堺正章といえば『北風小僧の寒太郎』。
そして彼といえばテレビタレント。「いただきました! 星みっつ!」(TBSの料理バラエティ『チューボーですよ!』)を唱える彼の声が私の記憶にあります。
彼が所属したザ・スパイダースとしての活動を私が認知し始めたのはむしろ最近。同じくザ・スパイダースメンバーのかまやつひろしが書いた『なんとなくなんとなく』は私の大好きな一曲です。
さらば恋人
彼のソロデビュー曲が『さらば恋人』(1971)。音楽のサブスクサービスでこれに近い年代の音楽を次々に再生して聴いていたら、偶然巡り合うことができました。
ドン、ドドン! というティンパニーが奏でる属音の低音保続の上で和音が進行。上声部は主要でシンプルなコードなのに、低音に属音(ヘ長調なので「ド」)がいることで響きに緊張感があります。しゃれていますね。
ソファソファソソー、といった音形が印象的。のちの間奏の部分でも似た音形が出てきます。
各小節の頭を拾い見るに、ソ→ラ→シ♭と順次で上げて、最後のところで一気に飛翔させる音形、そして歌いだし。
堺正章の声質が味わい深いです。歌メロはペンタトニックを用いています。Fメージャー調ですのでシ♭、ミを外して旋律をつむぐのですが、Bメロの歌メロにはミを含めていますね。ペンタトニックを基調にしつつも、要所でペンタトニック外の音を用いるとしゃれた印象になります。前奏、2コーラス目の後の間奏などで弦楽器の主旋律にシ♭を用いています。これもペンタトニック外音ですね。民謡調の哀愁深さと西洋音楽の格調高さのいいとこどりです。これをヒット曲に多い特徴だと私はみています。
Bメロではひとつの和音でひっぱる長さを増やして変化を出しています。AメロはⅡ-Ⅴ-Ⅰ-Ⅵと1小節に1和音。Bメロは2小節に1和音。Bメロ7小節目(写真下段右寄り)ではⅢM。Fメージャー調外の和音を借りてきて緊張感のフックをつくっています。
Bメロは歌メロの音域も高いです。2小節目に山をつくってお尻で落ち着かせてまとめる感じですね。和音も2小節に対し1和音のⅣ→Ⅲm→Ⅱmで緊張を保ちつつ、Ⅴに進行するかと思いきやのⅢMを1小節挿入。からの、ⅤでAメロ相似フレーズに戻ります。
筒美京平
作曲・編曲者は筒美京平。このブログでは南沙織の『17才』を取り上げたことがあります。『17才』も『さらば恋人』も、弦楽器の編曲の妙が目立ちます。これ、編曲家はいるのかな…? と思ったら筒美京平本人。ブラヴォー。彼は作詞家の橋本淳と同門(大学。橋本淳が先輩)で、彼の勧めですぎやまこういち氏に師事したことがあるといいます。そんなつながりがあったとは。最近このブログで橋本淳・すぎやまこういち作品の『亜麻色の髪の乙女』にふれたばかりです。
作詞 北山修
作詞はザ・フォーククル・セダーズメンバーの北山修。加藤和彦(作曲)との『あの素晴しい愛をもう一度』も代表作ではないでしょうか。
眠っている恋人のもとに置手紙を残しそっと去る、ほろ苦い歌詞。じっくり味わってみてください。
青沼詩郎
『さらば恋人』ほかを収録した『堺正章 ゴールデン☆ベスト』
ご笑覧ください 拙演