君は天然色 40年ごしのMV

水面のゆらめき。ネオンの明滅。カメラに射す光輪。影が徐々にあらわれ、風景に色がついて塗り替わるようにシーンからシーンへとクロス。静止画を基調にしていますがカメラワークやレイヤーによる演出で映像はたえず動きます。リゾート地を思わせる舞台と、そこにいるネイティブや個性的な人物たちは情景と同等にフラットな存在で、主体性と現実味に乏しく浮遊(富裕?)感が漂います。喪失の先にある、今はまだここにない色づいた世界を思います。永井博のイラストレーション。映像制作は依田伸隆です。

について

作詞:松本隆、作曲:大瀧詠一。編曲は多羅尾伴内で、大瀧の変名です。1981年の大滝詠一のアルバム『A LONG VACATION』に収録され、シングルも同時発売。

このアルバムの発売予定日は、もともと大滝詠一の誕生日に合わせて1980年7月28日だったそうです。それが1981年3月21日になった理由は、ひとつには大滝が松本隆の作詞を待ったからといいます。この時期、松本隆は妹さんを亡くします。松本は他の人に作詞を依頼するよう大滝に伝えたそうですが、大滝が待つ意思を通しました。それで出来たのがほかでもない、『君は天然色』なのです。

サウンドリスニングメモ

チューニングの演出のオープニング。ピアノがカーンとラの鍵盤をたたき、管楽器やストリングスがふわ~んと音をすり寄せます。カンカンとちらつくボンゴのような音も聴こえます。ブツっとカットしてドラムスティックのカウントで音楽のはじまり。

ドラムス。4つ打ちのキックビート。サビでは2・4拍目それぞれウラにずらしたタイミングでスネアを打ってアクセントを分散しています。2小節ごとに派手にタム回し。ズダタタカタタカトトコト…

ベース。ピークがアタックより一瞬おくれてズワンと立ち上がる印象の分厚い低音です。ですがよく聴くとライン録りのようなダイレクトな輪郭も聴こえます。ライン+エアーで厚みを出した音作りかもしれません。ブンブンブンブン…と間奏ではビートを前に運ぶ4分音符ストローク。メロの折り返し(歌詞が♪別れの気配を…などのところ)でベーシックリズムが2拍3連になるところではウラにスラップ奏法のプル(指に引っかけて放した弦が指板にぶつかってベチン、ペキンと激しい音をたてる奏法)を交えてアクセントをつけています。

ピアノ。イントロから飛ばしていく1拍3連リズムが流麗で雄弁です。複数のマイクでスタジオの奥行きを含めて収録しているのか、またリバーブも効いてか厚みのあるサウンドです。特にエンディングのソロの終わり際などでは明らかに打点にズレが感じられるほど複縦した輪郭線を出しています。意図ですね。2メロ♪夜明けまで長電話して…などの後に、合いの手するように入ってくるフェイズがかったような揺れ・位相の変動のようなものを感じる独特のサウンドもピアノでしょうか? ここはオルガン類との判別が難しいです。

アコースティック・ギター。イントロ付近ではジャカジャカとワイドなサウンドのストロークが目立ちます。バンドの華やかで分厚い音像に溶け、以降の曲中では存在感は控えめ。ときおりチャキリといったストロークのアタック音が感じられます。

エレクトリック・ギター。ときおり合いの手で激しく歪んだサウンドが入ります。サビ前ではピックスクラッチがキュィーンと叫びます。間奏ではオルガンとタッチ交代するようにソロ。複数の弦でハーモニーと旋律を奏でます。2~3本の弦の同時ピッキングにゆっくりと時間差をつけて、スイープ、チョップ奏法のような感じで弾いています。テレキャスターかストラトのようなシャキシャキとした硬質なトーンに深い残響。サスティーンにコシを与える、積極的な音作りのためのコンプもかかっているかもしれません。サーフ・ミュージックのような風光明媚で開放的な演奏です。最後のサビの直前のピックスクラッチは「これがピックスクラッチなのか?」と耳を疑います(ピックスクラッチじゃないかも?)。まるで悲鳴のように甲高く、テープを引き延ばしたような伸びがあります。

オルガン。間奏のピーピーとピークの立った音色。また、メロ♪くちびるつんと尖らせて…などのフレーズにつづくカウンターのストロークもオルガンでしょうか。サビではピーピーという感じですが、ヒラウタのカウンターストロークでは厚みのある音づくりです。これらの音作りには幅があって、他の楽器との聴き分けのハードルを高めています。メリーゴーランドやパレードの音楽を思わせる絢爛な音もいますね。オルガンだと私は思いましたが、他の楽器かどうか…? ちなみに私はなぜか、これらのオルガン風の音に「野球」を感じます。なぜでしょう、どこかで何かの応援歌を聴いたときに、これに似た音が含まれていたのか…記憶の特定が難しくなんともいえません。

