来世に持ち越せば真実
吉田拓郎さんらしいヴァースの詰め寄りっぷりとふしまわし。語尾の母音を伸ばして音程をそのままずり上げてしまい、しきつめられる発語のあいまにわずかばかりの光のさす呼吸のすきまを穿ちます。対するコーラス(サビ)は「えーーえいえんのぉー」と長い音価が解放感をあらわにし、ヴァースとの対比がついてメロディアス。吉田拓郎さんらしいなぁ……としみじみ感化されていると、なんとソングライターは中島みゆきさんによるもので、彼女による絶品の吉田拓郎コスプレ、あるいはイタコ、生き霊の降霊術……提供曲だったのです。
セルフプロデュース・セルフアレンジメントによるアルバムで、本曲も吉田拓郎さんによる編曲。明瞭なシンセ、クリスピーなエレキギター、リズムのカッチリした輪郭に乗せて破調な声色が来世まで足跡を運びます。『ファイト!』をカバーし自分の作風との親近感を覚えた(?)らしい吉田拓郎さんが、「遺書のような曲を」と中島みゆきさんにオーダーしたそうです。
イントロもなしに冒頭からいきなり押し寄せるように言葉が流れてきて、チラチラと舞う粉雪のようにかろやかで儚げなトラックがアルペジオ。言葉の緊張感をやわらげるようにサビで輪郭、体躯の洗練された美しいメロディがやってきます。
3番まであるメロサビ、しかも逐一サビに折り返しがついて16小節どころか32小節になっているセクションが複数あり、曲のセクションのバリエーションはシンプルでありながら長大なCD時代らしい楽曲サイズ。エンディングも「永遠」を思わせるフェイドアウト処理になっています。
永遠の嘘をついてくれ 吉田拓郎 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:中島みゆき。吉田拓郎のアルバム『Long time no see』(1995)に収録。
吉田拓郎 永遠の嘘をついてくれ(アルバム『Long time no see』収録)を聴く
ボーカルトラックには字ハモ、オブリやカウンター、主旋律のダブリングすらありません。
最初のワンコーラスはベースもおらず、ちゃきちゃきと両側から門柱のように鳴るアコースティックギターがニューヨークに行かんとする主人公を見送るかのよう。シンセのアルペジオが舞う雪のようで、フワっとした息の長い(永遠のようだ!)シンセがシンプルなサウンドのなか和声を遠くささやかに支えます。
ワンコーラスをすぎるとベースが入ってきます。エレキギターのチャッチャッチャ、チャキッといったリズムのキレが良く、指の圧力のコントロールのかろやかさが秀逸。おおむね一本調子のベーシックトラックは、聞く話によると吉田拓郎さんによる打ち込みだそうです。アコギやエレキだけ、ご自身で弾いた生演奏なのかもしれません。
E♭メージャーではじまって、最後のコーラスに突入するところで半音上がってEメージャーへ。ピアノのダウンビートの8分が入ってきて、起伏のおだやかなサウンドスケープながらもだんだんと豊かさが身についてくるような印象です。
エンディングで、低いポジションと高いポジションでユニゾンしたギターパートの息の長いリードモチーフがまた永遠チック。己の生を充足させるのは己の解釈なのだと思わせます。悟りゆくように、長くフェイドアウトし6分に届きそうな堂々のサイズ感。
嘘は、いつか真実になる瞬間があります。心のうちがささくれていても、表面だけでもやさしさをつらぬけばそれもいつか真実になるでしょう。あなたがしたことがあなたの永遠の嘘になるのです。
表面的な嘘と真実の観念がいれかわり、あるいは癒合して表裏一体となる意匠が痛快な言葉の魔術を主題とした美しくも儚い秀作。
青沼詩郎
参考Wikipedia>Long time no see (吉田拓郎のアルバム)
『永遠の嘘をついてくれ』を収録した吉田拓郎のアルバム『Long time no see』(1995)