100%の可能性

「100%」の表現はなかなか大胆に思います。「絶対」なわけです。「99%」くらいにとどめてものをいうこともあるでしょう。残り1%は分からないよ、と可能性を残して、「そうならない未来」についての逃げ道を残しておくのです。

いきおいあまって「120%」などの表現を使うこともあります。100%を全容量とする定義を破る禁忌です。それを言い出したらどうなっちゃうんだ?1986オメガトライブ『君は1000%』なる傑作もあります。とにかく、はみ出すくらいの思いや躍動を表現したい場合は100%をはみ出すのも有効でしょう。

濃縮還元100%なんて表現もあります(脱線しすぎ?)。怪しくなってきました。「100%」もいろいろです。

「憎悪100%」とかだったら怖いです。1000%だったら呪い殺されそう。狂気100%、殺意100%……やめときましょう。

感謝100%とか。元気100%とか。愛情100%とかの方を考える。

理想100%……というとちょっと野心に全身全霊すぎる感じがして友達になるには疲れそう。収益100%……だったら例年通りということでしょうか。有機100%はなんか体によさそう(専門外)。100%もいろいろです。

「普通が一番」と、ある時代の親世代なんかが口酸っぱく言うとも聞きます。「100%」は身の丈相応の表現であるとも思います。勇気100%、すなわちそのままのあなたが持てる勇気の全量のことを言っている。至極純朴な歌であり、そのように多くの人に伝わったからヒットソングたりえたのかもしれません。

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作詞:松井五郎、作曲・編曲:馬飼野康二。光GENJIのシングル(1993)、アルバム『HEART’N HEARTS』(1994)に収録。

動画リンクと歌詞の参考サイト 歌ネット>勇気100%

7人組ボーイズグループの音像。メロは2人くらいの主要なメンバーの輪郭を前面に感じます。サビになるとハーモニーパート、字ハモが入ってきますね。「ヘイヘイ」やウーアー系コーラスなど、とにかく人数があるのでいろいろやれる、……がゆえに、特有の悩みも種々生じそうですが……Bメロ「夢は」のあたり、ボーカルの残響が奥深く飛んでいきます。

間奏でエレキギター。テクニカルに細かい動きと伸びやかで深く歪んだトーン、前半のブラスの間奏との折半で尺としては短いですがコンパクトに決めます。ピックグリス、ボーカルの「Wow Wow」で転調。

ベースはシンセベース。ドラムスは打ち込みでしょうか?チッチキチッチキ……と恒常的なハイハットがメカニカル(YMOを思い出します)。音像のはっきりとした「ボッ」というキック、「タカッ」としたスネアもクリアなトーンです。

グループによる歌唱でサビの“「もう」がんばるしかないさ”あたりの群像のがんばってるピッチ感、異なるニュアンスの集合感。あどけなさもあって、純朴な楽曲の主格をありのままに伝えます。

歌詞

私の趣味でいうと安全地帯『好きさ』、ビリー・バンバン『また君に恋してる』など、数多の安全地帯の作品、それにとどまらない膨大な数にのぼる作詞の巨人、松井五郎さんの作詞。

“ぶつかったり 傷ついたり すればいいさ HEARTが燃えているなら 後悔しない じっとしてちゃ はじまらない このときめき きみと追いかけてゆける 風が好きだよ 昨日 飛べなかった 空があるなら いまあるチャンス つかんでみよう”

“そうさ100%勇気 さぁ飛び込むしかないさ まだ涙だけで終わる ときじゃないだろう そうさ100%勇気 もうふりむいちゃいけない ぼくたちはぼくたちらしく どこまでも駆けてゆくのさ”(『勇気100%』より、作詞:松井五郎)

話が脱線するかもしれませんが「Heart」という単語には「art」が含まれているのですね……語源的には特に関係ないようですが検索で面白いブログ記事を見つけたのでリンクしておきます(ARTFANS>アートの由来、語源は?分かりやすく解説します!)。あえて英語表記のHEARTが平易な語句に視覚上のアクセントを添えます。

「燃える」という観念が暖色を想起させますが、「風」「空」と抜けるような「青」系の観念で対立させます。「きみ」「あなた」への好意を表明する歌詞は湯水の如く世に存在しますが、「風が好き」は独自のニュアンスです。気圧の異なる地点へモノをのせて運ぶメディアが「風」。恒久に存在していて、個人の願いを超越して吹きすさぶ自然現象だからこそ、追い風がやってきた幸運は逃さず掴みたいものです。

100%勇気」が、実寸のあなたの背中に風を吹かす表現であることを思わせるサビのフレーズです。“どこまでも駆けてゆくのさ”のサビ尻のフレーズに、前述のモチーフの「」が活きて来ます。

松井五郎さんは速筆だといいますが、モチーフの想起させる観念が緻密につながっているのが見事です。むしろスピーディに発想を進めるからこそ、そうした「連想」のつながりを活かした全体の構築が可能なのかもしれません。これを松井五郎さんの作詞の特色と仮説して、彼の他の作品も鑑賞してみたくなります。

転調

作曲・編曲の馬飼野康二さんマジックよ。

図:光GENJI『勇気100%』、間奏~サビのモチーフ採譜とコードづけの例。

Dメージャー調の楽曲で、間奏の前半はブラスのトーンがリード。まだ主調のままですが、8小節を消化すると変化が。D調のⅤ(コード:A)からそのまま長2度上行して、Bメージャー調に接続。シャープ5つのまま3回目のBメロの再現にさしかかるので1・2コーラス目とキーが違うのが面白いところです。

「Wow Wow」で短3度上行する高揚感を目いっぱい利かせて、元のDメージャー調に戻る尊さよ。転調して「元の調より上がる」のでなく、複数の転調で元の調に戻ったのに「上がった感」を出しているのです。ここがすごい。等身大の自分に回帰したのです。

余談ですが、Dメージャー調メインにBメージャー調を登場させる感じはKANさんの『愛は勝つ』にもうかがうことができます。

あとがき

背伸びしてがんばり続けたら、等身大の自分の「100%」が以前の自分より大きくなるかもしれません。同じ「100%」でも、以前より成長するのですね。Dメージャー調に再会したとき、前と同じ調のはずなのに新鮮な響きがする。「100%」の不思議な錯覚です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>勇気100%

参考Wikipedia>光GENJI

大沢樹生 公式サイトへのリンク

作詞者 松井五郎 公式サイトへのリンク

『勇気100%』を収録した光GENJIのアルバム『HEART’N HEARTS』(1994)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『勇気100%(光GENJIの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)