妄想MV?

生活感ある平凡な感じのする路上を輪行。軽快車(ママチャリ)ですね。坂の多いまち、神奈川県っぽいですがロケ地はどこでしょうか。トイレ掃除、洗濯、お皿拭きと家事めいたことをしていますが……なんかちょっと似合わないというか作為的でおかしみがあります。……と思ったら多くの水着の女性に囲まれました。妄想シーンでしょうか。また現実に戻ってプランターに水やり。家の中で……ひとり将棋でしょうか。詰め将棋? 棋士なの? 山崎まさよしは将棋好き? 早口のシーンではそれまでと違ったモノクロ風カット。ラストのサビではまた女性たちとはしゃぎます。自転車で蛇行するシーンも帰ってきます。自転車のシーンで画面に向かって左手にそびえる丘陵の斜面に並ぶ住宅、山崎まさよしが自転車で走る道との間を隔てる地形のへこみ・高低差がどうも神奈川県っぽく私の目にうつるんだよなぁ……完全に私的な経験にもとづく感慨ですが。どこにでもある景色といえばそれもそうかもしれません。生活の平凡さ・地味さと色めいた妄想が際立つ、ちょっとへんてこでシュールなMV。おもしろいですね。

曲について

山崎まさよしのシングル(1996)、アルバム『HOME』(1997)に収録。作詞・作曲:山崎将義。

山崎まさよし『セロリ』を聴く

テンホールズの枯れたハーモニカのサウンド。ストリングス、カンカンデンデンいう感じの太鼓類。ティンパニのトーンでしょうか。楽園のようなアコギの極上なストロークとアルペジオ。1小節中の4拍それぞれに打点があるベースのグルーヴ。2・4拍目の打点の前に16分音符を引っ掛けたパターンです。ドラムスはヒラウタでリムショット、サビでオープン・ショットです。強拍(1拍目)に打点、以降移勢してはまた強拍に打点を置くというサンバというのかラテン系というのかそんなリズムです。最後のサビでは2・4拍目にスネア。ベースとキックのストロークを合わせていてより一体感と安定を生んでいます。

間奏のギターソロのサウンドが渋いです。やたらめったら歪ませてサスティンの効いた伸びのあるサウンドで……というのじゃないところがいいですね。彼の音楽の志向が出ています。ブルースのスタイルは彼と切っても切り離せないものがあるようです。ちょっとくぐもった感じで残響も深めです。箱モノのエレキギターでしょうか。

最後のサビの前では怒涛のしゃべり。早口すぎてなんと云っているのか聴き取れません。毎晩毎晩……とリフレインするのはわかります。細部までわからない程の速さ。あとは加工処理が効いていて音像をワザと引っ込めてあるせいもありますね。ラジオボイスというのか、電話ごしのボイスというのか……「君」との一時的な距離・隔たりの表現だったりして。いずれにせよ、低域を削った感じのスモール・スピーカーっぽいサウンドです。

ライブ版があります。そちらのほうがはっきり聴き取れるかもしれません。弾き語りで彼の身ひとつのパフォーマンスが解像度高く伝わってきます。ライブアルバム『ONE KNIGHT STANDS』収録です。

こちらならはっきり聴き取れました、私でも。スッパリしゃべり上げてお客さんも盛り上がる歓声がきこえます。お見事。

歌詞、解釈、感想など

“育ってきた環境が違うから好き嫌いはイナメナイ 夏がダメだったり セロリが好きだったりするのね ましてや男と女だからすれちがいはしょうがない 妥協してみたり多くを求めたり なっちゃうね”(『セロリ』より、作詞:山崎まさよし)

寒い地域の出身だと、「寒いのに強く、暑いのに弱い」といったことがあるのでしょうか。暑い地域出身なのに暑いのが苦手だと「〇〇(暑い地域の名前)出身なのに暑いのダメなのね」なんて揶揄のたねにされることもありそうです。出身地関係なく、暑さ寒さの感じ方はそれぞれでしょうに。出身地と暑さ・寒さ耐性の関わりに傾向は確かにあるかもしれませんが、絶対ではないでしょうからね。

ここではそうした細かいことはともかく、2人のあいだには夏(おそらく暑さに起因するもろもろのことがらを表現した記号が「夏」だという前提のもと話をすすめました)への耐性の差異だったり、セロリへの受容態度の差異だったりがあることがわかります。

そういった細かいことは枝葉の部分。ふたりの相違点の本質のひとつとして、ここでは「ましてや」を枕詞(前置き)に性別に目をつけました。

「出身地」と「暑さ・寒さ耐性」のあいだになんらかの傾向が見出せる可能性があるように、「性別」と「さまざまなものごとへの受容や耐性」のあいだにも、なんらかの傾向が見出せる可能性があります。

性別は単に個性の違いです。その違いがはっきりしていることを前提にしていた時代が長かった。近年、一気にからだと心の性の分類を細かくする動きがみられましたね。この動き以前のポップソングや歌謡曲を鑑賞した際、「性別」に関係のある表現に出会うたび覚えるちょっとした違和感。「今って性別に関わる表現はだいぶ繊細に扱われるようになったよなぁ」と実感します。私だけでしょうか?

