インディーズ時代の2作とメジャー初期作『ダイヤモンド』
BUMP OF CHICKENは私の中学生時代のヒーロー。心の中の一部は今もそのままでいる。
彼らのインディーズ時代のアルバム『FLAME VEIN』(1999)『THE LIVING DEAD』(2000)を繰り返し聴いた。なんとなく、もっと前にリリースされたものを中学生時代の私が聴いていたと思い込んでいたけれど、意外と当時の新しい作品をその時期に聴いていたことにいま気付く。
それからメジャーでのファーストアルバム『jupiter』も前2作と同じくらい繰り返し聴いた。『jupiter』に収録されていて、彼らのメジャーでのファーストシングルでもある『ダイヤモンド』も大好きな曲。
省押韻で際立つリアル
改めて聴いてみて自覚したことがある。
歌詞に、押韻が少ない。
もちろん、ないわけではない。というか、軸がそこではない(サビ頭のように、同じ語を繰り返して印象づける「反復」はある)。ストーリー主導であり、「押韻に頼らない」というのが的確だろうか。
歌詞を書くときに、押韻は手がかりになる。わかりやすい指針だから、「押韻依存」な作詞をしてしまう危険もある。それくらい痛快で楽しいものでもあるが、そちらに耽ってしまうと、主人公の存在感や心情・情景描写を放り出してしまっていて、物語の薄い詞が嬉々として出来上がる……こともあるかもしれない。
『ダイヤモンド』を聴いて、BUMP OF CHICKENについて改めて思った。彼らの紡ぐ文章(つまり歌詞)には、結びに向かって進む力がある。中心の核にむかう重力でひとつのまとまりを成す惑星みたいだ。
表現をまとめる重力の源は、ときに弱い心や脆い意志、不安や寂寥かもしれない。道の途中で揺れ惑うこともある。そうしたゆらぎの機微に敏感であるほどに、歌詞の中に「押韻」がいたずらに遊ぶ余地はない。ありのままの語りが自然と真実の描写になっているような凄味がある。
歌詞にみられる、登場人物の心情や関係の変化。気付き、自分を見つめる目線。そのまなざしがそのまま歌になっている。私は歌の主人公に現実の藤原基央(BUMP OF CHICKENのVocal & Guitar。『ダイヤモンド』作詞・作曲者)を重ねてみる。フィクションであると同時に、己の身を分けた真実である気がしてならない。
サンドイッチの構造
『ダイヤモンド』はメロ(ヒラウタ)で始まり、メロで帰結する構成になっている。この骨格は、「語り部」が物語を導くのに相性が良さそうだ。シングル『ダイヤモンド』のカップリング曲『ラフ・メイカー』もこの構造になっているし、インディーズ時代2作目の『THE LIVING DEAD』はアルバム単位でこのつくりになっている。『Opening』『Ending』という、同じ個性を持ったふたつのトラックにほかの収録曲が挟まれた曲順になっている。これに登場する「語り部」は『ラフ・メイカー』で描かれたのと同一人物を思わせる。
『Opening』『Ending』はまとめられて、『プレゼント』というひとつの曲になってカップリング集『present from you』(2008)のラストに収録されている。このカップリング集のオープニング・トラックは『ラフ・メイカー』だ。ここにもサンドイッチの構造がある。
近年(その後)のBUMP OF CHICKEN
私の中学生の頃のフェイバリットだったBUMP OF CHICKEN、その公式ページを覗きに行ってみる。
『Gravity』が9月18日(2020年)公開のアニメ映画『思い、思われ、ふり、ふられ』の主題歌に。
藤原基央は同年8月23日、BUMP OF CHICKEN公式サイトで結婚を発表した様子。
歌の主人公をこの世に生み出す現実の主人公もまた、ストーリーを編み、更新を続けている。どうぞいつまでも、お幸せにありますように。
青沼詩郎
BUMP OF CHICKEN
https://www.bumpofchicken.com/
『ダイヤモンド』を収録したBUMP OF CHICKENのアルバム『jupiter』(2002)
BUMP OF CHICKENのカップリング集『present from you』(2008)
ご笑覧ください 拙演