洋上にゆらめく帆船

ティン・ティンと日本語で読むようか、バンド名の響きからしてツカミがあります。彼らのバンド名通りのファースト・アルバム『Tin Tin』(1970)に収録。バンド名は『タンタンの冒険』(漫画作品)に由来するそう。オーストラリア出身でイギリスに渡ったバンドです。本作のプロデューサーはBee Geesのメンバー、モーリス・ギブ(Maurice Gibb。ビー・ジーズでベースを弾いていた人でしょうか)とのこと。本曲のソングライターはSteve Groves、バンドのボーカルです。

独特のゆらめた独特のサウンドはピアノの音だそう。あまりも個性的でピアノの音にも聞こえ難いのですが……。エンジニアが録音テープによりかかってしまったことにより発見されたサウンドだそうです。

Ⅰ、Ⅲm、Ⅱm、Ⅴの2小節コードを2回繰り返し、ボーカルモチーフをトレースしたインストゥルメンタルのレスポンス2小節がついて合計たった6小節でAセクションができています。楽曲の基本的なパーツはたったこれだけ。これをひたすら繰り返すだけの簡素きわまる楽曲構造ですが、途中で2度上の調のⅤsus→Ⅴに接続して、そのままそのドミナントモーションに任せて2度上に転調する。それをさらにもう一度再現するので、Gキーから始まってAキーへ上がってさらにBキーまで上がり、途中でフェイド・アウトしていく構造になっています。1回目の転調でストリングス、2回目の転調でホーンを従え、徐々に洋上のヨットが増えていくみたいに音景が豊かになっていきます。同じ場所をうろうろしているようでありながら、地元に根を張って徐々に発展していくみたいな高揚があります。

お茶におあつらえむきのトーストとマーマレード。洋上に帆船。君の目に陽光が輝く。私は君の演じるゲーム、ガワ(かぶりもの、変装、上っ面)を見抜いている。君は日がな美しい……みたいな歌詞なのか、観念的で正直ふかい意味や比喩、真意がよくわかりませんがことばの質感そのものはシンプルです。ただそこに輝きがある、美しいもの、シズるものがあるというだけを表現するのみの6小節をただ繰り返す。ここまでミクロな単位の反復でできた歌もの音楽も稀有です。余計なものは排除する、まぎれこませないことで純度を保つのも表現の技法でしょう。くせのありすぎるコヨコヨ揺れたサウンドだけで必要十分以上の情報が飽和している……波と洋上の帆船の揺らめきを表現した音色なのかもしれませんね。

Toast and Marmalade for Tea Tin Tin 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Steve Groves。Tin Tinのシングル、アルバム『Tin Tin』(1970)に収録。

Tin Tin Toast and Marmalade for Tea(アルバム『Tin Tin』収録)を聴く

最初のサウンドの地図はすっきりしています。コヨコヨピアノ、アコギのストラミング。これにぐまーーんというとんでもないタイム感でベースが入ってきます(最初に入ってくるときのベースのズレっぷりがすごい。もはやアウトでは……)。

ボーカルが基本群像なんです。洋上の帆船群よろしく。途中からただのユニゾンじゃなくてハーモニーのボーカルも入ってきます。プロデューサーのモーリス・ギブもボーカルに参加しているんだとか。

ドラムが最初はいなくて、あとからオープンなサウンドで加わってきます。パターン自体はシンプルです。

宅録かと思うような手作り弁当感あるサウンドですがストリングスが入ってくると一気に雅。風光明媚さが増します。さらにホーンも入ってくる。フェイドアウトに向かう頃、あのたわんだピアノトラックも歌にかむさって入ってきて全員集合ととのった感。

モノラル作品なようか、音の定位づけを感じません。たった6小節の繰り返しの骨子でも、サウンドの変化あるいは一方向への増量構造によって楽曲が成立する見本です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>Toast and Marmalade for TeaTin Tin (band)Tin Tin (album)

参考歌詞サイト Genius>Toast and Marmalade for Tea

『Toast and Marmalade for Tea』を収録したTin Tinのアルバム『Tin Tin』(1970)