ブックオフで名作を
地元の街をうろうろしていたらブックオフのワゴンセールでみつけてしまったDVD『ティファニーで朝食を』。名前ばかりを知っていて観たことのなかった古い映画。こういうものに挑戦する気になるのも今の自分の機運なんだろうと出会いをうれしく思うことにする。名曲『ムーン・リバー』がこの映画の主題歌とパッケージ裏に書いてある。あの歌は私も好きです。歌だけを知っていて、本作(映画)を未鑑賞だったピースが埋まるときが来たんだと思いました。
配信サイトでも有料で動画データをレンタルしたりできますが、なかなかそうまでして手が伸びないのも私が気になっている過去作(過去とレッテルを付すのも失礼ですがここではあえて)を大量に未視聴で放置している一因。こうして謎に出会える円盤(中古で安い)の存在がありがたい。配送料だなんだでアマゾンなんかで安い中古円盤を注文しようとしても結局数百円になるのです、場合によってはそれでも安いほう。街のブックオフのワゴンセールは110円。なんだか申し訳ない。
観た。
・主人公のキャラクター
・主題歌音楽が素晴らしい
・脇役のキャラクター
・シーンのうつろい
・ツッコミどころの猫リリース、からの結末
以上の項目について書いていきます。【以下からはネタバレありの記述になりますので、映画を未視聴の方はご注意ください。】
・主人公のキャラクター
まずタイトルがティファニーです。日本でいったら銀座っぽい。おハイソな感じがするじゃないですか。表紙のヘプバーンのイメージもなんだかお上品で高貴なファッションで身が固まっている印象がするから、お上品な貴婦人のお上品な殿方とのお上品なおデートのお話かと永年思い込んでいました。
これが払拭された、大きな勘違いだったとわかったのがまず第一に本作を鑑賞して一番面白かったところです。

なにしろ主人公のホリー、ようしゃべる。これでもかとべらべらしゃべる。相手が居眠りしてもしゃべるんじゃないのか? 通話相手に受話器を置かれてもなおしゃべるんじゃないのか? というくらににべらべらよくしゃべる。この時点で、私の思うおハイソなお嬢のお上品デートのお話ではなかったのがよくわかりました。けっこう感情的だし、気分に起伏があるし、短絡的に行動する性格に思えるヘプバーン演じる主人公のキャラクター。これがなんだかクセになる。よく動く(感情の意味でも、身体のしぐさの意味でも)ので、見ていてなんだか飽きないのです。こんなお嬢さんに恋してみたいな!と思うような像とは全然違うし、そばにいたらなんか疲れそうな感じの人なのです。スクリーンのなかで観るぶんには面白い。なんだかツッコミどころがあるし。そういう時、そうする?! そんなこと言う?(私ならしないけどな〜)みたいに心のなかでツッコミを入れながら見るのが面白いのです。
こんな際立った人物造形を視聴者に届けるには台本も演技も演出も、カメラワークや構図、編集もいちいち良好に機能しあってのことなんだろうなと思います。
・主題歌音楽が素晴らしい
いろいろとツッコミをさそう人物の挙動や決断や発言がゆきかうなか、要所を主題歌音楽の良さがひきしめます。これがなかったらちょっと苦しい。この疲れ知らずの女性(とそのお相手)の共感しづらい恋がロマンティックで素敵なものであると鑑賞者に魅せるために、音楽が音楽以上の機能をみせています。もう音楽自体が映画なんです。主題歌音楽が主人公のソロ歌唱で実演されるシーンはたった1回だった気がします。朗々とコーラス隊?が本曲をシンガロングするエンディングは圧巻壮麗で、何もむくわれなくても、何もかもがこれからであっても浄化された気分がするくらいです。インストゥルメンタルで、弦中心?だったりちょっとノリや編成にヒネリのあるアレンジの効いた編曲で主題歌音楽が使われているシーンがあった気がします。いずれも、映画に連帯・一体感をもたらしていました。
たとえば主人公が住むアパート?に何十人もうっす〜い知り合い?を呼んで大パーティーをするという非常識きわまれど本作において間違いなく重要なシーンがあるのですが……そのあたりでなんだか社交ダンス音楽っぽいアレンジで主題歌音楽がアレンジされていた気がするんです。
ツッコミついでに、このアパートでパーティのシーン。絶対こんなところでこんな規模のパーティしないし、しようと思わないし、しちゃダメだし……て思うのにしちゃってるんです。映画だからいいよね。
主人公の住むフロアの上のフロアの住人はカンカンの怒りプンプンです。
・脇役のキャラクター
このカンカンプンプンの階上の住人、ユニオシ(演じたのがミッキー・ルーニー)。このインパクトがまたすごい。入れ歯が飛び出したの?と思うくらい、あるいは地でバンパイアなの?と思うくらいになんだか上歯と下歯が飛び出したみたいな表情とメガネルックで主人公にたびたび怒鳴り込みをかけるのです。ちょっと丁寧な、かしこまった(馬鹿丁寧な)口調で怒りちらし、クレームを飛ばすのです。でも主人公がバシっとなんか言ってやると怒られた子犬みたいに引っ込む。おいおいそんなんでそんなに効いちゃうの?と思うくらいにイージーに引っ込んじゃう。階上から顔や上半身だけをみせて距離を持って怒鳴るんで、基本的には全然近づいてこないんです。実はかなりの小心者でビビりなのかもしれません。お茶(茶道)をたしなんだり、写真の設備を自室に持っていたり?なんだか芸術家って設定みたいです。
