幸せづくりと与え合い

くるり15番目のオリジナルアルバム『儚くも美しき12の変奏』収録のなかでも本曲『はたらくだれかのように』はくるりのお二人にドラマーの伊藤大地さんを迎えた編成で収録されました。

親の保護の下にある少年の人格・心を憑依して「はたらく」ことへの率直な疑義を連ねます。表面上のはねっかえる気持ち、反抗心を映すように、挑戦的で野心的ではじける演奏とプログラミングのサウンドがポップで愛嬌がありつつもアーティスティックで垢抜けしていて現代的です。

少年のような無垢な心も実は詳細な質感は複雑なもの。1拍4分割のリズムで子供心に長い1日、大人の経済活動に使われて(使役を課されて)過ぎる人生を見やるナナメな態度をモッタリと粘性のある時間を感じさせるグルーヴで描き、ドラムのタイトなふくよかな音像が画面の定着を確かなものにします。1拍ごとにコードチェンジするサビはさながら、少年と地域社会の構造の格闘のように動きと革新に満ちています。EメージャーキーにおけるD→A(F#m?)→Bm→D→E、といったコードの動きを感じますがどうでしょう。

本曲の主調をEメージャー調ととらえると、サビに入るやいなや近親調あるいは近親調の近親調(シャープ2~3個系)のスケール・響きを覗き見るかのように1小節間沈み込み、またすぐ元のEメージャーの秩序下に浮上。とうちゃんやかあちゃんの想定に収まるもんかよ……と逸脱してみえる反骨も本人には一本通った「芯」なのであろうし、血筋で結ばれた「絆」「鎖」のような観念も案外近いところにあるよう。家族や親類、地元の距離・人間関係も本曲のテーマの核心です。

はたらくこと=社会の核心。やがて、嫌悪したかにみえた少年の心はそこ(労働・奉仕)に畏敬の念を見出して行きます。多分、元々知っていたのですね。「感動させてみたい 君を」のラスト一行は少年の自己への宣誓であり怠惰の克服と、充足を迎えるために「はたらく」ための腹が座った心の現れではないでしょうか。はたらくことの本質は幸せの生産と循環にあるものと……。

はたらくだれかのように くるり 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:岸田繁。くるりのアルバム『儚くも美しき12の変奏』(2026.2.11)に収録。

くるり はたらくだれかのように(アルバム『儚くも美しき12の変奏』収録)を聴く

熱量の起伏の設計に理性と磨かれた職能が光ります。ぽぷぽぷとはじけるような音色のシンセ系のサウンド。ストリングスっぽい音色は理想像が溶解するみたいに、走る録音テープにちょっかい出して音程がとろけるみたいな演出がなされ、少年の心が想像した輪郭と現実のせめぎあいで揺らぐ境界を思わせます。回転ドリルの軸に金属のバックルか何かをつけて鉄板を叩いたみたいなビシビシと轟く音。ピーっと純粋な帯域が突出したオルガンに似たサウンド。2コーラス目のサビを経たところでバンジョーのスリーフィンガー風のパッセージが土を薫らせます。

ピーンと張り詰めた共鳴弦がおのれの血潮に干渉する遺伝子みたく……くるりの前アルバム『感覚は道標』(2023)の収録曲で聴いたことのあるような心がわさわさするドローン(保続音)。赤い電車、コトコトことでんなどプログラミングのサウンドに比重のあるくるりのシングル作歴なども思い出しますが、今朝また本曲を聴き直してふとピンと来たのは、レイ・ハラカミさんの諸作品に薫るようなサウンドの理性と態度、そのまろやかな輪郭と愛嬌です。感動させてみたい 君のフレーズの「君」にすっかり自分が重なり感化される私。このウェットな気持ちに間髪入れず語りかける同アルバムの次曲『押し花と夢』は耽美で儚さを優雅に物語るバラード……アルバムを聴こう。アルバムって素晴らしい。

エレキギターのサウンドはくるりのお印(アイデンティティ)のひとつだと思うのですが、サビまでなかなか出てきません。なんならはっきりと大きな比重で出てくるのは2コーラス半がまわってからやってくる間奏のところです。熱量の設計の起伏に秀でると思う具体はこういったギターづかいにもあるでしょう。エレキの鳴きも嘆きも映えます(2秒や4秒で曲をアプリでスキップしている場合じゃないぜ。アルバムを、1曲をまるまる聴こうぜ……)。

サビのバックグラウンドボーカルがリードボーカルの発音のアタックより前に出ることが決してありません。後ろ髪のように風になびいて轟く荘厳な群衆が演出されて思えます。率いるのは少年にして人生の悲喜交々を予見する純朴な心です。

本曲はボーカルの輪郭線がダブルやハーモニーをうっすらまとっている時間が圧倒的に長い。少年期の主観と、時間的距離を経ての客観の重ね合わせの表れかもしれません。線路の先にある彼の未来がこの曲を書き、あとにつづく……いえ、先にそびえるすべての心に捧げた霊歌……ワークソング。本アルバム『儚くも美しき12の変奏』のアイデンティティのコントラストを強め、異質のポジションから協調を逆説的に実現する、まさにはたらくことの未知数の可能性を示唆するカタルシスな1曲。あなたもわたしも「だれか」であり、「おれ」であり「きみ」であるに違いない。

青沼詩郎

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アルバム『儚くも美しき12の変奏』全曲について書いたこのブログサイトバージョンの記事へのリンク くるり 儚くも美しき12の変奏 起源は未来 ~アルバム全曲評

歌詞を掲載したサイトへのリンク 歌ネット>はたらくだれかのように

くるりのアルバム『儚くも美しき12の変奏』(2026.2.11)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『はたらくだれかのように(くるりの曲)幸せづくりと与え合い【ギター弾き語り・寸評つき】』)