映像
ミャンミャンと鳴るギターのイントロ。白いシャツを着て腰に手を当てたメンバーからカメラが引いて4人がうつります。ステージ立ち位置は左からボーカル、ギター、ベース、ギター。ベースはコントラバス型です。カプセル型のまるっこいフォルムのマイクがかわいい。楽器メンバーも弾きながら全員歌詞ハモします。とても密集した立ち位置に見えます。4人キュっとコンパクトにまとまって声と演奏に一体感が出ているようです。
こちらのほうが後年ですね。上にリンクした映像のときと同じ並び方のステージ立ち位置のようです。さきほどの映像では腰に手をあてていた左端のボーカリスト、黒澤久雄はこちらの映像では右手でマイクを持った左手の肘を抱えました。映像の外から管弦楽の演奏が聴こえてきます。衣装はシャツにズボンをドレスコードにしているのかもしれませんが一人ひとり違った色をしています。長い年月、それぞれの人生を歩んだメンバーの再集合を表現したような衣装でしょうか。編曲もオリジナル音源をよく再現したステージアレンジを感じます。
作詞者、作曲者、曲の発表についての概要
ザ・ブロードサイド・フォーのシングル『若者たち -空にまた陽が昇るとき』(1966)。 テレビドラマ『若者たち』(1966)主題歌。 作詞:藤田敏雄、作曲:佐藤勝。
ザ・ブロードサイド・フォー『若者たち -空にまた陽が昇るとき』を聴く
ストリングスのトリル。パーパパパ……とミュートの効いたトランペット。やさしげなギターのアルペジオ。喉の奥に響く美声のボーカル。歌詞ハモ、のちの「uh~」のハモ。ストリングスが高らかに情動の背中を押します。バイオリンソロがやや奥〜右で間奏。のち、“君の行く道は希望へと続く……”のところでトランペットに歌がかぶってきます。何かのモチーフを演出する意図がありそうな、舞い上がるような音形が注意をひくトランペットです。最後“空にまた陽がのぼるとき……”をくりかえします。エンディングはⅥ♭の和声の意外性。トランペットが中央で爆裂するダイナミクス。青春を宿した若者の背中越しに焼けた空を望む情景を想像します。
ドラムスのリズムはなく、ベースもオケのコントラバスがピツィカートしているサウンドですね。ギターのアルペジオとコンバスがバッキングの主たるリズムを担います。
ブロード・サイド・フォーというくらいです。4本いるボーカルの協調したハーモニーがミソであり具ですね。メインボーカルが左に寄った定位に感じるのは私の気のせいでしょうか。
1オクターブにおさまるメロディ
原曲はB♭メージャー。譜例はin Cです。
“君の行く道は……”でひと山。“はてしなく遠い”でもうひと山。キレイな音形の反復です。この間、コードはずっとⅠ。“遠い”の着地でⅤになります。
そこから(4小節目おわり〜)折り返しの音形。前4小節に対するカウンターです。音価も大きく緩慢になります。けれど4拍目にフレーズの起点があるせいか冗長しません。前4小節で「山」を感じましたが、“だのに なぜ”の音形には「波」を感じます。山と来たら海か。
“歯をくいしばり”の音形に注目してください。なんと1オクターブ跳躍。上行です。「くいし“ばり”」でオクターブ上の主音にすっ飛んでいく。歌詞のごとく、歯をくいしばることでジャンプアップするかのような音形です。さらっと歌っていますね。ボーカリストはこういうとき気張ってはいけません。かといって気張ってはいけないことを気にしすぎてもいけません。塩梅がむずかしいけれど、むずかしくないと思ってやる(なんとも思わずにやる)のが一番です(それがむずかしい?)。下の主音にいるときにすでに上の主音を歌っているような感覚を持つのが良いと思います。……話が歌唱の意識のほうへ逸れてしまいましたね。戻します。
この“歯をくいしばり”のところで和音がⅥmなのが良いですね。エモいです。がんばれ、若者! という気持ちになります。その着地がⅣの和音というところもまたいい。歯をくいしばることで拓けた新世界の景色です。このⅣが良い!!(しつこい)
9小節目(8小節目4拍〜)“君は行くのか”の、“のか”のところにこまかくⅡmとⅢmを充てているところ、好きです。ボーカルメロディとベースラインが反行しているのですね。ちなみにハーモニーパートはその限りではなく、ベースラインと平行している声部がいます。独自の道を走るやつ、人の顔色をうかがうやつ、いろんな若者がいますからね……良いじゃないですか……(誰)。
最後の“そんなにしてまで”の音形はまるでなだらかな丘とさざなみを合わせたような音形。ナレーションが客観でぽつりと結びの句で締めたような恙なさ。おさまりが良いです。
1オクターブに山も海も人生も描いてみせた。すばらしいメロディです。この歌の寿命、100年いけるんじゃないのかと思います。1966年作品ですから、あと45年くらいか……。
後記
私は『若者たち』を歌本で知りました。小学校でつかった『歌はともだち』(教育芸術社)に載っていました。当時の私には、この曲のつつがないなめらかさ・美しさが、むしろ物足りない部分に思えました(それもまた若者)。当時の私と今の私は違います。いま、あらためてこの歌のすばらしい響きを実感しています(若者でなくなった……?)。
アレンジもとても好きです。かつての私は本に掲載された曲の骨子(メロディ、コード)のみを知っていましたが、原曲の音源を聴いたことがなかったのです。たとえば、Ⅵ♭の和音がつくエンディングも歌本では割愛されていたので知りませんでした。
何か意味ありげに轟く、歌にカブるトランペットパートもやはり歌本には表現されていませんでした。
ブロード・サイド・フォーの朗々とした歌唱も見事です。メロディがつつがない(毒や刺激が少ない)とかつての私が感じたのは、客観的で平静な語り口を含んだ曲の骨子、描写の手触りのせいかも知れません。この歌の主人公自身が恋したり青春したり涙したりヘトヘトになったりして感情をいっぱいに動かしている若者本人というよりは、彼らを見守り、ありのままを紡ぐ永遠の吟遊詩人みたいでもあります。平静な歌唱で、青春を俯瞰してみせます。
青沼詩郎
余談
ザ・ブロードサイド・フォーの黒澤久雄は映画監督・黒澤明の御子息とのこと。へぇ。
『若者たち若者たち -空にまた陽が昇るとき』を収録した『若者たち ザ・ブロードサイド・フォー・フォーク・アルバム』。
『若者たち若者たち -空にまた陽が昇るとき』を収録。ザ・ブロードサイド・フォー中心、ほかザ・ライジングサン・トリオ、ランブリング・バーミンズ、モダン・フォーク・フェローズ、PPMフォロワーズによる『ザ・ブロードサイド・フォー&60’s カレッジ・フォーク・コレクション』。
私が近年手に入れた『歌はともだち 6訂版』には『若者たち』は入っていませんでした。『パプリカ』(作詞・作曲:米津玄師)が入っています。改訂にともなって選曲も改め、その時代に適合させているご様子。
ご笑覧ください 拙演