作詞・作曲:ヘディ・ウェスト(Hedy West)。1961年発表。Peter, Paul and Maryによるカバーがアルバム『Peter, Paul and Mary』(1962)に収録されるなど、カバーが多くある。

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しんみりします。つらつらと蝋燭とホットウィスキーを友に夜な夜な身の上話でもするかのような静謐さ。ベースがポンポンと口数少なに鳴ります。左に細かくアルペジオするギターがいて、右にもそっとオブリガードを添える感じのギター。

左にハーモニーの高い方へいくボーカル、右には低い方へいくハーモニーのボーカル。0:39頃から、長いハミングを描き込み出すのですが、揺らぎが強く、まるでオルガンがロータリースピーカーから鳴っているみたいで、緩慢な動きですが器楽的なアプローチです。”Lord, I’m one”……(0:58頃〜)のところでは”Lord”を長く伸ばして、メインボーカルが唱える数字を部分的に抜かして歌詞で寄り添います。いわゆる「字ハモ」とはちょっと違うが、メインの歌詞を生かしたハーモニーワークが絶妙です。

3人の歌唱は耳ざわりがすこぶるよくなめらか。うっとりする聴き心地。語句の立ち上がりが至って柔和で、単一〜複数の語句のスムースなつながりの中でダイナミクスがゆったり変化し、大部分でビブラートによって細やかで密度の高い音程の揺らぎが加えられています。

歌の味わい、原曲について

故郷を離れるさみしさが描かれているようです。こればかりは、仕事や学業や婚姻などで故郷を離れた経験のない私に欠乏する実体験です。500 Milesの主人公は、故郷に帰りたいのか離れた地で何かを成し得たいのかはっきり描かれているわけではなさそうです。ただただ、離れてしまったという嘆きが伝わってくる印象です。さみしく、含蓄を感じさせます。

パリッとしたきれいな着替え(身なり)やお金(財産)がありさえすれば、胸を張って故郷に帰りたいのでしょうか? それが今はまだないから帰れないということなのか。

確かに、何かを成し得て、一財産を築くことで、古い知り合いや、自分の故郷や親族や親しい友人に顔向けできるという感覚は私にも分かる。誰にでも、そういうところが少しあるのではないかとも思います。でも私はいつまでたっても、「よし、おれは(一財産を)築いた。ふるさとに、友達に、いまこそ会いに行こう」と思えたことは一度もありません。たぶん今後もないだろうな(20歳くらいまでの頃は、いつかそういう幻の理想が訪れる現実が来ることを自分の未来の可能性のうちに考え入れていた気もしますが……)。

理想に終わりはないからです。あるところに至れば、その場所に至ったからこそより先まで見えるようになるからです。目をつむることはむつかしいでしょう。見えてしまうのです、嫌でも。だから、歩みを止められない。たとえば故郷から500マイルのところまで到達することができたときには、さらに先の500マイル地点が、かつてのふるさとから500マイルくらいの遠さにあるわけです。つまり、ふるさとから500マイルまで来れば、ふるさとから1000マイルのところが「かつての500マイル先と同じくらいの遠さ」のところにあるわけです。まわりくどいですね。すみません。

上のSpotifyリンクはFiddlin’ John Carsonという人の、1923〜1924年くらいの発表の『You Will Never Miss Your Mother Until She Is Gone』という曲です。『500 Miles』によく似ていませんか。

500マイルもはなれての原曲……というかルーツにあると思われる曲としてFiddlin’ John Carsonの『900 Miles/I’m Nine Hundred Miles Away from Home』を挙げる記事に検索で出会いましたが、その他にいくつか再生した中にあった同じくFiddlin’ John Carsonの『You Will Never Miss Your Mother Until She Is Gone』のほうが、音楽的にはベースにされているのではないかと私は感じます。言葉の表現、郷愁みたいなテーマ的には「900マイルもはなれて」とでもいおう『900 Miles/I’m Nine Hundred Miles Away from Home』の方が確かにルーツなのかもしれませんが。

500マイルもはなれての作詞作曲者、ヘディ・ウェスト(Hedy West)さんは、『You Will Never Miss Your Mother Until She Is Gone』のメロディやふしまわしを基にして、『900 Miles/I’m Nine Hundred Miles Away from Home』で歌われているような郷愁を融合させたのが『500 Miles』だという仮説をここに唱えてみます。もちろん、『You Will Never Miss Your Mother Until She Is Gone』のほうにもえもいわれぬ哀愁を感じもします。

青沼詩郎

参考Wikipedia>500マイルもはなれて

歌詞とその翻訳、楽曲についてのいきさつの参考サイト 世界の民謡・童謡>500マイル 歌詞の意味・和訳 500マイルも離れて こんな有り様では 故郷に帰れない

『500 Miles』を収録した『Peter Paul & Mary』(1962)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『500 Miles(500マイルもはなれて)ギター弾き語りとハーモニカ』)