笑ってたいんだ いきものがかり 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:水野良樹。編曲:亀田誠治。いきものがかりのシングル『笑ってたいんだ/NEW WORLD MUSIC』(2011)、アルバム『NEWTRAL』(2012)に収録。

いきものがかり 笑ってたいんだを聴く

J-POPってある意味難しいジャンルなのではないかと思うのです。大衆性を獲得してはじめて「ポップ」になれるという仮説が正しいかどうかわかりません。

大衆性と書いてしまいましたが、単に認知度でしょうか。どんなに万人に響く可能性を秘めたいい曲・いい音であっても、誰も知らない曲だったらポップミュージックといえるのでしょうか。

もちろん、そういうスタイルを有した音楽であれば、ポップミュージックでしょう。「J-POP」とさらに限って指す場合、成り立った背景などもっと厳密で複雑な要素があると思いますがここでは割愛します。

ポップミュージックの定義うんぬん、を議論することは非常に有意義ですがここではいきものがかり『笑ってたいんだ』の鑑賞体験に焦点をおきます。

吉岡さんのはつらつとしたボーカルのはじけるようなイメージはまさにポップそのものです。弾み、立ち上がります。愛嬌があります。エネルギーがあります。稀有です。

バンドの音が厚いです。左右にエレキギター。右サイドにアコギもいます。ストラミングが丹精です。エレキギターは時にワイルドなニュアンス。そもそもバンドがしっかりしています。16のゴーストノートを出しまくって疾走するドラミングが素晴らしい。ベースの近代的なサウンドはあくまでポップミュージックのスタイルのなかに影を投げるバランス感でロウを支えドライブさせます。

J-POP的な味付けとして重役はやはりストリングスでしょう。和声とリズムのツボをおさえつつ、ちょっと緊張感のかかるノート(音程)選びが巧いです。

聴き応え、ボリューム感もそのはず、6分を超える収録時間です。BPM=158くらいでしょうか。確かに快活なテンポであるにもかかわらずこのサイズの所以はなんでしょう。

サビが逐一、16小節のまとまり×2回分、およそ32小節が基本構成になっているのが大きいでしょう。これで、ギターソロあり、大サビ(Dメロ)展開もあります。もちろん、ワンコーラスはABCメロばっちりあります。Aは「ヒーローなんていらないよ……」Bは「君に今……」C(サビ)は「笑ってたいんだ……」といったところでしょうか。オープニング・エンディングはサビに似たコード進行パターンでついています。さらに、イントロとアウトロにはサスフォー、サス・トゥー?させる和声&リズムのキメフレーズがついています。

この質量にまず感服してしまいます。

しばしば、1曲のポップソングの描写の豊かさや物語性に感嘆して、一本の映画を観たようだと評したくなることがありますが、『笑ってたいんだ』は私にとってそれとは違い、これほどまでに長いにも関わらず、あくまでポップソングです。ポップソングとしての審美観が高い。素晴らしいのです。

それは、ひたむきでシンプルな歌詞とそれが備える実直なメッセージのせいかもしれません。けなしていると誤解しないでほしいんですが、すっごく「普通」なのです。ひねくれていない。

心の底からこうした実直さを「吐ける」、吐くことができるのがそもそも稀有なのです。腹のそこから、ありのままの日常の良いこと・悪いことすべての行いを摂取した胃の内容物を吐き出したら、普通、汚くなってしまいます。とてもみてられないし、鼻つまみものです。

ですから、心の底、腹のそこから、ありのままの己のナカミを、なんの準備もなく無防備につつかれたままに吐き出したものが、実直でエネルギーを備えたものである、というのが、もう尋常でないのです。普通でない。ここまで、普通に万人に通じる美しさ、意匠をそなえた作品を「吐ける」ことがもう特級の稀有なのです。

もちろん、いきものがかりとてプロの職人集団ですから、ユーザーにそう受け取ってもらえる作品を「つくった」「魅せた」のかもしれません。彼らの素の「人となり」を私はほぼ知りません。とにかく、「素の吐瀉物(汚くてすみません)がここまで普遍的なことが尋常でなく稀有だ!」と、いち鑑賞者の私に思わせること自体が、彼らの職人表現者としての大勝利なのです。『笑ってたいんだ』の主題の通り、特級の職人として「笑い」を勝ち取る傑作と称えましょう。

最後の最後のフレーズ、“あたらしいひかりをかかえて歩き出すよ”(『笑ってたいんだ』より、作詞:水野良樹)には、ただ楽観していられるだけではない何かの「負債」とまでいえるかわかりませんが、重みと責任のあるものを携えて、それと向き合い、常に答えを出していく覚悟を感じます。そこが、奇跡のようなスッピンのなかにも一縷のリアルを私が感じるところでもあります。ブラボーです。

笑ってたいんだ MVを観る

いきものがかり Official YouTube Channel>いきものがかり 『笑ってたいんだ』Music Videoへのリンク

白い集団が走っていきます。街のそこここを。メンバーは明るい緑の広場で演奏。白を基調にした無地の衣装に、三人のメンバーおのおの、ネクタイ、ストール、ネックレスといった具合にひとつだけ色・質感のあるものを身につけています。

疾走する白い集団というのも皆、ひとりひとりが上下白の無地の衣装で統一されています。服の形はいろいろです。ちょっと布の面積少なめな「姫」っぽい人も混じっていて目を引きますし、街で早朝にランニングしていてもおかしくないような景観に馴染む感じの人もいる感じですが、いずれにしても目がさめるようなすっきりとした白ですのでやはり洗濯洗剤のコマーシャルにそのままなりそうな映像です。

エンディングの歌詞、“あたらしいひかりをかかえて歩き出すよ”(『笑ってたいんだ』より、作詞:水野良樹)が私の中で印象的ですが、ちょうどこのエンディングのあたりで上記の疾走する白い集団が、いきものがかりの三人が演奏している緑の広場に走り込んで来るかたちで接合するのです。

白い集団はそれぞれ違う単色の布を各々一枚だけ頭上に掲げて、メンバーの背後からメンバーの前方へと走り抜けていきます。これが一人ひとりそれぞれ、カラフルな「あたらしいひかり」なのでしょう。

白い集団(大衆の象徴)はそれぞれに、己の宿命と人生の軌跡を持っています。それはいきものがかりのメンバーも同じこと。それがラストで、メンバーが定位置にしていた緑の広場で出くわすのです。

白い集団はただメンバーの背後から前へ向かって走り抜けていくので、メンバーと交流するとか親睦するとかでありません。あくまで、同じ場所・同じ瞬間で居合せるだけです。居合わせるどころか、すれ違いみたいな様相ですらあります。メンバーと白い集団はおおむね同じ方向を向いてはいますが、白い集団はそれぞれの固有の進むスピードがあるでしょうし、メンバーはそこに立って、風に吹かれ体を揺らしながら演奏をしています。ふわっと舞う吉岡さんの髪で生命感を表現しつつ、映像はとじます。

大衆と個人の宿命や命題といった、確かな重みのある題材を至極さらっと爽やかに描いたMVです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>笑ってたいんだ/NEW WORLD MUSIC NEWTRAL

参考歌詞サイト 歌ネット>笑ってたいんだ

いきものがかり IKIMONOGAKARI 公式サイトへのリンク

『笑ってたいんだ』を収録したいきものがかりのアルバム『NEWTRAL』(2012)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『笑ってたいんだ(いきものがかりの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)