音楽にすべてがあるように

加藤和彦さんのソロファーストアルバムの収録曲。

タイムマシンにおねがい、帰って来たヨッバライ、イムジン河なども作詞している松山猛さんと加藤和彦さんによる作曲作品。

7番まで同じ形式(16小節+1小節の余白)が繰り返すわらべ歌のようなシンプルな構造。歌詞の詳細に合わせて軽微な語末や語頭、歌いまわしの変化は含みます(7番は1番の繰り返し)。

誰もが喜び、悲しみ、想い、感情……どこかに置いておきたいもの、誰かに手渡しておきたいもの、物にあらず、物々交換ならぬ非物々交換を描きます。老舗の喫茶店とか観光地の飲食店などにお客さんが自由に書き込めるノートが置いてあることがありますが、ちょっとあのノートみたいな趣向を感じます。

音楽が大好きな私にとっては、本曲の主題「アーサーのブティック」はまるで音楽そのものだと思えます。悲しみも喜びも、星屑も虹も、砕けた心を包むセーターもみんなみんな歌の世界(音楽)にあるものだと思えるのです。誰もが参加できて、誰もが学びや何かを得て、

よろずのお客さんの想いを受け入れているうちに店先、在庫がだんだん豊かになっていくみたく、しっぽりと始まった歌はだんだん音数を増してストリングス、パーカッション、ホーンなどが加わります。後年のザ・フォーク・クルセダーズ名義でのカバーもあるので聴き比べると「アーサーのブティック」のビフォー・アフター、すなわち変化・代謝する音楽の世界、あるいは変わらずに真空パックされた固有の歌の世界がいかなるものかに気づけるかもしれません。

アーサーのブティック 加藤和彦 曲の名義、発表の概要

作詞:松山猛、作曲:加藤和彦。加藤和彦のアルバム『ぼくのそばにおいでよ』(1969)に収録。

加藤和彦 アーサーのブティック(アルバム『ぼくのそばにおいでよ』収録)を聴く

何度か聴くうちでも、そのときによって輪郭が光って見える歌詞のラインが変化するのです。

“アーサーのブティックは不思議な店 形のないものもたくさんんあるんだ テントウ虫のちいさなシャツや ほんとうの心やいつわりの心”(『アーサーのブティック』より、作詞:松山猛)

テントウ虫のワンポイントあるいはテントウ虫柄の人間用のシャツではなく、テントウ虫が着る用のシャツ。現実にテントウムシがシャツを着用するのは難しそうですが、心の自由が追求し想像するものはなんでもあるのがアーサーのブティックなのでしょう。

美しいものばかりがあるのでもない。おそらく正義や正解だけがあるのでもないでしょう。本当すなわち真実や真理めいたものもあれば、偽りや見栄、嘘もあるようです。生きるうえで出会うさまざまの観念がある。アーサーのブティックは、作詞をする人には宝石店のように目が爛々としてしまいそうです。

左にカラカラと三線。右にいるのはマンドリンか何かでしょうか。左右で撥弦楽器が一対になって、オブリガードします。真ん中付近ではペキペキとベースがリズムをとります。ドラムやパーカッションが加わってくるまでは、ベースがまるでパーカッションのような役割をにないます。

トランペットのオープンサウンドにミュートの効いた金管の音色も聴こえてきます。ペカペカとパーカッションの軽い音色がオモチャみたいな茶目っけがあります。ボンゴなのかな?

音数が最も豊かになって、リズムもおだやかに、しかし力強く描き込みが満たされてフェードアウト。そのつもりがなくても、あなたも知らないうちにこの店を訪れているのでしょう。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ぼくのそばにおいでよ

参考歌詞サイト 歌ネット>アーサーのブティック

『アーサーのブティック』を収録した加藤和彦のアルバム『ぼくのそばにおいでよ』(1969)

『アーサーのブティック』のカバーを収録したザ・フォーク・クルセダーズのアルバム『若い加藤和彦のように』(2013)