このユニオシの登場シーンまわりでも「ええ? そんな簡単にそうなる?」みたいなツッコミを心のなかに起こさせること度々。ツッコミどころがあるからおとぎ話(フィクション)は良いのです。芝居の流れのために、都合よくキャラ(駒)が動いていく。そういう気持ちよさも認めうるのです。「現実はそんなふうにはならないでしょうよ」というツッコミを起こさせない類の娯楽作品の凄さも認めますが、「はいはい、お芝居なんだからそうなるよね」という調和もあるのだとこの名作を観るとしみじみ思います。
・シーンのうつろい
芝居の流れのためのご都合主義、みたいな話と関連があるのですが、てっきり夜のシーンだと思って傍観していたら、いつのまにかシーンが朝?に変わっていることがありました。また主人公のホリーが殿方の腕のなかで眠ったかとおもったら寝言をいってさらに飛び起きて出て行ってしまう……みたいな、通常、数時間くらいの時間経過をともなって起こる順序一連が、視聴者がみている目の前で、カットを割ることなく数十秒だか数分のうちに展開していくというシーンに違和感を覚えました。違和感というか気づきであり私にとっての学びです。ああ、そうか。これはお芝居だからこれでいいんだと私は思いました。
通常数時間かけたり、あるいは何年もかけて人物が学びや経験を重ねて獲得するものごとに対する選択や決断の感性の変遷、進歩や成長あるいは時として劣化・退化が、映画という非現実のなかで短いシーンの尺のなかでめまぐるしく起こります。このことも、私における主人公:ホリー・ゴライトリーのせわしなくて傍若無人な人物像の印象を強調してみせるのです。
・ツッコミどころの猫リリース、からの結末
どっちゃどちゃの雨が降っているのに、飼っていた猫をたった今乗ってきているタクシーのなかから非情に追い出して棄ててしまうシーンがエンディング付近にあります。これもまた「そんなことする?!」と私に違和感を与えますし、こんな人がパートナーだったらいやだなと思わせたシーンです。
主人公が短絡的なのは、お芝居であるメタ事実を抜きにしても認めうる設定なのでしょう。そんな主人公に、お相手の殿方(ジョージ・ペパード演じるポール・バージャク)は減滅の言葉を投げつつ、一緒に乗ってきたタクシーを降りて雨のなか去っていきます。ここのセリフがシビれるんです。きみの愚かな決断はどこに場所をかえたってきみにつきまとうんだ。君は君からのがれられない。セリフの細部はまったく違いますがそんなニュアンスで、短絡的な主人公に恨み言をかっこよく紳士的にきっぱりとなげつけて去っていくボール。ここがこの映画で一番まともでかっこいいシーンだったし、何かと登場人物の思想や決断・判断、シーンのはこびやことの顛末のはこびに納得がいかない気持ちでいるばかりだった私によくぞ言ってくれた!と一番の共感・共鳴をくれたシーンでした。
彼の正論をうけとって、遠ざかる彼の背中に呆然と何もできないでいるタクシーに残されたホリー。で我に帰ったのか、タクシーをおりてポールを追いかけます。なんだよ、彼に正論をなげられたくらいでそんな簡単に自分の決断がくつがえっちゃうのかよと思いましたが、じゃんじゃん雨もふっているしとてもドラマティックです。
それで、自分でさっきタクシーから追い出したばかりの猫チャンを「Cat! キャァーーット!」なんて泣き叫ぶみたいに、おのれの愚行をすかさず悔いるように探してわめきちらす主人公。そんなとこにいるのかよという謎の木箱やらなんやらをまさぐります。そんな簡単に会えないでしょ、都会は広いよ?と思っていたら都合よく猫ちゃんと再会できるのがこの映画。猫もだきしめて、彼ともぎゅっとくっついて、あの素晴らしい主題歌音楽が天がふたりに与えた運命までも博い愛で祝福しておそらくハッピーエンド。
後記
こんなふうに私が悪意いっぱいにつっこみどころを書きつらねるとなんだか駄作みたいじゃん?と思わせたならごめんなさい。やっぱり名作は名作なんです。主人公の気の迷い含めて名作。いえ、主人公の気の迷いこそが本作が迷作、じゃなくて名作たる所以なんです。月の川、なんて直訳したら愚訳なのかわかりませんが、そういう、遠くて、手がとどかなそうで、あるんだかないんだかわかんない何かきらめく素敵なものがあると思わせてくれる。これが映画のアイデンティティであり期待される最たる機能でしょう。
青沼詩郎
映画『ティファニーで朝食を』(1961)
『Breakfast at Tiffany’s (Blake Edwards’s Original Motion Picture Soundtrack by Henry Mancini)』