リスニング・メモ

鋭いエレクトリック・ギターの演奏。ストリングス、ラテン・パーカッション(ボンゴでしょうか)、ビブラフォン、バンジョー、ドラムス、ベースも聴こえます。ムッシュ(かまやつひろし)のボーカルはダブリングしているようです。エレクトリック・ギターも左右にダブっています。エクトリック・ピアノも引っ掛けた装飾音の演奏が垢抜けています。ラスト・コーラスでバンジョーが目立ってくるのが意図的です。なかなか大所帯な編成ですがそれぞれに強調しつつも明瞭で、全体的に鋭く力強い音像づくりに成功しています。素晴らしい音源です。

作曲について

声域

ワンコーラスはド〜上のミ♭と、1オクターブ+短3度の範囲で歌えます。半音の転調を含めると1オクターブ+長3度。かまやつひろしの飄々とした独特のキャラクターの歌声が “心地よし” です。

歌メロ

作家の個性は曲に出ますね。かまやつひろしが歌っていても、背景に吉田拓郎がダブって(クロスして)見える錯覚。

Bマイナーで始まる楽曲です。最後の2コーラスはCマイナーに転調します。ペンタトニック・マイナー・スケールをもちいた旋律ですね。Cマイナー調でいうと、自然短音階の第2音(レ)、第6音(ラ♭)を抜いた5音音階。でも、たまに経過進行の途中に第2音(レ)を含めています。

わかりやすさ(調号の少なさ)重視でCマイナー調で話をすすめます。Aメロは最高音は。サビ(Bメロ)では短3度広げて最高音のミ♭までつかい、緊張感を高めています。

AメロとBメロで、3〜4小節めのパターンは似ています。それ以外の部分に違いが多いです。

Aメロは各フレーズの歌い出しのアタマを休符にして空けています。Bメロの歌い出しはなんといっても“ああ”が特徴ですね。Aメロの終わり側にたたみかけて、♪あぁあ〜の後ろの「あ」でBメロの強拍をとっています。音価(音符の長さ)も歌メロ中最大級です。吉田拓郎らしさを感じる打点の細かい「語り口調」の中で、この♪あぁあ〜の伸ばす音は際立ちます。

Bメロの後半ではひとつの和音でひっぱる長さを長くしています。和音はチョロチョロ動かさずに、歌の打点は小節内いっぱいに打っていくことで緊張感を持続させています。そのまま山・谷・山型の旋律で上の主音に下からアッパーカットを決めるような見事なペンタトニック・マイナー・スケールの節回し。

細部が粗野で不正確なスケッチです。おおまかな音の分布を見るために貼っておきます。

最後のコーラスの結びの歌詞 “夢を抱えて旅でもしないか あの頃へ”(『我が良き友よ』より、作詞・作曲:吉田拓郎) の言葉の倒置が最高に決まっています。ああ、気持ちいい。ちなみにこの “あの頃へ” のメロディは、それまでよりさらに打ち上げ高度と速度のあるアッパーカット音形で、しかもその打ち終わりにこれでもかと打ち下ろしがつきます。私は完膚なきまでにトドメを刺されました。きゅう。

作詞について

男の友情が主題でしょうか。友愛、尊敬、くされ縁。あるいは付き合いがない期間の疎遠さなども描かれているようです。4コーラス目、音源でいうとおよそ2分が経過した頃の“暑中見舞いが返ってきたのは 秋だった”(『我が良き友よ』より、作詞・作曲:吉田拓郎)というフレーズのオリジナリティは作詞の革命です。職業作詞家・作曲家たちがシンガーソングライターの登場をいろんな意味で嘆いた時代だったのかもしれません。これは連絡にマメでない無粋な男どうしのフレンドシップを巧妙かつリアルに描いていると思いました。ほかの解釈もあるかもしれません。

曲の概要メモ

作詞・作曲:吉田拓郎。かまやつひろしに提供された曲で、かまやつひろしのシングル、アルバム『あゝ、我が良き友よ』(ともに1975年)に収録されています。エレクトリック・ギターはサディスティック・ミカ・バンドの高中正義の演奏とのこと。

吉田拓郎自身のセルフ・カバーもあり、『みんな大好き』(1997年)に収録されています。ず太いサウンドのシャッフルビート。ロックな感じでこちらもかっこ良いです。

後記

私はムッシュ(かまやつひろし)の書いた『なんとなくなんとなく』の大ファンです。吉田拓郎はキンキ(KinKi Kids)が歌った『全部だきしめて』をこのブログで取り上げたことがあります。『我が良き友よ』のエレキギターはサディスティック・ミカ・バンドの高中正義とのことで、『タイムマシンにお願い』あたりを近々改めて味わい直したいです。加藤和彦含むザ・フォーク・クルセダーズ『悲しくてやりきれない』や北山修・加藤和彦の『あの素晴しい愛をもう一度』はこのブログで取り上げたことがあり、いろいろとつながってきました。

青沼詩郎

『我が良き友よ』を収録したかまやつひろしのアルバム『あゝ、我が良き友よ』(1975)。

吉田拓郎のセルフカバー『我が良き友よ』を収録した吉田拓郎とLOVE2 ALL STARSのアルバム『みんな大好き』(1997)。

ご笑覧ください 拙演