愉快なピーナッツ くるり 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:岸田繁。くるりのシングル、アルバム『魂のゆくえ』(2009)に収録。
くるり 愉快なピーナッツを聴く
めっきりくるりのファンになり、リリースの同時代にふれた楽曲として私の中で印象深いシングル曲『愉快なピーナッツ』。あらためて聴くに、オーブンであたためられるようになだらかに紅潮する感動を覚えます。
ど頭からやってくれます、8分音符一個ぶん食った、つまり小節線より前に飛び出させたギターリフ。これが何万回聴いても、ど頭からはじまっている、つまりアウフタクトしていない形に聴こえてしまい、バンドがインして歌がインして「だまされた!」と拍の思い違いがガランと崩される痛快があります。もちろん繰り返して聴くうちに(何万回+1回目くらい?)理解でき、「ははあん」「腑に落ちた!」という爽快感もまたやってくる……つくづく酔狂させる魅力を感じる楽曲です。洋酒に浸かったピーナッツだったかしら?
ギターリフが千金です。主音を低音位に敷いて、「ⅠM7・Ⅳ・Ⅰ」をひたすら繰り返す感じのコード進行。
テンテンテン……とわずかに音と音のあいだに間隔をもうける、音を「切る(スタッカートさせる)」ほどでもないベースの一個一個のストロークのニュアンスが絶妙です。
ギターが同じリフをひたすら繰り返すのですが、主音の保続をやめにしてベースがⅲ→ⅳ→ⅰの動きで和声の低音位を動かします。ギターがおなじことを繰り返す、ベースが低音位の主導権を握り自由に朗々と気分よく歌いうごきまわる。この雄弁で社交的なベースと、いぶし銀なギターの組み合わせのパターンは、くるりの数ある必殺技の型の中でも効果抜群の「得意のやつ」のひとつといえそうです。
アルバム『THE PIER』収録曲の『loveless』でも見事なギターリフ錯誤:アウフタクトをさも強起みたいに見せるオープニングをみせてくれるくるりに酔狂する私です。
『愉快なピーナッツ』の話にもどります。ピアノの静謐で言葉少なな使い方が、もの静かな故にかえって注意を惹きエモーショナルです。演奏クレジットは世武裕子さん。『心のなかの悪魔』のレコーディングにも参加しています。
ギターとベース、輪郭のひきしまった孤独で磨かれたリードボーカルをオルガン、バックグラウンドボーカルが包みこみます。夜明け前の闇に光がさす……オーブンで温まって温度が上がっていく紅潮の感慨を私にもたらす音、言葉。
おしゃべりではない、態度に秘めた意思です。いえ、秘めるわけでもなく雄弁するわけでもない……ただあるがままにしているのを観察して、それに自分の感性を共鳴させ歓びが鑑賞者の中で化合生成される……くるりの曲の多くの魅力はそういうところにありますし、殊に『愉快なピーナッツ』はそうした粘度の強い1曲だと思います。
青沼詩郎
『愉快なピーナッツ』を収録したくるりのアルバム『魂のゆくえ』(2009)
くるりのシングル『愉快なピーナッツ』(2009)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『愉快なピーナッツ(くるりの曲)ギター弾き語り』)