすくありませんし、それを無理にすべきものでもありません。20周年とかいった数字は数字でしかありませんが、ときに振り返ったり、あたりを見回して、「おや?あれは……」と気づくものがあったりします。それに近づいてみようとする心と体の動き。それが「翻る」だと私は思います。
アルバム・バージョンはリッチな残響感。よりいっそう「特別」が増して感じます。うるうるでリッチ。そういうほっこりする良品が伊勢丹で買えると思います。
青沼詩郎
『特別な日(Album mix)』を収録したくるりのアルバム『ソングライン』(2018年9月19日)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『特別な日(くるりの曲)ウクレレ弾き語り』)