恐竜は少年時代の私のロマンでした。
人間 Ver.2に届けたいもの
THE BOOMはオトと言語のもっともすばらしい接着者だと思います。よくこの人は作詞の人、この人は作曲の人といった格付け・ベストづけ、テーマに沿って選定したリストをもとにああだこうだいって楽しむ音楽鑑賞の楽しみの手法もあると思うのですが、宮沢和史さんは作詞と作曲一体としてもそれぞれを独立したものとあえてとらえてみても感受性が卓越していると思うのです。ふとよなよなTHE BOOMを聴き始めたらイマジネーションが止まらなくなってしまいました。
本曲において、特別な言葉遣いは音楽上からも言葉(詞)上からも排してあり、直訳して人種や時代の向こうまで届く平易さと甘くさわやかで儚く希望にあふれた光を感じます。アコギを弾き歌いして伝わるプロット(骨格)をもちながら、それをバンドで丹精に肉付けします。
本曲はエコサイエンスイベント『恐竜 2009 砂漠の奇跡!!(幕張メッセ)』のテーマソング。もしあした隕石がおちてきてかつての恐竜みたく世界も生命も壊滅的なダメージをうけたのち、億単位で時間が経過し、いつしか人間Ver.2らしき知的生命があらたにあらわれたらとき……私たち人間(Ver.1)の痕跡として残るものはなんなのか? いまこの瞬間の個人の想いや考えは? 肉体は? 音楽は? 時空をこえたロマンに浸らせてくれる、悠久で平易で美しい音楽とメッセージが魅力です。
My Sweet Home THE BOOM 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:宮沢和史。THE BOOMのシングル、アルバム『四重奏』(2009)に収録。
THE BOOM My Sweet Home(アルバム『四重奏』収録)を聴く
いい歌を響きよく聴かせる心くばり、歌を中心にしたおたがいの和、視線がまじわる「四重奏」を感じます。耳心地が良い。
ちゃきちゃきとしたアコギのストラミングをコードとリズムの幹に、パコっと乾いたスネアのサウンドがアクセントします。ハイハットの粒に意図を感じるゆらめきがありきもちいい。オチメロ(後半で回帰したときのAセクション)でマーチング風のスネアロールのプレイがあらわれますがそこでも繊細なダイナミクスが伝わります。素敵なドラムです。
エレキギターのオブリが、ボリュームペダルとボトルネックを組み合わせたような、アタックをひっこめてポルタメントするおおらかな描線が聴こえてきます。恐竜、あるいは悠久な時をこえるのびのびとした青天井の感覚をくれます。
奇を衒わずいい歌、との印象ですがサビ頭付近の分数コードや4和音、マイナー使いがおしゃれです。またサビの小楽節をむすぶときのボーカルハーモニーがちょっと独特に感じる瞬間があります。ぶつかっている音程、とまでいっていいかわかりませんが、3度ハモとかだけを踏み外さないようにしているだけで得られるハーモニーではない、おれはこれなんだという意思を感じる描線です。
“振り返っても 何もない 叫んでみても 誰もいない 帰れる場所は 後ろにはない 立ち止まっても 時は過ぎる 引き返しても 夏は終わる 待ってる人は 過去にはいない Sweet Home 風を抱いて 明日のその向こうへ行こう Sweet Home ここじゃなくて そこでもない未来の先へ My Sweet Home”(『My Sweet Home』より、作詞:宮沢和史)
いのちが表にでて繁茂する様子の象徴こそが夏なのです。恐竜たちの最盛期、ジュラ紀まっただなかを思わせる、夏。いまでこそ気候変動で真夏の都市の屋外は殺人的暑さですが……
過去にとらわれて、後ろを向いてもその人にとっての前方はそちらなのです。時間はまっしぐらに進む、ある人がいずれを向いていてもです。時間は一方向というより、過去や現在や未来は時間という観念・解釈によって成立させた幻想なのかもしれません。
My Sweet Homeからやってきて、My Sweet Homeへ向かい、そこへ帰っていく。あるいはいまこの瞬間この場所こそがMy Sweet Homeであるのでしょう。恐竜たちもいるし、今の私たちもここで<そこで>もないどこか“My Sweet Home”で共存しているのです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>My Sweet Home (THE BOOMの曲)、四重奏 (アルバム)
宮沢和史公式サイト>Discography|THE BOOM Official siteへのリンク
『My Sweet Home』を収録したTHE BOOMのアルバム『四重奏』(2009)