悲哀と豪気の感覚

ドキュメント『くるりのえいが』の制作・公開すなわちこの楽曲を収録したアルバム『感覚は道標』。オリジナルドラマーの森信行さんを迎えた三人体制でミュージシャンの伊豆名所……伊豆スタジオにて制作されました。

ロッククラシックへの憧れや愛や親しみを備えた気心の知れた馴染みの顔がキモチよくてリラックスできる環境・条件の箱に詰めれば気ままなセッションが生存証明にもなるでしょう。ローリング・ストーンズやフー、キンクスなどの顔ぶれが私の頭の中にちらつくEメージャーキーのギターの開放的な響きを生かしたリフレインから展開する本曲。

本作の制作打ち合わせのテーブルの上に載っていたかもしれない某有名なお菓子をモチーフに、愛する音楽の文脈に元気いっぱい加勢します。

Eのダイアトニックスケールのⅲ、ⅵ、ⅶをフラットさせたスケール(なんて呼ぶ?)をもちいたボーカルメロディがいぶし銀。BセクションではAメージャーキーが重ね合わせになったみたいなA、G、Dのコードと移勢のリズムで動きを出します。

このBセクションのところで歌詞が“Smoke gets in your eyes”。プラターズが有名にしたスタンダード(元はミュージカル曲、のちにジャズやR&Bにも定着した印象)曲、『煙が目にしみる(Smoke Gets In Your Eyes)』の表題を歌詞に引用します。それぞれにキャリアを重ねて酸いも甘いも嚙み分けるメンバーが一堂に会すれば、苦労も成功もあれもこれもが笑い種になり花開くのを思います。煙が目にしちゃうけど、結局俺ら楽しく笑っているね、みたいな悲哀を感じる“感覚”です。

間奏のソロギターのモチーフが表拍と裏拍をコンスタントに打つリズムと、大胆な上行跳躍となめらかな順次下行からなるメロディの造形を兼ね備えており、シンプルな要素を基調にしながらもコントラストとフォルムの強さが表現されていて、少人数編成のロックバンド:くるりのサウンドを聴いていても次元の向こう側にフルオケの響きが滲み出るかのような「足るを知る」豊かさ。

間奏モチーフのスケッチ例。Bセクションのボーカルメロディとリズムが親しいギターソロフレーズが大室山あたりからグライダーしてくるよう。
Bセクションのボーカルスケッチ例。タ・ター、タ・ター……オリジナルアルバム勘定で本作の次回作にあたる『儚くも美しき12の変奏』収録曲となる『Regulus』のボーカルモチーフにも通ずるリズム形に思えます。くるりの旅路は2本のレールで繋がっているよう。

happy turn くるり 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:岸田繁。くるりのアルバム『感覚は道標』(2023)に収録。

くるり happy turn(アルバム『感覚は道標』収録)を聴く

伊豆の風光明媚なレコーディング環境に歴戦のミュージシャン3人を詰め込んで起こる化学反応を象徴するクシャミ。クシャミからはじまるオリジナルアルバム。まさかです。

ドラム、ベース、エレキギターのフォーリズムないしスリーリズム、このタイム感が抜群です。もう勝った。買った! ツィッツィキツィッツィキ……ハイハットのダイナミクス感とニュアンスの機微がハッピーターンの粉のようにきらきらと輝き私の舌をきゅっと引き締めます。

3人の「せーの」あるいはオーバーダブの楽器や声のベーシック演奏が構成要素の99パーセントなのは確かですが、本曲よりあとのほうの収録曲にて順次やってくるバグパイプみたいなミャウミャウメロメロいう謎の音色(?)が最初のほうのAセクションでよぎります。シンプルで骨太で、お化粧でごまかさなスッピン勝負系の1曲目ですが、改めて聴くと本作の伏線がハッピーターンの粉みたいにちょこっとほどよくちりばめられている意図の粉が私の舌に滲みます。

無駄なし、振り返りなし、快速急行みたいにスっと次の駅(曲)にリスナーをかっさらうオープニングナンバー。包みを開いて魔法の粉をまとったちいさなお煎餅を口に放り込んだら、幸せの光がこちらを振り向き感覚の応酬(セッション)がはじまります。

青沼詩郎

本曲を収録したアルバム全曲について書いたこのブログサイトの記事へのリンク くるり 感覚は道標 全曲レビュー 足跡の海

くるり 公式サイト>discography>感覚は道標へのリンク

くるり 14th Album「感覚は道標」 | SPECIAL SITEへのリンク

参考歌詞掲載サイト 歌ネット>happy turn

『happy turn』を収録したくるりのアルバム『感覚は道標』(2023)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『happy turn(くるりの曲)悲哀と豪気の感覚【ギター弾き語り・寸評つき】』)