一人の手 団結と多様性の認め合い
愛するハーモニーを歌ってコカコーラのCMに使われてヒットした寄せ集めグループ:ヒルサイドシンガーズの実演で本曲を認知しました(そのグループのアルバムにカバー曲がいっぱい入っています)。日本では本田路津子さんや高石ともやさんの実演があるよう。Alexis Comfortの詞にPeter Seeger(フォークの伝説の人……)が曲をつけたものだといいます。
ワンセクションでオチがつく、といったような形式をしている楽曲ですので、たとえばヒルサイドシンガーズ名義の実演は転調を交えて高揚を演出してもいて、アーティストが個性を反映しやすいシンプルさを持つ楽曲だと思えます。
曲の内容としては一人の手、というくらいですから、hands, feet, eyes, voiceなど人間の肉体に由来する単語をセクションのはじめ付近に用い、一人がもつ手や足や目や声で成せる範囲は小さくとも、それらを合わせれば、集合すれば大きな力が持てると訴えるものである……と解釈できそうです。
団結しようと煽る(良い意味でも滑稽な意味でも)勢いや態度は、1960〜1970年代くらいに隆盛を極めるフォークブームの特徴のひとつに思えます。似た意見を持つ人どうしで手をとって、団結して大きな力を持とうぜ!という様子は、距離を持って冷めた目で見るとそれもちょっと違うんだよなとしみじみ感じられもしないでしょうか。似た意見と粗雑に括ってみましたが、その意見ひとつひとつも実は微妙に違っています。大きな目標や理想のために、具体的にはこんな作戦や対策で近づいていくべきだというのがあって、その具体策はじゃあどんなだ? と問うた場合に、理想はいいけどアプローチ方法が間違っていると思う!とか、いや、俺はこれでいいと思うんだ!とかあるわけです。
にもかかわらず、大筋ではこいつがいちばんまともかな、といった政党や主導者に政治を託す機構がとられている。妥協すればこいつが一番まとも、ならまだ良くて、死んでもこいつにはまかせたくない、という取捨選択をかけて、そのなかではまだ一番ましかなという消去法で選挙の投票先を選ぶ人も少なくないでしょう……なんて話は本曲の話からあまりにも乖離しているかもしれませんが、でもあながち検討違いな筋だとも私には思えないんですよね。
団結や扇動に寄せるツッコミと思うと寒くなってしまう味わいも、いち個人どうしの心の尊重の歌と読めば非常に美しいわけです。あなたや私の、手や目や足や声が追い求めるもの、それぞれに理想は違えども、その方向や志がわずかでも重なり合う部分を見つけて共生していこうよという歌だと最終的には最たる博愛の態度で望んで解釈すれば至極美しく、時代も国も地域も飛び越える普遍の大衆歌だとその絶大な価値を認めることができます。
One Man’s Hands(ひとりの手、一人の手) 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Alexis Comfort(詞), Peter Seeger(曲)。最初の実演家や発表形式が不明。ハイウェイメン(The Highwaymen)、ヒルサイドシンガーズ(The Hillside Singers)、日本では本田路津子(『一人の手』として和訳、1971年)、高石ともや(友也)(『想い出の赤いヤッケ 高石友也 フォーク・アルバム第1集』収録、1967年)などの実演がある。
One Man’s Hands(ひとりの手、一人の手) 曲の実演
高石友也
高石さんの実演。ちょっとカリブ地方などを思い出させる、遠い地を思わせるアレンジ。脇をオルガンが支えます。高石さんの発音一語一語が頼もしい。
本田路津子
しゃかしゃかとアコギのストラムが軽快。ブラスが湧き上がり勇壮。ストリングスが流麗。ちらちらとグロッケンが輝きを添えます。本田さんの歌唱がみずみずしくきっぱりしておりメリハリと緩急に満ちています。
The Highwaymen
バンジョーにアコギも入っているようか、撥弦楽器のストラムで移勢よく歌います。ハーモニーになる部分、エンディングあたりの音価の拡大や歌いまわしのアレンジに独自性があります。
The Hillside Singers
ノンビリとした足並みで置いてけぼりをつくらない和を表現します。オブリガードや保続音などのアレンジも歌い手の数の利で自由自在。2・4拍目にアクセントをつけたアコギのリズムが右寄り定位、アルペジオ主体が左寄り定位。エンディングで音を伸ばすとオルガンが残ります、いたんだ。
転調を含めて、団結しての何かしらのアクションが実を結び世界が大なり小なり変わったかのような地平の変遷を演出するようです。
青沼詩郎
『想い出の赤いヤッケ 高石友也 フォーク・アルバム第1集』(1967)
『GOLDEN☆BEST 本田路津子』(2008)
『March On, Brothers』(1963)
『I’d Like to Teach the World to Sing』(1971)