Walk off the Earth という人たちの曲『HERE WE GO!』の動画を視聴していて気になったのが”Iko Iko”(アイコ アイコ)という歌詞。
気になりつつ、検索したり動画を渡り歩いたりしている最中、関連づけがあってか出会ったのがDr. Johnの『Iko Iko』の動画だった。
動画でDr. JohnがIko Ikoの意味を説明している。「I Go」の意味らしい。司会者が「活用形ね」と相づち。「邪魔だ!ひくぞ のイミもある」「おどし?」「その活用形だね」と続く。会場の聴衆が笑う。……というやりとりがある。動画を見ていた私も気づくと最上級のニヤニヤ顔。
バンドが音楽をはじめる。Dr. Johnのピアノが山の頂から滑り落ちる石のようにポロポロと転がり込んでくる。
第一声。ダミった声色。歌詞中の発音「ジャカモゥ……」を意識して「ジャミ声」とでもいおうか。早くも私はDr. Johnの虜へ片足つっこむ。遅かった。片足はすぐに両足ずぶずぶになった。すっかり心を許した。
歌詞の英語がどこか聞き慣れない。心地よい違和感。「なまり」みたいなものなのだろうか? 音韻、魅力的な響き。年季とともに醸成された、村に薫る土の匂い。そんな感じ。
司会者はサクソフォニストだったのか。間奏のエレクトリック・ギター。なんだこのプレイスタイル?! スライドギターならば、楽器を寝かせてプレイするスタイルを私も見たことがある。普通にフレット上を押弦してのプレイで楽器を寝かせている人を私は初めて見た。もともとスライドギターのプレイに長けた人なのだろうか? その彼が、スライド奏法じゃないときでもそのままのスタイルでプレイしてこうなった……といういきさつを考えた。
この「Sunday Night Band」について私は無知。テレビ番組のセッションに見える。その日のために組まれた、特別なバンドなのか。それにしてもあまりにファンキー。技量もすごい。グルーヴがはじける。動画の説明欄に「マーカス、オマー、ハイラムのベストメンバーで放送されたナイトミュージックより。」とある。
この『Iko Iko』で猛烈に思い出す、私に染みついた大好きな音楽。ウルフルズの『大阪ストラット』だ。
歌詞の“あれもこれもあんで”が『Iko Iko』の歌詞“Iko iko unday”のところに重なって、痛快極まる。ウルフルズのことだから当然『Iko Iko』を知っていてのオマージュだろう。
ちなみに『Iko Iko』はJames “Sugar Boy” Crawfordの『Jock-A-Mo』を原曲とする、アメリカの代表的なフォークソング。The Dixie Cupsが曲を有名にしたとのこと。
そもそもウルフルズの『大阪ストラット』の原曲は大滝詠一『福生ストラット』。『NIAGARA MOON』(1975)に収録されている。
掘れば掘る程、つながって楽しい。素晴らしいミュージシャンたちが手を繋いで私の前にあらわれる。勝手ながら、私もその端っこに加わる。気持ちだけはいっちょまえでいる。もう中年なのに、枝端の木の葉みたいな存在だけど。
ちなみにDr. Johnは2019年6月6日に亡くなったと知る。先の『Iko Iko』動画の演奏前のトークのユーモアが愛おしい。
『Iko Iko』を聴く(『Dr. John’s Gumbo』収録)
真ん中やや遠くにDr.Johnが奏でるであろうピアノ。低音をすっきりとさせたリズミカルな演奏。ウラ拍のすっころぶような装飾音のひっかけ方が印象的です。ギターの奏法でいったらスウィープか。
左右に定位を広くつかっています。エレクトリック・ギターが左右それぞれにいます。ほぼ完全に振り切っている感じです。
ほぼ同じ位置、左もしくは右に振り切ったところにバックグラウンドボーカル。左に女声、右に男声。それぞれ2〜3人いるでしょうか。振り切っていないところにもガヤっぽくいる気もします。バックグラウンドボーカルだけで延べ10人くらいのはいるのかもしれません。
右にサックス、左にトランペットでしょうか。こちらもそれぞれ2本くらいはいる感じがします。移勢とリフレインが印象的なモチーフを奏で、歌詞の隙間を埋めます。動と静が気味良くリズミカル。
ベースはエレクトリック・ギターとリズムを揃えます。4拍目オモテに着地するリズム形で、1小節ごとに息が整う感じがします。ダウンビート、指揮法でいったら叩きのリズムでしょう。土着質でクセになります。どっしりとした質量がありながらも、陽気に体が揺れ出す楽しげなリズム。
ドラムスのスネアもシックスティーンを刻みながら他のベーシックリズムと同調します。アクセントの位置をずらし、ベースやギターと一緒に4拍目オモテに着地するパターン。キックの位置も同調です。
シンバルの類はきこえません。シマリのあるバンドの音像のため、これは吉でしょう。その代わりといえるかはさておき、2小節ごとに4拍目ウラにヴィブラスラップが鳴ります。「カーッ」っとウッディで乾いた特徴のある音色で、私の大好物。『君は天然色』『さらばシベリア鉄道』など大滝詠一の楽曲でもしばしば登場する楽器です。氏も好んで用いたのかもしれません。
メイン・ボーカル、Dr.Johnは私の最も好きな歌声の持ち主です。マイク乗りの良い枯れた・しゃがれたエッジ。哀愁ある年季の入ったボディ。酒場で演奏し冗談を飛ばして一生を終える架空の主人公を思います。ひとつの私の理想です。
録音では別録りかもしれませんが、滑るようにトリッキーでグルーヴィーなピアノを弾き語るスタイルにしびれます。
青沼詩郎
2小節ごと4拍目裏に鳴るビブラスラップが私のツボ、『Iko Iko』を収録した『Dr. John’s Gumbo』(1972)。
『大阪ストラット(フルサイズ・アルバム・ヴァージョン)』を収録したアルバム『バンザイ』(1996)
これぞVibraslap。