映像 Welcome To My Living Room

拍手に包まれてピアノのイントロ。やさしいテンポ。はじめて曲を発表した当時よりだいぶ後年の映像のようですが私の記憶している音源の通りの「あの歌声」です。演奏中に入場してきたミュージシャンと共演。ハーモニー・ボーカル、アコースティックギター。もうひとりはエレキギターを持っているようですがプレーンな感じの音色か。2コーラス目はボーカルが男性ミュージシャンに。カールした髪。黒いシャツで襟元をあけています。エレキギターを持っているほうの男性がベテランのようです(年齢的に)。セミホロウでしょうか、サウンドホールと木目のある個性的なギター。

大サビに入る前に客席に向かって手指で注意を啓発するキャロル・キング。横向きのピアノの弾き語りですが客席に向かっていっぱいに歌います。高音域の声のひずみ方が味。客席に向かって主題の「You’ve Got a Friend」を指差しながら歌います。ベテラン風の男性が「Hey Carole, You’ve Got a Friend」みたいな感じの即興。客席ががぜん盛り上がります。3人でハーモニーして円な結び。客席の歓びの声がやみません。

『Welcome To My Living Room』という企画? のようです。ステージセットがリビング・ルーム風。演奏時はあまり関係ありませんが、トークもあったのかもしれません。ピアノの下にカーペット。音色には影響あるかも。

動画コメント欄から拾うと、ミュージシャンのベテラン風の男性のほうはRudy Guessでキャロルのギターやディレクター、プロデューサーを担う人物のようです。

黒いシャツのアコギボーカルの男性はGary Burr。シンガーソングライター。Wikipediaページに記されたジャンルはカントリーとあります。キャロル・キングとは『Loving You Forever』という曲を共作しているようです。

Carole King『You’ve Got a Friend』を聴く

右のほうからピアノ。宅録した感じの部屋鳴り。左にアコースティックギター。カランとさばけた気持ちの良い響きを感じます。どんな楽器なのか。中央のベースはアコースティックのコントラバス型でしょう。コーラスで「カポッ」とボンゴっぽいラテンパーカスの音が目立ちます。2コーラス目でストリングスが音域を左右にひろげます。絞った数の編成でしょうか、個別の奏者のボウイングのニュアンスが感じられる規模感です。4本くらい……ヴァイオリン×2・ヴィオラ・チェロあたりでしょうか。ベースがコントラバスのピツィカート(指ではじく奏法)ですし、上から下まで一通りそろった弦パートにも思えます。 

一度きりの時間を大切にした印象を受けるのはなぜでしょう。せーので録音(一発録り)した感じのサウンドです。キャロルの声ハモが少しあるようですし別テイクのダブリ(多重録音)もあるかもしれませんが、演出された小気味よさと大胆さの同居したライブ感があります。暖かみあるサウンドです。

James Taylor『You’ve Got a Friend』を聴く

左にアコースティックギター。右にもカウンターする1本。左がメインの印象です。ベースは「トントン」とハイポシのかろやかなアタック感、暖かで伸びやかなトーン。比較的序盤からボンゴを感じ、コーラスでパーカスの音が豊かになります。コンガでしょうか。あるいはボンゴと両方なのか。ふたつの音色はよく似ていてよく混同します。ドラムスのキックも「トントン」ときこえだすコーラス。2・4拍目でフットペダル・ハイハットの音色。フットペダル・ハイハットのコントロールが利いていて、オープン・クローズやストロークのやさしげなニュアンスが絶妙。スネアは「パシッ」とブラシやロッド系のサウンドのようです。後半のほうのコーラス(サビ)をファルセットっぽい軽く洒脱な発声のハーモニー・ボーカルが彩ります。やさしくマイルドに歌うメインボーカルに添い、抱きます。時折アコースティックギターの和音・ポジショニング、その響きに「はっぴいえんど」を思い出す刹那があって私ははっとしました。

曲について

作詞・作曲:Carole King(キャロル・キング)。アルバム『Tapestry』(1971)に収録されています。アルバムの日本タイトルは『つづれおり』、曲の邦題は『君の友だち』です。多様な個性のミュージシャンたちに数多カバーされてきた、影響の強い美曲です。(Wikipedia > 君の友だち

雑感

キャロル・キングのオリジナル音源が5分超となかなかボリュームのある歌。Jポップでいうところの「大サビ(Cメロ)」っぽい部分を含む曲です。ドミナントのところでⅣ/ⅴ(Ⅴの低音上にⅣの上声)ふうの分数コードの響きを用いたのも、斬新で垢抜けた印象を強めたかもしれません。ピアノの響きも活きてくるコードづけが魅力です。

主和音の長2度下(私はⅦ♭と呼んでます)の響きではじめる大サビ(Cメロ)。曲想を一新し清涼感を与えます。
Ⅳ/ⅴ(Ⅴの低音の上のⅣ)的なドミナントの響き。

メロの歌い出しではトニックにⅥmを用い、副次調ⅤであるⅢ7(Ⅵmに進行するドミナント)も登場させます。Ⅲmの響きも用いていますし、すっきりとしない曇天の感情を映したような酸っぱさ・苦さが残ります。句切れ(歌詞のライン末)で短和音の上声のもと、ベースを動かすなど細部の変化のつけかたと響きの統制が絶妙。低音位の運び・ハーモニーのセンスの高さが光るソングライティングです。

前半の部分に対してコーラス(サビ)は明るい響きのダイアトニックコードに尺を注ぎます。ⅠやⅣといったシンプルな和音づかいです。友達に希望を示すような、愛のある態度を感じます。

でも“Winter, Spring,……”のあたりからは4和音が入ってきます。長短のセブンスやシックスの音を含めて変化をつけます。うつろう四季のような幅を感じさせます。友達との関係における変化、変わらないものの双方を思わせます。こんな主人公と私も友達になりたいものです。視野がひろく機転が利き、感情と知恵の豊かな人物でありたい。

歌詞について。

わたしの名前を呼んで。どこにいたって、かけつけるんだからね……みたいなメッセージが英語非堪能な私でもなんとなく抽出できます(詳しい訳を求める方は堪能な方をあたってみてください)。音楽は言葉を超越して雄弁です。

Lady Satin’s English Project > 訳詞の世界~You’ve Got a Friend – Carole King(和訳&考察)

後記

ざっくり聴いて「いいなぁ」「そのうちこってり堪能したいな」と思っていたキャロル・キング。「明日やろうの馬鹿野郎」だった私に「今日こそこの1曲は!」のきっかけをくれたのは、ジェームス・テイラーのカバーでした。肩の力が抜けていて気持ちが良い彼のカバー。キャロルのオリジナルはA♭キーで、ジェームスは1オクターブ下げたものを半音上げしてAメージャーキーにしています。アルバム『Tapestry』収録の他の曲もこってり聴きたい(明日やろう……)。

心の部屋に友達を招き入れるような、潤いと暖かみの同居する響き。好きな自分も嫌いな自分もあらわにして、それでもとなりにいてくれる君を感じます。

青沼詩郎

『You’ve Got a Friend』を収録したCarole Kingのアルバム『Tapestry』(1971)

James Taylorによるカバー『You’ve Got a Friend』を収録したアルバム『Mud Slide Slim and the Blue Horizon』(1971)

ご笑覧ください 拙演