傘に隠した夜
ちあきなおみさんのデビュー曲。雨の季節にリリースされました。ナレーション入りでアルバムにも収録されています。私的な対人関係で楽曲の世界への導入をくれます。あんまり現代でこういう形式のアルバム作品をみませんが……ヒップホップやラップ形式の音楽にこうした公私が癒合したようなスタイルをみることができるかどうか?
バックバンドの演奏が非常にかろやかで達者でさも簡単そうにこなしますが上手いなと思います。GSっぽいサウンドで私好みです。
自分が関心を寄せているものは、この世のすべてのものにのりうつったり関連や連想がみえたりするもの。あなたに恋している状態だと、傘にかくれた道ゆく一般の人すら「あなた」なんじゃないかとその影をつい追って顔を確かめようとしてしまうもの。
「冷えた唇が思い出させる 傘に隠した夜の 別れのくちづけ」との歌詞のフレーズがありますが、他人への配慮からか恥じらいからか、くちづけを傘に隠す映像描写がおしゃれですし、あるいは別れのくちづけを交わした夜そのものを傘に隠した、みたく味わいの筋を見出すのも乙なものでしょう。
本曲の作詞者の吉田旺さんのほかの作歴には『喝采』。作曲者の鈴木淳さんの作歴には『四つのお願い』などがあります。
雨に濡れた慕情 ちあきなおみ 曲の名義、発表の概要
作詞:吉田央(吉田旺)、作曲:鈴木淳。ちあきなおみのデビューシングル。アルバム『四つのお願い あなたに呼びかけるちあきなおみ』(1969)に収録。
ちあきなおみ 雨に濡れた慕情を聴く
これでデビュー曲ってイカれています。うますぎる。いきなり完成されている。発語のひとつひとつに、強くぶつけて強調したりひゅっと引いて影を薄めたりのダイナミクスがあります。そして発語・発音のタメのタイム感が達人。これ以上淡白になってもやりすぎてもいけない絶好の塩梅です。そして発音してからひゅるひゅるっと艶めき揺らめくビブラートがかかります。曲想を適切に解釈した悲しみに沈むようなわずかにフラットなエンディングのロングトーンの音程。すべてが完璧で情緒にあふれ、リスナーにまさに楽曲どおりの雨がふり注ぎます。
GSっぽいバンドがうまい。パシっと余韻の絶妙なスネアサウンドを含むドラムを左寄りに、タンバリンが右寄りで対になります。右のエレキのリズムと中央奥あたりのオルガンのうっすら感がまるで薄墨の記名です。悲しい。左にはオブリガードのエレキの指捌きが素早い。右定位のピアノがオブリのエレキと対をなします。そして低音弦・深めの音色とトップノートで定位のついたストリングスが雨のなみなみと注ぐ質量の如くバンドを抱き、支えます。
歌のメロディの意匠が表現する半音下がった沈みこむような音程や動きや随所のブルージーな顔つき。イントロやAセクションで主音から歯が浮くような気持ち悪さで半音上がってしまうベース。安定しない、乱れた心を遠くから俯瞰することでのみ獲得しうる平静さを含めた耽美がこみあげます。
ナレーション入り(アルバムバージョン)がある
ちあきなおみ像を仮想上のパートナーに、曲の世界への没入を誘うナレーション入り。「私のデビュー曲が“雨に濡れた慕情”ですものね」と、完全に現実の存在:「ちあきなおみ」の立ち位置から語りかけます。
青沼詩郎
ちあきなおみ / TEICHIKU RECORDS Webサイトへのリンク
『雨に濡れた慕情』を収録したアルバム『四つのお願い あなたに呼びかけるちあきなおみ』(1969)
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