ボーカル。ダブリングしたサウンドです。2つのトラックの位相の違いによる揺れが心地よいです。音源が複数になるほど濁ってもおかしくはないのに、透き通って感じるから不思議です。立体感、奥行きが出るからそう感じるのかもしれません。もちろん、録り方がマズければ濁るのみでしょう。音との真剣勝負、そのすべてに勝利しているのではないかと思わせます。

演出的な音。間奏パターンの2・4拍目ウラ、それからヒラウタの歌につづく合いの手のところの2・4拍目に、なにか「パタン」「カタン」といった感じの音が聴こえます。はじめ、鍵盤楽器の打鍵音かと思いました。それにしては意図的にはっきりと入っている気がします。タイプライターのキーを打ち付ける音、もしくはその印字が入る瞬間の衝突音のような感じもします。思い至ったのは、スコアボードが書き換わる音。アナログの、札が次々に降りてきてパタパタと書き換わるやつです。ご想像いただけますでしょうか(空港で見たことがあるような、便名や時刻が書き換わるやつ?)。繰り返しますが、間奏のオルガンの音など、この曲はどことなく野球への余りある愛を表現しているように感じます。そう思うと、この「カタン」という由来不明の音が余計にスコアボードの音に聴こえてきます。

(実際には、私は間近でスコアボードが書き換わる音を聴いた記憶がありません。それなのに、不思議とそう思うのです。偏見、何かのバイアスでしょうかね。)

演出的な音2。カーンとホームランを放つバットと球体の轟くような音が聴こえます。1コーラス目♪別れの気配を…♪過ぎ去ったとき…、2コーラス目♪耳元にふれた…、3コーラス目♪今夢枕に君と会う…♪流れ出す虹の…など、ヒラウタの後半のところです。

演出的な音3。チュインッ ピュゥンッといった感じの短いシンセのような単純な波形の電子的な音です。正体はなんなんでしょうね。

演出的な音4。ずばり、パーカッションのビブラスラップです。「カーッ」と驚かすような唯一無二の音。放送音楽や劇伴の効果音として、突然何かが現れたシーンなどに音で印象づけるのに用いられる楽器の定番ではないでしょうか。ホームラン音(演出的な音2)の付近で1回ないしは2回ほど鳴らされます。

ボンゴ(?)。イントロ、ピアノがトニックコード(Ⅰ)を奏でたあとの折り返し、Ⅳ→Ⅴのところでタカタタカタタカタタカタと1拍3連を12発流し込んでいるような感じです。

サウンドリスニングの感想と余談、後記

とにかく、音の厚みがすごいです。澄み渡って感じるのは奥行きがあるからでしょう。

大瀧詠一はフィル・スペクター・サウンドを究めました。フィル・スペクターは、その録音手法を称してウォール・オブ・サウンドと呼ばれた名サウンドプロデューサーです。

ウォール・オブ・サウンドの秘密はひとつには、複数の楽器の音が複数のマイクロフォンにカブることにあります。

たとえば、楽器Aのために立てたマイクで楽器Aの音が収録できるのは当然です。ですが、楽器Aから離れた位置にあるほかの楽器を収録するために立てたマイクにも、楽器Aの音は入り込みます。これらの複数のマイクが収録した音が合わさると、立体的になるのです。この現象が、複雑に複数の楽器・複数のマイクロフォンのあいだで起こると…そのサウンドの厚み、壮麗さは跳ね上がることでしょう。

もちろん、適当にやたらめったらマイクを立てて音カブリをさせれば美しい音の壁が出現するわけではありません。望ましい音の壁を出現させるにはノウハウがあるに違いません。

フィル・スペクター・サウンドを研究した大滝が『君は天然色』の収録において、その手法をどれだけ真似たのか、あるいはどれだけ真似ずに独自の手法をとったのかはわかりません。

ザ・ロネッツ『Be My Baby』はウォール・オブ・サウンドの参考曲です。これを聴くに、立ち上がる音像の厚みに私は大滝詠一の『君は天然色』を感じます。いえ、本当は逆ですかね。大滝を聴いてロネッツを思い出すというのが時代の順番のはず。偉大なミュージシャンは、時代さえ逆転させてしまうのです。

青沼詩郎

『君は天然色』を収録した大滝詠一のアルバム『A LONG VACATION』(1981)

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』

ウォール・オブ・サウンド参考曲『Be My Baby』を収録した『Be My Baby : The Very Best of The Ronettes』

レコーディング技術の側面:つくり手の目線で名盤の制作に迫る内容が興味深い『名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書』(著:中村公輔、刊:リットーミュージック、2018年)。フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドについてもふれています。

ご笑覧ください 拙演