蝉の声降りそそぐ夏休み感。
ナワトビを引きずっている? と思ったらアイスのはずれ棒。これをアンプ風ダンボールにinput。銘柄はHender(ヘンダー)か。Fenderのパロディですね。
ほうきをギターがわりに。頭も足も上下させてビートをとっています。ロッカーですね。
ドラムスの鳴り物はオナベ。スタンドは傘。太鼓はやっぱり段ボールです。
ベーシスト風の彼はなんとレフティです。ポール・マッカートニーみたいですね。
斉藤和義ご本人も登場。よく似ています。浦沢直樹の本業、漫画風のコマ割りも。少年らと斉藤和義の世界の関係がなんともいえません。食い入るように斉藤和義へまなざしを送っているようにも見えます。少年らと斉藤和義が同時並行、もしくはカットで入れ替わりつつ提示されます。
好きな女子がほかの男子と歩いているところを目撃したのでしょうか、小学生くらいにみえましたがこのシーンでは中学生くらいに見えます。主人公の服装にもシャツの襟が見えます。顔色が青ざめるように着色する演出。木の葉が残念感を演出します……と思ったら机に伏して眠る短パンをはいた小学生。少し未来を夢みているのでしょうか。
少年の鼻ちょうちんの中に現れる、ロック好きでなくても知っているレベル?のジャケット写真、ザ・ビートルズ『アビイ・ロード』のオマージュカット。髪型がやたらファンキーな人、ジミヘンみたいですね。レフティです。先頭はジョン・レノンでしょうか。真ん中ふたりのドラムス&ベースにもモデルがいるに違いありません(私の知識が及ばず特定できず、残念)。
アビイ・ロードの世界一有名な横断歩道のしましまは、ピアノの鍵盤に変化します。モチーフの特徴を活かした超現実的で夢のような表現です(実際、少年の鼻ちょうちんの中……夢パートか)。
浦沢直樹の作のアニメ化は前例がありますが、『Boy』MVは浦沢直樹本人の作画がダイレクトに伝わって来て、彼の頭の中の発想を直に見るようです。貴重な一作といえるかもしれません。
歌が“ドレミファソラシド”のところで少年が鍵盤を翔けていきます。曲はGメージャー調ですので、実際に歌われている固定音はソラシドレミファ♯ソ。「移動ド」で解釈すると音名と音程が合致します。作画中の少年は歌詞のとおり「ドレミファソラシド」の鍵盤を踏んでおり、描写が緻密です。
でんぐり返って転がり込んだ先は原っぱ。少年らに影を落とす巨大な何かに向かって振り返り、これでも食らえとションベンかまして虹が出る。抗う術を元来誰もが持っていることを思わせます。しかし因果応報? 向かい風で少年らは返りションベンを浴びてしまいます。
青くクレヨンで彩られた夜空。横切る流れ星は黄色です。限られたカットのみの着彩が目を引きます。立ちションのシーンで現れた虹もカラーでしたね。
街路を画面の奥へと歩く、哀愁ある斉藤和義の背中。彼のジャケットのポケットにはアイスのはずれ棒。歌詞“泣きそうだよ”のところで、手のひらの上の棒への視線を思わせるカメラワーク。斉藤和義を斜めうしろから映し、表情がこの瞬間は見えません。いつもひょうひょうとしているイメージの斉藤和義も、見えないところで泣きそうな気持ちになるのでしょうか。
顔を上げると、正面に少年ら。最初はそれぞれ別の場所にいるような見せ方でしたが、ここで両者は顔を突き合わせます。楽器未満の楽器を繰る少年らのビートの隙間に、斉藤和義がシャウト。少年らは、斉藤和義の心の中に住む人格のあらわれなのかもしれません。
硬質でなめらかなモノを弦に触れさせながら、撫でるように滑らせて音程を変えるギターの演奏法、ボトルネック奏法。空きビンを利用したことに由来しボトルネック奏法といいますが、実際はもっと取り扱いやすい専用の演奏用具があります。空きビンをわざわざ使うのは、パフォーマンスのためか、身近にちょうどそれがあったためか……ここで少年のソロがはじまります。
ソロ折り返しでギターはツインに。ってかベーシストヅラ(私の偏見)してたレフティ少年、ギタリストだったんかーい! と心の中でツッコミ。どうやら都合よくスイッチできるみたいです。心の中の自由は、少年らしさの一端。2本をぶつけて2人はビンを傾けます。中身はコーラでしょうか?
ハンカチを首筋にあて、横断歩道を歩く男の足取りは気のせいか力なさげ。先程登場した横断歩道はロックレジェンドたちが歩き、幻想のようにピアノの鍵盤に変化しました。しかし今度の横断歩道は、まるでどこまでも続く無機質な現実を表しているかのようです……(私はここで泣きました)。振り向くと彼らは少年だったはずの中年。あるメンバーの頭髪の量は減り、あるメンバーのおなかは順調に成長を続けたようです。
ここで、少年のときにも影を落とした巨大な存在が迫ります。この存在は一体なんでしょう。大人になるにつれ、少年から何かを失わせる脅威。頭を固くさせる何か。澄み渡る青空を、太陽の輝きを遮る何か。それに追われるように翻り、こちらの方へ駆け寄りながら手を伸ばす真ん中の元少年。その髪が濡れていくところで歌詞は“サディスティックな雨 弾き飛ばせ Boy”。少年の純真に無常に吹き付ける雨。いつの間にか大人の姿になってしまっていた、白いシャツに覆われたその腕を伸ばし、場面ごと雨を弾き飛ばすと、またあの日の少年の姿が。
楽器未満の楽器でジャムる3人。斉藤和義もマイクの前で歌います。ここで“やめんなよ!”。少年らから未来へ、斉藤和義を通して発せられたメッセージでしょうか。
闇と光の入り混じった夜明けに建物の影が浮かびます。明けていく空の彩色は絵の具のような質感でグラデーションを表現しています。
斉藤和義と少年が呼応するかのように、足の裏を前に突き出すポーズをするカットのつながりがシンメトリーを感じさせます。
腕をぐるぐるまわし拳を天に突き上げる。バタリと仰向けになりお腹の上で上下するギター(ほうき)。
走り終えた駅伝ランナーをケアするようにベース?の少年が毛布をかけます。よくやったと黙して讃えるかのように退場をエスコート。それに導かれるがまま……と思いきや、まだやめません(James Brownのパロディ?)。毛布の覆いから抜け出し、駆け戻って再び大車輪を描くストローク。
バンドで息を合わせて、今度こそフィニッシュ! と思ったらベースの彼が手ぶらです。何かと注目を持っていく人ですね。笑い合って本当にフィニッシュです。
心の底まで、ずっと自由でいたい。
青沼詩郎
『Boy』を収録した斉藤和義のアルバム『55 STONES』(2021年3月24日発売)
斉藤和義の配信シングル『Boy』(2021年3月10日発売)
ご笑覧ください 拙演