地道かつ身の丈にあったスピードで君の育った町へ
亀っぽいのに女性らしき肖像が乗っている赤いジャケットの名盤『スーベニア』収録曲です。
スピッツ的童謡とでもいいたくなる形のよさ、アルバムっぽいサイズ感(コンパクト。アルバム曲だからこそ長く聴かせる方向性ももちろんあると思います)。
自転車の主題。少年の夏休み感、感じませんか? 自転車で登る丘と、人生で直面するハードルや起伏を、なだらかなやまなりのメロディが表現して思えるのです。やわらかなカーブをした天井をもつメロディが何度か出てきます、ときに「ピークをめざす」などという歌詞とともに。
曲の結尾の歌詞に注目すると、
“自転車で行きたいな スルリスルリと 伸びて縮んでいくうちに なんとかなるだろう なんとかなるだろう どうにか出来るだろう”(『自転車』より、作詞:草野正宗)
弓形のなだらかな描線とともに、メロディがちゃんとオチている、おさまるところにおさまっている、なんとかなっている・どうにか出来ているのです。
自転車で遠くへ行きたい、君の町へ行きたいみたいな希望を描いてもいるのですが、現実の主人公はさも四畳半の自分の狭い部屋で天井を仰いでいるだけみたいな1枚の絵に収まるサイズ感。理想と現実の差異、飛距離を稼ぐ想いにエネルギーが宿ります。
現実の主人公が仮にいくら自分の部屋でもんもんとしているだけであったとしても、音楽のコスチュームは裏拍をとるエレキ、カンカンと抜けたティンバレスっぽいスネア。まるでレゲエのようでもあり音楽の意匠はきちんと南国やリゾート地、遠くの赤道直下みたいな理想郷を試着しているところ、気が効いていておしゃれです。
エンディングが近づく歌詞「伸びて縮んでいくうちに」が歌われるあたり、時間差で意図した音程に合ってくるみたいな不思議なサウンドのシンセも入ってきて、このモチーフもまた理想と現実が接したり乖離したりするシズル感を表現します。曲の骨子とともに、こうしたメイクアップ、アレンジ的な部分でも楽しませてくれる手のひらへのおさまり感の良い本曲、おのおの味わってみてください。
自転車 スピッツ 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:草野正宗。スピッツのアルバム『スーベニア』(2005)に収録。
スピッツ 自転車(アルバム『スーベニア』収録)を聴く
オープニングのC#mとBのコードで、バンドのオープンなサウンドでばーーん! ばーーん!とやってから曲が始まるの、なんだかちょっと曲の本編のフワフワした雰囲気と乖離して思えるんです。
ちょっとこの糸がつがって思えるのが、間奏がおわったあとのBセクション回帰のあとに、C#mとBのコードの2小節のまとまりを2回くりかえす4小節が挿入されるんですね。オープニングの謎のバーンバーン!の二発は間奏のあとのこのプチ間奏の予言だったのかなと思うのです。歌詞とメロディのある大サビみたいなおおげさな展開をしなくても、こうしたちょっとだけABセクションと異なるものを、コンパクトな曲サイズのなかにも仕掛けていくところがスピッツ曲の特長に思えます。
エレキギターソロの間奏は低い音域までグラマラスにつかっていくプレイと、ティンバレスみたいな太鼓にかかった長い長いリピート回数のディレイが印象的です。このタイコのディレイのくりかえしが、猛暑のなかで踏切の警笛がうなる幻想をみているような気分にさせます。
Aセクションのときに、スプリングリバーブがピチピチ言っているのか、あるいはラジオの波長を合わせるときのチューニングの音みたいなチュインチュイン言っているような音がうっすら入っています。このちょっとしたお化粧が、私に幻覚を見ている気分にさせます。また先述の項目でもふれましたが、エンディングに向かっていくときのヘロヘロのシンセの音もまどろみチックです。曲中にみられるストリングスの音も、なんだか生のストリングスよりはまるでメロトロン(アナログテープに記録したサンプリング音を鳴らす稀少な楽器)で鳴らしたストリングスみたいな、ギリギリのニセモノ感があってこのサウンドも私の幻想感を助長します。
スピッツってきれいな音楽をならしていても、きれいな言葉を歌っていても、どこかすごくキケンな香りがするのが絶妙なんですね。本曲も、曲や歌詞の洗練や練磨の面っでものすごく手の中へのおさまりが良いのに、サウンド含め総合的に立ち現れる楽曲の味わいに、トリッピーでもろくてあやうくて、ワル(BAD、いい意味での鋭さや裏切り、頼もしいほどの独自性)さが漂うんですよね。その態度が真にロックフリークなんです。スピッツはたとえどんなに童謡みたいなきれいなフレーズを歌っても演奏しても、ロックバンドであるのみなのです。
エレキギターのフレーズに似た音形をストリングスが模倣したりするところもいいですね。ティンバレスっぽいスネアかなと最初思いましたが、明らかにスネアとティンバレス的なものは違うタイコとしてそれぞれ入っているようです。スネアもカツカツと短いリムショットとオープンショットをはっきり使い分けています。トリップでどっかいっちゃいそうな風のような身軽さを、ベースの地面のうえで腕立て伏せを繰り返すようなフレーズがつなぎとめてくれます。
青沼詩郎
『自転車』を収録したスピッツのアルバム『スーベニア』(2005)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『自転車(スピッツの曲)地道かつ身の丈にあったスピードで君の育った町へ【ギター弾き語り・寸評つき】』)