性に関する話題の扱い方を繊細にする動きをまるっと見知っていつつもそれはそれとして、きっぱりと性別の違いを嫌味もなくただそれとして言い切ったポップやロック作品に出会うと、それはそれで「よくやってくれた」と賛辞したくなることもあります。

『セロリ』で印象的なのは、やはり「セロリ」や「夏(暑さ耐性?)」といった日常的な些事から自然現象という巨大な普遍まで幅をもたせて、さらりときもちよく描いている点です。その優先度がまずあって、「ましてや」に続けて性別のことを挙げて「すれちがいはしょうがない」としています。粘質性が低く、おしゃれで洗練された印象です。4和音コードの多用も影響が大きいでしょう。

“妥協してみたり多くを求めたり なっちゃうね”と口語を交えて客観と主観の絶妙なポジショニングで括っています。

“何がきっかけで どんなタイミングで 二人は出逢ったんだろう やるせない時とか心許ない夜 出来るだけいっしょにいたいのさ”(『セロリ』より、作詞:山崎まさよし)

当事者として語っているのか、神の目線(第三者目線)で描いているのかふわつく表現が“何がきっかけで どんなタイミングで 二人は出逢ったんだろう”です。あれ、主人公目線ぽかったけどやっぱり「神から目線」なんですか? と手を挙げて質問したくなるラインですね。当事者なら出逢いの場面やきっかけ、知ってるんじゃないの? 忘れちゃったんでしょうか。”やるせない時とか心許ない夜 出来るだけいっしょにいたいのさ”でまた主観に戻ります。いえ、「彼・彼女はそう思っているのさ」という「神から目線」とも限りませんけれど。

“がんばってみるよ やれるだけ がんばってみてよ 少しだけ なんだかんだ言っても つまりは単純に君のこと好きなのさ”(『セロリ』より、作詞:山崎まさよし)

自分も歩み寄るようがんばるから、君もがんばってみてよ。すれ違いや妥協でちょっぴりなんだかんだ言うこともあるけれど、それは君を好きで、一緒にいたいからだからだよ……と解釈してみる。多少は「なんだかんだ言わざるをえない」現実を認めた上で、好意を表現しているところが大人びていて素敵です。自分をゴリ押ししたり相手に尽くし切ったりするエゴの恋愛から、一皮も二皮もむけた境地ではないでしょうか。

”性格曲げてまで気持ちおさえてまで 付き合うことないけど 一人じゃ持ちきれない素敵な時間に 出来るだけいっしょにいたいのさ”(『セロリ』より、作詞:山崎まさよし)

1人で抱え切れる時間の存在を主人公は認めているようです。そこは曲げることはないし、おさえることもない。でも、それだけでは過ごせない素敵な時間があることも同時に認めているようです。一緒にいることが、そのために必要なのさ……と読み解いてみます。この流れで、ワンコーラス目同様のサビへ。

このあとに続くのが、さきほどサウンドリスニング面に注目した項のもとでも注目した猛烈なしゃべり

毎回毎回そんなにいっつも会えないから一人で考えてたってにっちもさっちもいかない現状で じゃ いいかなんてそんなに簡単に片付かないからこっちもそっちもどっちも毎晩毎晩毎晩毎晩 逢いたい(山崎まさよし『セロリ』より、作詞・作曲:山崎将義)

人間の思念には

・主観的でとりとめがない

・矛盾を孕んでいて非論理的

・同じことでも何度でも繰り返す

といった特徴があると思います。それもものすごいスピードでめぐります。筆記もタイピングも遥かに凌ぐスピードです。音楽やしゃべり(トークやスピーチ)ですら及ばない瞬間速度を持ちうるのが思念や思考ですが、かなりの早口パフォーマンスで山崎まさよしはそれに近き、迫っています。

ネット検索すると、山崎まさよし『セロリ』のこの部分を「ラップ」と形容する向きも見られますが、一般的なラップとは出自が違う印象です。あくまで山崎まさよしが自分の表現を高めた結果が、ラップが有する形式や特徴に少し似た印象。いえ、それも、音楽ジャンルとして醸成する以前の本来のラップなのかもしれません。

ごみごみしていて、とっ散らかっていて、とりとめがない。この遊びとアイディア心で吹き込んだような演出が、意外と曲の本質の叫びを表現しています。

”つまりは単純に君のこと 好きなのさ” を「つまり」で括る前、原初の表出が”毎晩毎晩毎晩毎晩逢いたい”なのではないでしょうか。

青沼詩郎

山崎まさよし 公式サイトへのリンク

『セロリ』を収録した山崎まさよしのアルバム『HOME』(1997)

ライブ版の『セロリ』を収録した山崎まさよしのライブアルバム『ONE KNIGHT STANDS』(2000)

曲をより有名にしたSMAPによるカバー『セロリ』を収録したSMAPのアルバム『SMAP 011 ス』(1997)

ご笑覧ください 拙演