冷たい雨 中山千夏

この作詞作曲のおふたりの布陣は中山さんのデビュー曲『あなたの心に』も同一です。

ボサノヴァスタイル。ブラジルの哀愁、サウダーデ、的な様式。

自己の胸に、いままさに燃え盛る想いがある、いままさにマリアナ海溝に沈む悲しみがあるとき、冷静に客観できるでしょうか。

それをボサノヴァスタイルのしっとりまったりした様式を取り入れて、神から目線で抽出したような理性が尊いのです。熱い想いや太陽も凍る悲しみがあっても、それすら客観できる距離をもって己を抽出・表現できるとしたらそれも音楽の機能であり魔法のような現実です。クールだね。

Cメージャーの純粋な印象のなかにⅤの#9を交えたり、ⅠでCの主和音を普通の長三和音あるいはせいぜいシックスやメジャーセブンスで使うところ、減5の和音を唐突に放り込んだりするなどドキっとするような音楽センスがさりげなく交えられています。都倉俊一さんのウィットでしょうか。人生思い通りの一本道にはなかなかなってはくれず、都度都度障害や課題や壁が現れるものです。そんな想定外の象徴みたいなクセもの和音の響きが積極的に、いえむしろ自然に扱われています。

パヤパヤ言っている時間が長いですがそれも言語を超越した感情やこの世の混沌の意匠なのかもしれません。「見てよこの頬、雨、この胸、雨、燃えてるわ、恋して……」と、雨に濡れて冷たかったり寒かったりするのか、想いが燃えて火照っているのか、相容れない温度のコントラストが鑑賞者における感情の安請け合いを遠ざけて理知的な印象です。

冷たい雨 中山千夏 曲の名義、発表の概要

作詞:中山千夏、作曲:都倉俊一。中山千夏のアルバム『おりじなる・ふぁーすと・あるばむ』(1970)に収録。

中山千夏 冷たい雨(『おりじなる・ふぁーすと・あるばむ』収録)を聴く

スタイルが本物。トーンを絞った角の丸いサウンドのエレキギターを左右に貼ります。右のエレキギターがオブリやカウンター担当でおそろしくおしゃれ。本意や真意以外の罵詈雑言だけを永遠に生産し続けるみたいなのらりくらり感があります(褒めてます)。おしゃれなテンションをかけてばかり。左のエレキはリズムとコードの表現に一途です。

右にシキシキとマラカスか何か振った音にクローズドハイハットとスネアのリムだけを静かに添え続けたような合音。キックやタムのような支配的な中低域を放つタイコは一切つかいません。

左にピアノが定位し、オープニングとエンディングに「ラミラミーレーラ……」のリフレイン。リフのときだけ音量を前に出し、歌のあるときはラウンジの空気に溶ける忍者みたいに引っ込みます。

中央でベース。コントラバスタイプも合いそうですがあえてのエレキベースで、平静な感触の音で強拍や裏拍のタイム感に杭を黙々と打っていきます。

メインボーカルやベースの中央定位の頭のうえらへんをフルートが飛び交います。少し距離を持って収録したような高域の澄んだ音色が中山さんのメインボーカルと棲み分けを実現します。

中山さんのボーカルが器楽的。情報量の少ない歌詞ですが声域、音域がおそろしく広い。下のシ♭から1オクターブを飛び越えて上のソまで「パーヤパーパ」……でふわりと舞い上がります(1oct +長6°ですね)。蝶のようにゆらゆらとつかめません。

雨の冷たさは失恋、恋にやぶれた逆境を想像させます。でも感情的に自暴自棄になったりしない知性が雨のように空気を満たしているのです。その知性が本人にとっては憎くすらあるかもしれませんが、それでも平然としたポーカーフェイスでいるのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>中山千夏 熊本の山鹿の生まれでらっしゃるそう。のち、大阪、東京へ。

参考歌詞サイト 歌ネット>冷たい雨

中山 千夏 ビクターエンタテインメントサイトへのリンク

『冷たい雨』を収録した中山千夏のアルバム『おりじなる・ふぁーすと・あるばむ』(1970)