図:『チビのジュリー』イントロモチーフの採譜例。じっとりとした陰鬱なモチーフです。末尾の減3度の旋律音程の眉間にしわが寄らんばかりの不穏さよ。

サブスクできけないスパイダース

スパイダースの音源はサブスクできけません(2024年4月時点)。私はかれらの楽曲や演奏のファンですし便利にききたいですが、サブスク解禁しない・できない理由や事情があるのでしょう。

『なればいい』という強烈な楽曲がスパイダースにはあります。それを収録したアルバムが聴きたくて最近取り寄せました。未収録音源を含んだCDの『スパイダース’67〜アルバムNo.3』です。CDは「+6」とされていて、ボーナストラックが入っています。

堺正章さんが絶叫しまくったボーカルの洋楽カバーなども多数収録しているのですが、そうしたなか、いっそう私に沁みた収録曲が井上順さんがリードボーカルの『チビのジュリー』でした。

チビのジュリー ザ・スパイダース 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:浜口庫之助。ザ・スパイダースのシングル『夕陽が泣いている』(1966)、アルバム『スパイダース’67/ザ・スパイダース・アルバムNo.3』(1967)に収録。

ザ・スパイダース チビのジュリーを聴く

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短いですが展開がはっきりしています。途中で半音転調して上がり、ビートも加速しパターンも変わります。

井上順さんのしめっぽくじれっとした短調のフィールをつかんだボーカルが陰鬱で素敵です。

楽曲はハマクラさんこと浜口庫之助さん。『涙くんさよなら』など有名曲をたくさん書いている大家ですね。スパイダースメンバーの曲じゃなく提供を受けた曲に惹かれてしまった私の趣味を思います。

オルガンのじれっとした減音程を含むモチーフが陰鬱。オルガンは演奏しながらドローバーを引っ張ってトーンを変えているのでしょうか、イントロなどを印象づけるトーンと、曲中で和声をささえるトーンがかなり違ってきこえます。妙ですね。

井上さんの声域はかなりおちついていて万人に歌いやすい声域ではないでしょうか。あるいは彼のレパートリーをそのままのキーで歌うのは低すぎるという人もいるかもしれません。

そんな空いた上のほうの音域でオクターブのボーカルを描きこむのはかまやつひろしさんの声でしょうか。器用なボーカルですね。ジュリーに寄り添う小鳥なのかなんなのか。こころのなかの天使みたいなのが「ジュリー」のまわりにピヨピヨ飛んでいそうです。

歌詞 想い、舞い。

“チビのジュリー チビのジュリーは 淋しい娘 チビのジュリーは恋をしても何にも云えない だまって夕日を見ているだけさ だまって涙を浮かべてるだけ ジュリージュリー チビのジュリー 淋しい娘 ジュリージュリー チビのジュリーは 心でうたう”(ザ・スパイダース『チビのジュリー』より、作詞:浜口庫之助)

ジュリーとはどんな存在なのかと想像を巡らせました。検索していると、ヒントに出会えます。

浜口庫之助さんの書いた楽曲『涙くんさよなら』。こちらの楽曲を発想元とし、映画がつくられました。ジュリーはその映画の登場人物。

挿入歌に『唖のジュリー』というスパイダースによる楽曲があるとのこと(参考Wikipedia)。なるほど、映画のなかで、ジュリーはしゃべれない役どころのようです。しかしそれは「振り」であり、あらすじによればしゃべれないのは本人によるみせかけであるようです。映画を実際に観てみたいですね。『唖のジュリー』はほぼ『チビのジュリー』と同一曲なのでしょうか。

『チビのジュリー』の歌詞をみると、自分の意思をやたらとまき散らすことのない、気が小さいおとなしい人物を想像させます。

人によるかもしれませんが、「思ったこと」をあなたはなんでも口にしますか? 私はかなりコントロールし、ふるいにかけてより抜く、あるいは思ったことは胸のうちにとどめることがよくあります。思った言葉を胸にとどめる意図:心があるのです。“心でうたう”のフレーズは、ジュリーの感性・感情が豊かであるのを示すようです。

“チビのジュリー 泣くなジュリー 僕達だって 生命がけで恋をしたら 何にも云えない だまって心を痛めるだけさ だまって涙を浮かべてるだけ”(ザ・スパイダース『チビのジュリー』より、作詞:浜口庫之助)

「唖」であるかどうかにかかわらず、なにも言えずに立ち尽くしてしまうのは普遍であると、ジュリーを抱擁するような2コーラス目の歌詞です。

何も云えなくなるような生命(いのち)がけの恋とはどんなものでしょう。

想いを積極的に伝えるために、その人を強く突き動かす恋もあるでしょう。他方、想いが真剣であるあまり、身動きがかえってとれなくなる恋もあるでしょう。あるいは、想いを伝えることよりも優先すべきのっぴきならない事情がある恋も数多あるはずです。

その想いを伝えるか、胸の内にとどめて風化させるか。恋にその二通りがあるとすれば、多数派はむしろ後者ではないでしょうか。想いを伝えるのは、自分の人生を大きく分ける行動です。その重さに負けずに、胸の内からことばや行動として自分の外側にあがってくる想いはとても「強い」ものなのです。

もちろん、胸の内にとどめる決断も尊いものです。そのままいつまでも小さくならずに、胸にありつづける恒久な想いもあるでしょう。

“ジュリージュリー 泣くなジュリーよ みんなで踊ろう”(ザ・スパイダース『チビのジュリー』より、作詞:浜口庫之助)

みんなで踊ろう」というシメの句はあまりにも粗雑ではないかと初見時には思いましたが、これもまた案外的を射ているのかもしれません。想いは、「秘める」のも心だからです。やり場のない体を突き動かすほどの熱量を発散するために、踊ることになるのです。心で踊るのかもしれませんし。実際に体を繰って行動することもあるでしょう。きっと私もあなたも、想いの舞い(踊り)を人生を賭してずっと続けているのです。

シンプルな意匠の浜口庫之助さんの作詞作曲は、豊かな想像を私にくれます。

青沼詩郎

参考歌詞サイト 歌ネット>チビのジュリー

『チビのジュリー』を収録したアルバム『スパイダース’67/ザ・スパイダース・アルバムNo.3』(1967)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『チビのジュリー(ザ・スパイダースの曲)ピアノ弾き語り』)