今日の特別な想い

音楽は遠くの君に届く魔法の手紙。電話は任意の時間・場所でタイミングを合わせてつながれます。電話回線を通ったトリミングされた音質の声、通話体験って良いですよね。

電話の周囲にある人々の想いをポップソングは多様に表現してきました。媒体の向こうにある伝えたい本体はずばり愛。曽我部さんの本曲はⅠとⅣのコードのみを下地に実にシンプル。ボーカルメロディの重要な音域はほぼ6度に収まっています、サビで一瞬下にはみだす部分を含めてもせいぜい1オクターブ。ハレとケ(晴れ舞台と日常)があるとすれば、本曲の音域のせまさやコードのシンプルさはさながら「ケ」、日常のアプローチです。自分の等身大の輪郭と声で、カジュアルに親身にいこうよというアティテュードを感じます。このシンプルがゆえの許容能力、うつわのひろさが、本曲収録アルバムの「ケ」な態度をまとめあげているように思えます。

シンプルで必要十分な編成で、キックだけになってスネアが抜ける、リズムトラックが抜けてウワモノとクラップだけになるなど恒常的な曲の雰囲気のなかに巧みに起伏のある聴き心地をもたらします。

曽我部恵一BANDのレパートリーとしてはテンポを早めてビートのアクセントの強いアプローチでライブを盛り上げるなど(私も実際に生で観たことがあります)、シンプルで「ケ」の中央値な曲の本質が多様なアプローチ(アレンジ)を許容するうつわのひろさ・深さにつながっているのもまたよろこばしい本曲の特質でしょう。

テレフォン・ラブ 曽我部恵一 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:曽我部恵一。曽我部恵一のアルバム『曽我部恵一』(2002)に収録。

曽我部恵一 テレフォン・ラブ(アルバム『曽我部恵一』収録)を聴く

ずっと安定した撫でるようなダイナミクスで曽我部さんの歌声がつづきます。日常とともにつちかい、継続する恒久な想いがうかがえます。きみにぱっと思いついたように電話したくなること。そんな日常のなかの特別な一瞬は、やっぱり想いがずっと継続しているからこそやってくる衝動でありひらめきだと思います。

エレキギターが左右にわかれます。左のエレキのリズムが「チャラララ」と16分音符を短く断続的にうかべて、まるで電話のコール音のようです。右のリズムは情報量がおおくて楽曲のリズム成分を大きく占める重要な役どころで、バンド編成でのライブをおこなうときはこのエレキのリズム成分をより強く拡大しているように思えます。

2拍目のウラから3拍目のオモテあたりにかけて間を取ったベースのパターンがのびのびとしています。ドラムのスネアが抜けてみたり、ウワモノが抜けてベースとキック中心になったりなど4〜5人でライブ再現できそうな編成のなかでの足し引き・組み立てで魅せます。継続したり保たれ・守られたりする関係・景色・資源のなかで、すこしずつゆったり、クロスしながら人やものや出来事が代謝して入れ替わっていく本質をうつしとった静謐な美しさが漂います。日常が日常であることによる品のよさを覚えます。

シンプルで撫でる吐息のような歌唱の輪郭を中心に、コーラス(サビ)ではボーカルトラックが増えて音像が豊かになります。オクターブ上の音域のレイヤーなどもあります。365日あるいはそれ以上の年月のなかで幾度きみに電話したことでしょう。そのなかで君に電話線ごしにおくりとどけたぼくの多様な声色の数々、その輪郭を重ね合わせにして同時に見せたような声の演出がサビで静かなカタルシスをこころみます。

楽器の演奏のみで再現できそうなサウンドで基盤を組み立てますが、プログラミングでいれた感じのハープ系のアルペジオトーンのようなものが楽曲のなかでくりかえしあらわれます。これも着信やぼくからきみへの発信の顕現の意匠のようにおもえます。想いは神秘で、飛躍感があります。リンリンアイラブユー。オノマトペ的です。

エンディングはtelephone loveをアルファベットひと文字ずつに分解。単一の声のトラックがコールしたら、複数のボーカルトラックの音像になってレスポンスが返ってくる構造になっています。きみに電話したらどんな声がかえってくるかな。ケ(毎日)を穏やかなわくわくで満たしたいね、と心をあらたにする気持ちです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>曽我部恵一

参考歌詞サイト 歌ネット>テレフォン・ラブ

ROSE RECORDS Webサイトへのリンク

『テレフォン・ラブ』を収録した曽我部恵一のアルバム『曽我部恵一』(2002)